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ザ・サイドワインダー|新しい波を起こした「ファンキー・ジャズ」【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第14巻より 

文/後藤雅洋

「ハード・バップ」に続くジャズ史の5回目は、「ファンキー・ジャズ」と「ジャズ・ロック」です。1961年のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの初来日を契機として、日本では爆発的ジャズ・ブームが起こりましたが、そのムーヴメントの中で今回のふたつのジャズ・スタイルが登場します。

本論に入る前にジャズ史のおさらいをいたしましょう。50年代前半、ニューヨークを拠点として興った若手黒人ジャズマンたちによる「ハード・バップ」は、「ビ・バップ」の発展形としてひとつの完成したスタイルを作り上げました。それはジャズの本質である「即興性」と「個性」を表現するための「よくできた入れもの」としての機能と、音楽としての完成度を兼ね備えた洗練されたスタイルでした。

このジャズ・スタイルは56年から57年にかけて最盛期を迎え、「モダン・ジャズ黄金時代」と呼ばれるほど多くの名盤を残しています。第11号「ハード・バップ黄金時代」で紹介した作品は言うまでもなく、第2号マイルス・デイヴィス(トランペット)の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」が収録されたアルバム『クッキン』(56年・プレスティッジ)や、第3号のソニー・ロリンズ(テナー・サックス)「朝日のようにさわやかに」収録の『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(57年・ブルーノート)など、それこそ枚挙にいとまがありません。

しかし「完成されたフォーマット」であるがゆえの限界もありました。それはマンネリ化です。多くのジャズマンが同じスタイルで演奏したため、しだいにどれもが似たようなテイストに感じられるようになってしまったのです。その結果、民族音楽のように固定化し「伝統芸能」となってしまう可能性もあったのですが、ジャズマンの発想はより柔軟で革新的でした。彼らは、さまざまな方向でマンネリ打開策を試みたのです。

それらの方策のうち、「黒人性」と「大衆性」を重視したのが今回のテーマ、「ファンキー・ジャズ」と「ジャズ・ロック」です。このふたつのジャズ・スタイルはジャンルとしての曖昧さや、相互に微妙に重なる部分もあったりするのですが、61年のザ・ジャズ・メッセンジャーズの音楽は、「ファンキー・ジャズ」として日本のファンに理解されました。また、そのときの来日メンバー、リー・モーガン(トランペット)の63年録音の作品「ザ・サイドワインダー」は、「ジャズ・ロック」という言葉が定着するきっかけとなったエポック・メイキングな曲です。

■ジャズの「黒人性」を取り戻す

まず「ファンキー」という言葉ですが、これは黒人ならではの生活文化に根ざす「アーシー(土臭い)」な感覚や、汗の飛び散るような感覚を意味し、要するに「ファンキー・ジャズ」は「黒っぽさ」を強調したジャズのことなのです。もともとが黒人音楽として誕生したジャズですが、平均律に調律された西欧楽器を使ったり、「コード進行」という西欧音楽由来の考え方をもとに即興をしたり、白人のミュージカルを題材とした「スタンダード」を取り上げるなど、ジャズは同じ黒人音楽であるブルースやゴスペルに比べ、思いのほか白人的要素が強い音楽なのです。

そこで、すでにこれら白人文化に骨がらみとなってしまったジャズの伝統を継承しつつも、「黒人性」を強調し、取り戻そうという一種の「揺り戻し運動」がファンキー路線であるとお考えください。この「ファンキー」という俗語がジャズに付けられたきっかけは、ホレス・シルヴァー(ピアノ)が56年に録音したアルバム『シックス・ピーシズ・オブ・シルヴァー』(ブルーノート)に収録された「セニョール・ブルース」に対して、レナード・フェザーという著名なジャズ評論家が「ファイン・アンド・ファンキー」と評したことに始まるとされています。

私たちが今この曲を聴くと、さほど「黒っぽく」は感じられません。しかし今回収録した61年録音の「フィルシー・マクナスティ」ともなると、いかにも黒人音楽的でアーシーな感覚が迫ってきます。つまりファンキー・ジャズマンたちの演奏は、50年代後半から60年代にかけ、少しずつファンキー色を強めていったのです。

このように「ファンキー」という形容は多分に気分的、感覚的なものなので、理論的に説明することが難しく、また、時期によっても「ファンキー指数」は異なっています。一般に「ファンキー・ジャズ」と呼ばれるジャズ・スタイルは、50年代末から60年代にかけて、ホレス・シルヴァー、アート・ブレイキー(ドラムス)、ボビー・ティモンズ(ピアノ)、キャノンボール・アダレイ(アルト・サックス)、ナット・アダレイ(コルネット)といったミュージシャンたちによって演奏された、一連の黒人性を強調したジャズ・スタイルとお考えいただければ充分でしょう。

ここで重要なことは、このスタイルは「一過性」なところもあって、同じミュージシャンが時期によってはごく普通のハード・バップ的演奏をしたりもしているところです。また、ひとことで「黒っぽい」といっても、アメリカに生活している白人と私たち日本人が同じように感じることは難しい。ですから、実際にファンキーであるとされた収録音源をお聴きいただいて、「なるほど、こういう感じを黒っぽいというのか」と実感していただければと思います。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

ワルツ・フォー・デビイ〜ジャズに親しむにはピアノ・トリオから

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