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趣味・教養

この素晴らしき世界|男性ヴォーカルがわかれば「ジャズ耳」は完成【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第26巻より 

文/後藤雅洋

「ジャズ耳養成マガジン」もいよいよ今号で最後です。私はちょっとしたきっかけでジャズの世界に入ったのですが、還暦を過ぎた今、ほんとうにジャズに出会ってよかったと思っています。理由は単純で、この歳になっても相変わらずジャズが好きだからです。つまり飽きない。というか、年を経るごとに好きになっていくような気がするのですね。趣味としてこれほど長持ちするものはないのではないでしょうか。ですから、みなさんにもぜひジャズの楽しさを身体で実感していただこうと思い、このシリーズを書き続けてきました。

ジャズの魅力をひとことで要約すると、「味わい」ということになろうかと思います。他の音楽ジャンルと違い、メロディや技巧は必ずしも第一義ではないのですね。ここが面白い。その半面、「味わい」という微妙な要素は、少しばかり「耳をそばだて」ないと聴こえてこないのです。しかしけっして難しいことではなく、ちょっとした「ヒント」で聴きどころを教えてもらえば「あ、そうか」と思うようなことばかり。私自身、先輩方や「ジャズ友」の何気ないひとことから、ほんとうにたくさんのミュージシャンの魅力に目覚め、次から次へと「お気に入り」が増え続け、結果、「飽きない」ということなんだと思うのです。

とはいえ、やはり「わかりやすい」ジャズと「とっつきにくい」ものがあるのは事実。一概にはいえませんが、今号のテーマ「男性ジャズ・ヴォーカル」は、とっつきにくいジャンルの最たるものではないでしょうか。周りを見渡しても男性ヴォーカルを愛好している方々は、ジャズ・ファンの中でもそうとうの「通人」揃い。私自身、男性歌手に開眼したのはジャズを聴き始めてかなり経ってからでした。というのも、最初に出会った男性ヴォーカルが1960年代当時人気のチェット・ベイカーで、その「中性的」とも思える「声質」の強烈なイメージが抜け切れず、「男性ヴォーカル」というものがわからなくなってしまったという個人的な事情もあるのです。面白いもので、そのあたり女性ファンはむしろ「直感的」にチェットの魅力を捉えていたといえるのかもしれません。とにかく彼の歌う「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」には、女性ファンのリクエストが殺到したのです!

ともあれ、ジャズの中でも女性ヴォーカルは比較的どなたでも馴染めるのに、男性ヴォーカルとなるとかなり敷居が高い。しかしこれにはじつにわかりやすい理由があるのです。それは、どちらかというとジャズ・ファンは男性が多いから! つまりわれわれ男性は思いのほか単純で、歌い手さんが女性だとそれだけで「贔屓」してしまうのですね。多少歌がヘタでも愛嬌があればいいとか、ジャケット写真で購入してしまうとか……。もちろんそれは趣味の世界のことですから、どちらもOK。しかし、割を食うのは男性ヴォーカリスト。少々歌が巧いぐらいでは見向きもされず、「極め付き」の個性がなければ評価の対象にすらなれないのです。このあたり、ポピュラー・ミュージックとは大違い。ポップス・ファンはおそらく男女ほぼ同数。その結果、イケメン歌手さんもアイドルさんたちと同じぐらい存在感を発揮している。

■聴きどころはインストと同じ

しかしそれだけが理由とも思えません。というのも、私自身振り返ってみても、ポピュラー・ミュージックでは、アメリカ勢ならポール・アンカやニール・セダカ、そしてイギリスに目を向ければ超大物ビートルズはじめ、かなり多くの男性歌手たちが私のお気に入りで、必ずしも女性歌手ならなんでもいいということでもありませんでした。このあたりにポップスとジャズの「聴きどころの違い」が潜んでいるようにも思えるのです。そこを掘り下げれば、おのずと「ジャズならでは」の魅力、聴きどころが見えてくるでしょう。とりあえずいちばんの違いは、やはり「曲」というものの位置づけの違いでしょうね。なんだかんだと言っても、やはりビートルズが注目されたきっかけは、当時としてはきわめて斬新な彼らのオリジナル曲の魅力が大きかったように思うのです。

ですから男性ジャズ・ヴォーカリストは数も少なく、その代わり、失礼ながら「綺麗なだけ」で保っているような一部の女性ジャズ・ヴォーカリストさんたちとは違って、みな実力派揃い。そしてその「実力」の中身を仔細に点検してみると、じつはこれまでにいろいろな角度から紹介してきたインストゥルメンタル(器楽)・ジャズ(以後、インスト・ジャズと略)の「聴きどころ」と同じなのですね。ただ、その表現方法が「声」に変わっただけ。ということは、男性ヴォーカルの魅力に開眼すれば、ジャズのすべてのジャンルをわが物にしたといえるのです!

つまり男性ヴォーカルはジャズ・ファンの最終到達地点といえるのかもしれません。また、この号では、ヴォーカル・チームも紹介しており、まさにジャズの全ジャンルを網羅したことになるのです。

付け加えれば、第7号の「女性ヴォーカル」で解説したジャズ・ヴォーカリストとポピュラー・シンガーの違いや、また黒人と白人の「声の質」の違いなどにも、改めてスポットを当て、またジャズ以外のジャンルではむしろ親しみやすい「歌」の魅力を出発点として、男性ジャズ・ヴォーカルの聴きどころをわかりやすく解説していこうと思います。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

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ア・デイ・イン・ザ・ライフ ~ミュージシャンとプロデューサーの役割分担

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この素晴らしき世界 ~男性ヴォーカルがわかれば「ジャズ耳」は完成

 

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