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ラウンド・ミッドナイト|個性のぶつかり合いから生まれるジャズ【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第21巻より

文/後藤雅洋

大物同士の顔合わせはどんな世界でも興味深いもの。「2大スター夢の競演」などというキャッチフレーズに釣られ、財布の紐を緩めた方々も多いはず。古くは1939年に公開された大作映画『風と共に去りぬ』で、クラーク・ゲーブルとヴィヴィアン・リーという大スターが共演しましたが、この名作は世界じゅうで大ヒットしました。時代を下れば、フランク・シナトラはじめ、サミー・デイヴィスJr.、ディーン・マーチンといった錚々たる連中が出演した『オーシャンと11人の仲間』(60年製作)も大いに話題を集めましたね。2001年には現代の大スター、ジョージ・クルーニーとブラッド・ピット、そしてマット・デイモンらが出演した『オーシャンズ11』という、豪華なリメイク版も出ています。

ジャズもまたしかり。ただし、ジャズならではの「条件」が付くのです。いくら有名でも、マイルス・デイヴィス(トランペット)とジョン・コルトレーン(テナー・サックス)の組み合わせは「大物同士の顔合わせ」とは言わないのです。どうしてでしょう? ヒントは『風と共に去りぬ』はOKですが、『オーシャンと11人の仲間』はアウト。もうおわかりですね。『オーシャン~』は「シナトラ一家」といわれた「お友達チーム」で作った傑作。そしてコルトレーンはマイルス・クインテットのサイドマンでした。

他方『風と共に~』のクラーク・ゲーブルは、アカデミー賞主演男優賞を受賞した大スターであるのに対し、ヴィヴィアン・リーはイギリスの舞台女優出身。ゲーブルとの組み合わせ自体、話題性をもっていたのです。つまりジャズでは、チャーリー・パーカー(アルト・サックス)とディジー・ガレスピー(トランペット)の〝ビ・バップ〟・コンビのように志を同じくしていたり、マイルス、コルトレーンのように常時共演している組み合わせは、習慣的に「顔合わせ」とは言わないようなのです。要するに「意外性」が求められているのですね。言ってみれは「異種格闘技」に対する関心に近いものがある。「ライオンと虎、もし戦わば」みたいな、少しばかり無邪気な興味と言ってもいいかもしれません。

■異種格闘技にはルールが必要

とはいえ、この関心、必ずしもジャズの本旨から外れているわけでもありません。そもそもジャズはアフリカン・アメリカン特有のフィーリングと、西欧音楽の「異種格闘技」だったのですから……そしてジャズが生まれてからも、ラテン・ミュージックやロックなど、異なるジャンルの「美味しいところ」をジャズは巧みに取り入れてきたのでした。もっとも、アントニオ猪木対モハメッド・アリ戦のように、寝転がって有利な寝技に誘う猪木と、その手は喰わないとあくまで立って戦うアリの対戦は、本人たちは真剣でも観ているほうはあまり面白くありませんでしたね。大物同士なら何でもいいというわけでもないのはジャズも同じ。

フリー・ジャズ・ピアノの創始者、セシル・テイラーと、これまた過激な演奏で名を上げたテナー・サックスの巨人ジョン・コルトレーンという、まさに夢のような共演アルバム(『ハード・ドライヴィング・ジャズ』[ユナイテッド・アーティスツ])があるのですが、期待したような「竜虎相搏つ白熱の対決」とはなっていません。難しいものです。異種格闘技にもなんらかのルールが必要なように、いくら大物同士でも、お互いの音楽観、ジャズ観があまりにも異なっていると、どちらかが相手に合わせる「予定調和」か、あるいはまったくの「つぎはぎ演奏」にならざるをえないのかもしれませんね。

「格闘技」といえば、その名も「テナー・バトル」というまさしく楽器による戦いのジャンルがありますが、これも今回のテーマからはちょっと外れます。代表的なのは、第9号に登場したデクスター・ゴードンとワーデル・グレイのテナー・サックス対決です。これも「顔合わせ」には違いないのですが、習慣的に「バトルもの」というジャンルに組み込まれ、ほかにもデクスター・ゴードンとブッカー・アーヴィンの対決など、いくらでもあります。2大テナーといわれたソニー・ロリンズとジョン・コルトレーンが共演した『テナー・マドネス』(プレスティッジ)なども、この括りに入るでしょう。

話を戻せば、〝ビ・バップ〟におけるパーカー、ガレスピー、あるいは〝ハード・バップ〟時代のマイルス、コルトレーンの組み合わせは、「予定調和」でもなければ、もちろん「つぎはぎ」でもありません。それは〝ビ・バップ〟では「コード進行による即興」という発想の共有があり、〝ハード・バップ〟ともなると「音楽的方向性」の一致という、メンバー間の意思統一がグループ成立の条件となっていました。ということは、レギュラー・グループではないけれども、なんらかの音楽的に共有できる部分があり、なおかつ、できれば1+1が3にも4にもなるような組み合わせが求められていることになります。

今回のテーマは、そうした好ましい「大物同士の顔合わせ」を取り上げ、聴きどころを探るとともに、それぞれの大物たちの持ち味をじっくりと堪能していただこうという趣向です。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

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