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ワルツ・フォー・デビイ|ジャズに親しむにはピアノ・トリオから【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第1巻より

文/後藤雅洋

ジャズの聴きどころのコツを掴む「ジャズ耳」養成マガジン『JAZZ100年』(小学館)の冒頭にピアノ・トリオの巻を置いたのには、いくつかの理由があります。

まず、多くの音楽ファンにとって、ピアノの音色は聴き慣れているということ。私自身、小学生のころ、音楽の先生が歌いながら弾くピアノの演奏を聴き、その豊かな音色に魅了され「ああ、音楽って素晴らしいなあ」と思ったものです。

次いで、おおよその音楽ファンがいちばん最初に注目する音楽要素が、「旋律=メロディ」だという事実です。本来が打楽器であるピアノは、その構造からして音の立ち上がりが明瞭なので、旋律がとても聴き取りやすいのです。

こうした理由から、ジャズというちょっと「敷居が高い」と思われている音楽ジャンルに、もっとも近づきやすいルートとしてピアノ・ジャズを選びました。

ところで、「敷居が高い」と思われている理由を多くの音楽ファンの方々に尋ねると、意外な答えが返ってきました。それは「いろいろな音がごっちゃになっていて、何がなんだかわからない」というものです。

たしかに思い返してみると、私自身ジャズを聴き始めたころは、多くの聴き慣れない楽器の音が入り混じったジャズの演奏は、「わけがわからない」ものでした。ですから、じつはジャズで重要な役割を果たす楽器、トランペット、サックスなどの演奏は、まずピアノでジャズの聴きどころに慣れていただいてから……と考えたのです。

その音色に馴染みがあり、旋律が聴き取りやすく、そしてメロディを演奏する楽器がピアノしかないピアノ・トリオは、ジャズに最初に親しむにもっとも適しているのです。

■ピアノ・トリオはジャズの基本

とはいえ、のちほど詳しく説明しますが、ピアノ、ベース、ドラムスの3つの楽器によって演奏されるピアノ・トリオは、ジャズの基本構造をすべて備えてもいるのです。

加えて、この「ジャズ耳」養成マガジン『JAZZ100年』第1巻で紹介するバド・パウエル、ビル・エヴァンス、そしてオスカー・ピーターソンは、親しみやすさと同時に、ジャズの奥深い本質を体現したジャズの巨人たちなのです。

『JAZZ100年』第1巻のテーマは、ジャズに興味関心を抱きつつも「敷居の高さ」を感じておられた音楽ファンの方々に、まずジャズに親しんでいただくことが目的です。ですから、「ワルツ・フォー・デビイ」「クレオパトラの夢」など、ごく普通の音楽ファンにとっても親しみやすくメロディが美しい曲、わかりやすい曲目を選んでいます。

つまり、一般的な音楽ファンがもっとも重視する「メロディ」からジャズに近づいていただこうという作戦です。

しかし、じつをいうと、ジャズにおいて「メロディ=曲」は、二次的なものなのです。ジャズの本質を捉えたとされる名言に「ジャズに名演あって名曲なし」という、ちょっとヒネった格言があります。

いったいどういうことなのでしょう。それは、ジャズにおいては「演奏の仕方」が大切であって、その良し悪しによって「曲の魅力」もまったく異なったものとなってしまう、ということなのです。

しかし、よく考えてみればこれは当たり前のことで、必ずしもジャズに限った話ではありません。

■名曲は名演によって生まれる

たとえば、みなさんが還暦を超えていらっしゃれば、美空ひばりの名唱「りんご追分」を覚えておられるかと思いますが、あの曲が「名曲」として私たちの心を捉えたのは、美空ひばりという天才歌手が歌ったからではないでしょうか。

同じように、もう少し下の世代なら必ず聴いた、ビートルズの「ヘルプ!」や「イエスタデイ」が名曲として記憶に残っているのも、ジョン・レノン、ポール・マッカートニーといった、新時代の到来を予感させる圧倒的個性の持ち主が歌ったからであり、1970年代にまで下れば、ユーミンこと荒井由実の「ひこうき雲」もまた、彼女の「歌謡曲を超えた」斬新な歌唱が私たちの心を捉えたのだと思います。

つまり私たちが習慣的に「いい曲だね」と言い習わしているものも、無意識のレベルでは、「誰それの歌った名唱」を心に思い描きつつ「名曲」と称しているのではないでしょうか。

「いい歌だなあ」という言い方がありますよね。これはその辺りの機微を巧みに言い表しているのではないでしょうか。「歌」は、曲目のことでもあり、同時に優れた歌唱を指してもいるのです。

その後カラオケ時代を迎えると、「誰が歌っても映える曲」が注目を集めるようになりましたが、ジャズは、「曲が歌い方によって活きもするし死んでしまうこともある」という側面を重視している音楽ジャンルである、といえば、おわかりいただけるのではないでしょうか。

「いい歌」はもちろん「いい演奏」に通じます。ジャズの世界の言い方では、「名曲は名演によって生まれる」のです。

この『JAZZ100年』第1巻では、ジャズの巨人といわれた名人たちが、どのようにして「曲を活かしているのか?」ということに焦点を当てつつ、ジャズの魅力に迫っていこうと思います。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

ワルツ・フォー・デビイ〜ジャズに親しむにはピアノ・トリオから

マイ・ファニー・ヴァレンタイン〜なぜトランペットは「ジャズっぽい音」か

朝日のようにさわやかに〜ジャズ入門の近道は「聴き比べ」にあり

チュニジアの夜〜テナー・サックスがジャズの花形楽器になった理由

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