歳を重ねると、血気盛んであった頃からすれば、角も取れて随分と丸くなったように思います。また、人生長く生きていれば、それなりに多くのことを学び、悟ることができたようにも感じます。

しかし、その一方で未だ多くを悟りきれていないことも自覚するものです。若い頃「もっと、勉強すればよかった」と後悔するのは、まだまだ、頭が柔軟な証拠。先人が残してくれた名言や諺から、若かりし頃とは一味も二味も違った学びや悟りが得られるのではないでしょうか?

今回の座右の銘にしたい言葉は「百発百中」(ひゃっぱつひゃくちゅう) です。

「百発百中」の意味

「百発百中」について、『デジタル⼤辞泉』(小学館)では、「放った矢や弾丸が必ず命中すること。計画や予想がすべて当たること」とあります。この言葉は、百回試みて百回とも的に当たるという意味です。

つまり、何度挑戦しても必ず成功する、失敗がないという確実性を表現しています。現代では、予測や計画がことごとく的中すること、あるいは物事を確実に成し遂げる能力を指して使われることが多いですね。

「百発百中」とは、まぐれ当たりを繰り返すことではありません。ある程度歳を重ねると「こうすれば、こうなる」という因果関係を、長年の経験則から理解しているのではないでしょうか。例えば、

・部下のちょっとした表情からトラブルの予兆を感じ取る。
・空の色を見て天気の変化を察知する。
・長年連れ添ったパートナーの言葉の裏にある感情を読み取る。

これらはすべて、皆様が生きてきた時間の蓄積による「的中」です。若い頃には見えなかった的(まと)が、今ならはっきりと見える。そして、無駄な力を入れずとも、自然とそこへ矢を届けることができる。この「無駄のない確実性」こそが、大人が掲げるべき「百発百中」の本質なのです。

「百発百中」の由来

この言葉の由来は、中国の歴史書『戦国策』。楚の国に養由基(ようゆうき)という弓の名手がいました。彼の腕前は神がかり的で、百歩離れた場所から柳の葉を射て、百発百中すべて命中させたという逸話が残っています。この故事から「百発百中」という言葉が生まれました。

『戦国策』に記された別のエピソードでは、蘇厲(それい)という策士が将軍・白起(はくき)に対して、この「百発百中」の故事を引用しながら、次のように警告しています。

「将軍は既に何度も勝ち続けてこられました。しかし、もしこの先の戦で一度でも失敗すれば、これまでの百発百中の成果がすべて無駄になってしまいます。だから無理をせず、ここで退くべきではないでしょうか」

養由基が百本すべての矢を命中させたという話は、その後の「たった一本の失敗」がいかに重大な結果をもたらすかを示唆するために引用されているのです。つまり「百発百中」という言葉の背景には、「圧倒的な技術」への称賛と同時に、「慢心を戒め、最後まで気を抜かない持続力」というメッセージも込められているのです。

「百発百中」を座右の銘としてスピーチするなら

「百発百中」を座右の銘としてスピーチする時は、過去の武勇伝として語るのではなく、「理想の姿」として語りましょう。以下に「百発百中」を取り入れたスピーチの例をあげます。

誠実さの積み重ねを語るスピーチ例

私の座右の銘は「百発百中」です。「百発百中」と聞くと、なんだか「私は絶対に失敗しない名人だ」と自慢しているように聞こえるかもしれませんね。ですが、私の解釈は少し違います。

この言葉は、中国の春秋時代、養由基という弓の達人が、百歩離れた柳の葉を百回射て百回当てたという故事に由来します。私が感銘を受けたのは、彼が「百回当てた」という結果そのものではありません。百回当てるためには、その前段階として、万全の準備、心の静寂、そして風を読む洞察力が、百回分必要だったはずだという点です。

若い頃の私は、数打てば当たるとばかりに、闇雲に矢を放っていた時期もありました。しかし、還暦を過ぎた今、私が目指したいのは「無駄撃ちをしない人生」です。

一つの約束、一つの出会い、一つの仕事。それら一つひとつに対して、丁寧に準備をし、誠実に向き合う。

「あの人に頼めば間違いない」「あの人の言葉には嘘がない」

そう言っていただけるような、信頼の「百発百中」を目指したいのです。 残りの人生、私が放つ矢の数は、若い頃よりずっと少なくなるでしょう。だからこそ、その一本一本を大切にし、皆様の心という的に、感謝と誠意をしっかりとお届けできるような生き方をしていきたいと思います。

最後に

四字熟語の面白さは、見る人の年齢や境遇によって、その味わいが変わるところにあります。20代で聞く「百発百中」は、プレッシャーだったかもしれません。中高年が口にする「百発百中」は、自分自身への静かな誓いです。

それは、決して全知全能になることではありません。自分の手の届く範囲、自分の守るべき領域において、確かな仕事をし、確かな愛を注ぐこと。その積み重ねが、結果として「百発百中」の信頼につながっていくのではないでしょうか。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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