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処女航海|アドリブ手法を転換させた「モード・ジャズ」【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第15巻より

文/後藤雅洋

ジャズ史の6回目は〝モード・ジャズ〟と〝フリー・ジャズ〟です。このふたつのジャズ・スタイルは前回紹介した、〝ファンキー・ジャズ〟や〝ジャズ・ロック〟と違い、ダイレクトに現代ジャズに直結しています。〝ファンキー・ジャズ〟や〝ジャズ・ロック〟のスタイルで演奏するミュージシャンは、現在ではほとんどいません。しかし、モード奏法や〝フリー・ジャズ〟に影響を受けたミュージシャンは今でもごくふつうに見受けられます。

日本特有のジャンル分けだった〝ジャズ・ロック〟は別として、〝ファンキー・ジャズ〟も〝モード・ジャズ〟も、そしてまた〝フリー・ジャズ〟も、マンネリ化した〝ハード・バップ〟乗り越え対策という点では、同じ動機から生まれたジャズ・スタイルでした。そしてこれら3つのマンネリ打開の道筋は、順番に移行していったわけではなく、1950年代後半、同時多発的に起こった現象だったのです。

ひとつずつ見ていきましょう。まず「モード」です。「モード」というのは「旋法」などとも呼ばれていますが、みなさんご存じの「ドレミファソラシ(ド)」も、モードの一種で、各音階、各音符から始まり1オクターヴを駆け上がる7つの音のことを指します。これだけでは何のことかさっぱりわからないと思いますが、今回収録した〝フリー・ジャズ〟のオーネット・コールマン「フェイセス・アンド・プレイセス」を除く4曲と、第11号「ハード・バップ黄金時代」に収録された曲目を聴き比べてみてください。明らかに「雰囲気」が違って聴こえませんか?

それはアドリブを演奏する際に準拠する「ルール」が違うからなのです。ジャズの「即興演奏」は、一般に考えられているような「自由演奏」ではなく、〝ビ・バップ〟や〝ハード・バップ〟のように、コード進行というルールに基づいていたり、今回登場する〝モード・ジャズ〟のように「モード」という概念を利用するなど、「一定のルールの中での自由」なのです。短歌が「五七五七七」の中での自由だったり、俳句に「季語」が必要だったりすることとちょっと似ていますね。

熱心なジャズ入門者の方の中には「モードの原理を理解していなければ現代ジャズはわからないのでは?」と思っている方がおられるようですが、ここでも第9号「ジャズ史②」で説明したことが当てはまります。レシピの秘密を知らなくてもフランス料理が味わえるように、私たちリスナーは「演奏原理」を知らなくても、「聴こえ方の違い」さえ感じ取ることができれば、それで充分なのです。

■マイルスから始まり、新主流派へ

モード・ジャズの最初の演奏例は、一般には1959年に録音されたマイルス・デイヴィス(トランペット)のアルバム『カインド・オブ・ブルー』(コロンビア)が有名ですが、マイルスはすでにその前年58年に録音したアルバム『マイルストーンズ』(コロンビア)のタイトル曲で、モードの概念を利用したモード奏法を実践していました。何にしてもマイルスは先見の明があるのですね。

そして少し遅れて、テナー・サックスの巨人ジョン・コルトレーンも60年代に入るとモード奏法を取り入れた演奏をしています。ですから一般にモード奏法は60年代のマイルス、コルトレーンによって代表されていますが、ここにちょっとした落とし穴があるのです。私自身60年代にジャズを聴き始めたのでこの時代のマイルス、コルトレーンの演奏は馴染み深いのですが、ジャズを聴き始めたばかりの私にとって、ふたりの音楽はまったく別物に聴こえました。それには理由があります。第11号「ハード・バップ黄金時代」の解説を思い出していただきたいのですが、マイルス・デイヴィスやソニー・ロリンズ(テナー・サックス)のような大物は個性が強すぎるので、スタイルとしての〝ハード・バップ〟がわかりにくいと説明しましたが、同じことがここでもいえるのです。

つまり、マイルスやコルトレーンは50年代後半から60年代にかけ、「モード奏法」を用いた演奏をしているのですが、ふたりともジャズの巨人だけに強烈な個性があって、「演奏原理」より個性のほうが強く前面に打ち出されているのです。そのため〝モード・ジャズ〟という共通項がわかりにくかったのですね。

しかし、マイルスの演奏を時代を追って聴いていくと、たしかに59年あたりを境目として「音楽の響き」が変わっています。それは〝ハード・バップ〟から〝モード・ジャズ〟への移行の結果なのですね。同じことがジョン・コルトレーンにもいえるのですが、彼の場合、プラス・アルファの要素として、のちほど説明する〝フリー・ジャズ〟への関心もあって、そのあたりがふたりの音楽のテイストが極端に違って聴こえる理由でもあるのです。また、コルトレーンは演奏に非常に強い情感を込めるので、よけいスタイルより個性が際立ち、そのぶん「モード奏法=マイルスとの共通項」が見えにくいということだったのだと思います。

そこで、演奏原理の違いが音楽の響きの違いにダイレクトに結びついたマイルスの音楽から、マイルスという強烈なカリスマ性を取り除けば、「モード奏法」が見えやすくなる理屈です。お誂え向きのサンプルがあるのです。それが今回登場する60年代マイルス・コンボのサイドマンであるピアニスト、ハービー・ハンコックや、テナー奏者ウェイン・ショーターの演奏なのです。

同じようなことをコルトレーンの場合にも当てはめれば、60年代コルトレーン・カルテットのサイドマンであるピアニスト、マッコイ・タイナーの演奏にも、同様のことがいえるでしょう。ちなみに、彼らのことをひとまとめにして〝60年代新主流派〟などとファンは呼び習わしますが、これはなかなか便利な呼称で、「モード」といった難解な音楽用語抜きで、一定の演奏スタイルを指し示すことができるのです。

そして、ザックリと現代ジャズを総覧してみると、この〝60年代新主流派〟のスタイルを下敷きにした演奏が、ジャズ・シーンの主流を形成しているとみてほぼ間違いないように思います。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

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