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グルーヴィン・ハイ|ジャズを変えたビ・バップ革命【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第9巻

文/後藤雅洋

みなさん何気なく「モダン・ジャズ」や「ジャズ」という言葉を使い、その違いなどさして気にすることはないと思います。しかし厳密にいえば両者は中身が違うのです。

「ジャズ」は『JAZZ100年』のタイトルどおり、現在に至るこの音楽ジャンル全体を指しますが、「モダン・ジャズ」は今号のテーマである”ビ・バップ”以降のジャズのことを意味するのです。

1940年代の中ごろ、チャーリー・パーカー(アルト・サックス)とディジー・ガレスピー(トランペット)のふたりによって発明された新しいジャズ・スタイル”ビ・バップ”は、あまりに革新的だったので、当時大流行だった”スイング・ミュージック”との違いを際立たせるため、「最新のジャズ」という意味で「モダン」の言葉を頭にくっつけました。それ以降、おおよそ60年代あたりまでのジャズ・スタイルを「モダン・ジャズ」と総称するようになったのです。列挙すれば、”ビ・バップ” ”クール・ジャズ” ”ウエスト・コースト・ジャズ” ”ハード・バップ” ”ファンキー・ジャズ” ”モード・ジャズ” ”フリー・ジャズ”あたりまででしょうか。

またたんなる習慣でしょうが、70年代に流行った”フュージョン”はじめ、マイルス・デイヴィス(トランペット)やウェザー・リポート(グループ)などによる”エレクトリック・ジャズ”以降のスタイルは、「モダン・ジャズ」とは言わなくなりましたね。たしかに命名から20年以上も経ってしまえば、「最新の」という言い方自体が古臭い。

ともあれ、ジャズ100年の歴史の中で、わざわざ「最新の」という形容詞を付けたくなるほどの大きな変化が、この”ビ・バップ革命”だったのです。改革の中身は純粋に音楽的なもので、要するに即興的要素の増大と複雑化がいちばん大きな変化でした。また、それに伴ってリズムもより複雑化し、いわゆる「4ビート・ジャズ」が誕生したのです。

その結果として、もともと大衆芸能音楽として誕生したジャズが、芸術音楽としての傾向を強めていったのです。それまで隆盛を極めたビッグ・バンド・ジャズは、ダンス・ミュージックとしての側面も備えていましたが、ビ・バップ以降は演奏も複雑化し、またスピードも速くなって、ダンスには適さなくなってしまったのです。

ただ、こうした大きな変化の背景には、社会的な事情もありました。それは戦争です。1939年ドイツ軍のポーランド侵攻で始まった第二次世界大戦は、41年の日米開戦によってアメリカ本土にも影響を及ぼし、ジャズマンの仕事場でもあったダンス・ホールなどの娯楽施設の閉鎖を伴う「戦時体制」が始まりました。

その結果、規制逃れの小規模「ジャズ・クラブ」がニューヨークの52丁目界隈に誕生し、狭い場所でも演奏できる、せいぜい7人ぐらいまでの「スモール・コンボ」(小編成バンド)が隆盛を極めたのです。

それが主たる原因ではないにしろ、演奏人数の縮小と即興的要素の増大は無関係とはいえないでしょう。早い話、10人以上のメンバーがふつうであるビッグ・バンドでは、アンサンブルのための譜面が必要で、それはすなわち「即興」部分は限定されるということです。それに対し、少人数ならば、簡単な事前打ち合わせだけで演奏が始められ、そこからひとりずつが抜け出して順番に”アドリブ”をとる”ビ・バップ”スタイルは、比較的やりやすいといえるのです。もちろん「即興」の中身は複雑怪奇なのですが……。

その「即興演奏」について、初めに大切なことを申し上げておきます。長年多くのジャズ入門者と話してきて感じることは、みなさん共通の誤解があるのです。それは「ジャズは、アドリブの原理が理解できなければ楽しめないのでは?」という根強い思い込みです。

■“頭”ではなく”ジャズ耳”で聴く

もちろんミュージシャンは即興の仕組みを知らなければ演奏できませんが、聴き手にはその必要などまったくないのです。早い話、みなさん「フォン・ドゥ・ヴォー」の作り方ってご存じですか? あるいは、画像デジタル処理の技術はおもちでしょうか? おそらく大多数のみなさんは、そんなことは知らずともフランス料理を堪能し、CGが多用されたハリウッド娯楽映画を楽しんでおられることと思うのです。同じことなのですよ。フランス料理の基本となる「だし」の作り方など知らずとも料理は味わえるし、映画製作のノウハウなど知らずとも画面に没入できる。同様にアドリブの複雑な原理など知らずともジャズのスリル、醍醐味は満喫できるのです。

美味しい「フォン」を作るには歴代フランス料理人の知恵と努力がかかってますが、それは「食べる人の味覚」に訴えるためです。同じように、パーカーやガレスピーが高度のアドリブ技法を開発したのも、それによって「聴き手の感覚」を興奮させ、スリルを与えることに目的があるのです。

よくある誤解に、「アドリブが凄いのは、それがきわめて高度な技術だから」というものがありますが、これもまったくの勘違い。目的と手段を取り違えています。いくら高度なテクニックを使っていても、美味しくなけりゃすぐ料理屋は潰れてしまうように、信じられないほど難解で高度なロジックを駆使しようとも、聴いてつまらなければそんな音楽には一文の価値もないのです。

要するに、パーカーらの「発明の価値」は「聴いて凄い」というところにあって、その複雑な原理や高度な演奏技術にあったわけではありません。ですから私たちファンは、その「仕組み」を知る必要などなく、ただひたすら彼らの音楽の生々しさ、スリルを堪能すればよいのです。それはこの講座が「ジャズ耳養成」であって「ジャズ頭養成」ではないことの理由でもあるのです。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

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