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クール・ストラッティン|モダン・ジャズの完成形【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第11巻より

文/後藤雅洋

100年に及ぶジャズの歴史の中で、1950年代半ばに絶頂期を迎えた“ハード・バップ”は、もっとも成功したジャズ・スタイルではないでしょうか。ある意味では、ひとつの「完成形」といってもよいように思います。というのも、現在も「4ビート・ジャズ」として親しまれている「ジャズ名盤」のうち、かなり多くの作品がこのスタイルで演奏されているからです。

代表的な例を挙げれば、第2号で紹介したマイルス・デイヴィス(トランペット)の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」、クリフォード・ブラウン(トランペット)の「ジョードゥ」そして第3号のソニー・ロリンズ(テナー・サックス)の「朝日のようにさわやかに」もまた、典型的“ハード・バップ”なのです。

「完成形」の意味を説明しましょう。ちょっとまわりくどい言い方ですが、「スタイルとしての完成形」は必ずしも「名演」を意味しません。要するにジャズを演る「入れ物」として優れているということなのです。このスタイルならば、「平均的ミュージシャン」でも、言い方は悪いかもしれませんが「そこそこの演奏」ができるのです。卑俗な言い方ですが、きわめて「歩留まり」がいい。

お断りしておきますが、前記の演奏例はすべて名演です。ただ、彼らのような超一流ミュージシャンではなくとも、かなり聴き応えのある演奏が可能なスタイルが、“ハード・バップ”なのですね。ですから「スタイルとしてのハード・バップ」を実感していただくには、マイルスやロリンズのような弩級ミュージシャンでは少々具合が悪い。

それは、次のような理由です。前出の演奏は紛れもないハード・バップ・スタイルなのですが、彼らの才能・表現力はスタイルという入れ物から「はみ出し」ているのです。ですから、私たちがこうした演奏を聴いて「いいなあ」と感じる要素の大部分が、彼らの「個人的才能」に負ったもので、相対的に「入れ物の形」が見えにくい。つまりは、スタイルとしての“ハード・バップ”を実感しづらいということなのです。

率直に言って、今号のタイトル曲「クール・ストラッティン」のスター、ソニー・クラークは、たいへん素晴らしいピアニストではありますが、その才能において、バド・パウエルには及びません。また、この演奏の「聴きどころ」でもあるアルト・ソロの担い手、ジャッキー・マクリーンもまた、チャーリー・パーカーには遠く及ばないのです。そもそも彼らはそれぞれ、パウエル、パーカーの「コピー」からスタートしているのですから……。

しかし、話はここからなのです。「にもかかわらず」彼らの演奏はパーカー、パウエルらの音楽に比べ、「それなりに」魅力的なのです。この「それなりに」こそが“ハード・バップ”の長所であり、聴きどころでもあるのですね。それに対し、即興への依存度が高い天才の音楽“ビ・バップ”は、一流と二線級ジャズマンの格差がかなり明瞭についてしまう。そもそも、“ビ・バップ”が発明された40年代では、このスタイルを理解し、演奏できるミュージシャン自体が限られていた。

■ビ・バップとは異なる勝負どころ

それでは、“ハード・バップ”とはいったいどのようなジャズ・スタイルなのでしょう。ひとことで言うと「洗練されたビ・バップ」が“ハード・バップ”なのです。余談ですが、私などはジャズを聴き始めたころ、「ハード」の語感に迷わされ、このスタイルの実態を少しばかり誤解していました。つまり「ハード・パンチを食らう」といった使い方の印象から「激しい」あるいは「強烈なビ・バップ」だと思い込んでいたのです。

しかし、大きな辞書にはこの用法は3番目ぐらいに出てきて、むしろ「堅固な」とか「しっかりした」が先に書いてある。そして、“ハード・バップ”はまさに「堅固でしっかりした構造のビ・バップ」といったニュアンスに近い(「ハードボイルド」の本来の意味が「固茹で卵」だったように)。

“ビ・バップ”では「コード進行に基づいた即興」というルールさえわきまえていれば、即興のもとになる「原曲」のイメージと「アドリブ」の与える印象に少々乖離があっても、そういうところには無頓着なのです。実際にパーカーなどの演奏では、「テーマのアンサンブル」はかなり「おざなり」で、むしろ勝負どころは「即興の切れ味一発」の感が強い。具体的に指摘すれば、テーマ部分から唐突に即興に突入する。まあ、そこがカッコよくもあり、また、それでも聴衆をノックアウトできたのは、パーカーの才能ゆえなのですが、こうしたやり方はまさに「天才の音楽」で、ふつうのミュージシャンには荷が重いのです。

では、どうするか。答えは常識的なもので、「テーマとアドリブを有機的に結びつけ、音楽全体としての統一感にも気を配る」という西欧音楽流の「基本」をジャズにも応用したのです。別の言い方をすれば、パーカーやパウエルは天才ゆえに「アドリブ」だけでも充分聴衆を満足させられたので、「曲想にも気を配った一般の音楽」の「オイシイところ」を少々なおざりにしていたのですね。で、その部分もちゃんとすれば、ふつうのジャズマンでも、かなり天才級のジャズマンの満足度に接近できるはず、というのが“ハード・バップ”の考え方なのです。

たとえてみれば、よいクラブを使えば、アマチュア・ゴルファーでもプロに近づける、といったニュアンスでしょうか。あるいは、「相対的に西欧音楽の発想に近づいたジャズ」ともいえるのかもしれません。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

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