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フル・ハウス|ジャズとブルースは兄弟として育った【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第22巻より

文/後藤雅洋

ジャズはフィーリングの音楽といわれています。ジャズ・ファンに「どこがいいの?」と尋ねても「フィーリングだからねえ」などと返され、話が終わりになってしまう経験をされた方も多いのでは……。しかし、せっかくならジャズ・ファンが聴きどころとする、さまざまな「好ましいフィーリング」を実感していただきたいのです。幸い本誌にはCDが付いているので、実際の音に寄り添いつつ、なかなか言葉で説明しづらいふたつの重要な「フィーリング」を紹介しようと思います。それは「〝ブルージー〟な気分」と「〝グルーヴィー〟な感覚」です。

〝ブルージー〟は文字どおり「ブルースっぽい」感じと思っていただければよいと思います。ところで問題は「ブルース」です。日本では、淡谷のり子が日中戦争の始まった1937年に歌った「別れのブルース」が大ヒットし、「ブルースの女王」として知られています。また、森進一の69年の大ヒット曲「港町ブルース」など、ブルースと名付けられた多くの楽曲がわが国では親しまれていますが、それらは音楽ジャンルとしては「演歌」や「流行歌」に分類されるもので、アメリカのブルースとはちょっと違うものなのです。

有名な「セントルイス・ブルース」の作曲者とした知られたアフリカ系アメリカ人W・C(ウィリアム・クリストファー)・ハンディは、「ブルースの父」と呼ばれています。ですから彼がブルースを作ったのかというと、これがそうではないのですね。なんと彼はブルースを「発見」したというのです。不思議な話ですね。

1903年のある日、アメリカ南部ミシシッピ州の駅で、遅れた列車を待ちながらウトウトしていたハンディは、世にも不思議な音楽を耳にしました。痩せてボロを身にまとった黒人が、ギターでこれまで聴いたことがない奇妙な音楽を奏でたというのです。これが「ブルース」だったのですね。クラシックの素養があったハンディは、のちに自分でも「メンフィス・ブルース」(1912年)というブルースを作曲し、ブルースという一風変わった音楽ジャンルを全米に広め、そのために「ブルースの父」と呼ばれたのです。つまり「ブルース」は、そのころの黒人たちにとっても一部の「知られざる音楽」だったのですね。

ブルースは一般に4小節からなる同じ旋律Aを2度くり返して歌い、最後に4小節のオチ、Bを付けるA A B形式で合計12小節の音楽とされていますが、近年は南部白人が歌っていた16小節のフォーク・ミュージックに源流を求める研究などもあり、必ずしも絶対的な形式ではないようです。ここでもジャズと同じように、白人音楽が黒人たちの音楽活動に少なくない影響を与えていることがうかがえます。

そしてむしろ、ブルースマンの歌い方に特徴的な、ドレミファソラシドの「ミ」「ソ」「シ」の音程が微妙に下がる、「ブルーノート音階」の醸し出す、長調とも短調ともつかない揺れ動くような微妙な「音楽の気分」が、いわゆる〝ブルージー〟の源泉といえそうです。

また、コードが3つしか使われないシンプルな構造のため、初めて出会ったミュージシャンでも「ブルースをやろう」と言えば、ただちに共演が可能だったので、ジャム・セッションなどではさかんにブルースが演奏されました。つまりブルースはミュージシャンの「共通言語」の役割も果たしたのですね。

■〝ブルージー〟は気分の表現

ブルースはアメリカ中南部、ミズーリ州、カンザス州、オクラホマ州、アーカンソー州、テキサス州、ルイジアナ州北部あたりでさかんに演奏され、この地域は「ブルース地帯」などとも呼ばれています。そしてミズーリ州に属するカンザス・シティは、〝ビ・バップ〟の創始者であるアルト・サックス奏者、チャーリー・パーカーがアイドルとした、テナー・サックスのレスター・ヤングを擁するカウント・ベイシー楽団の本拠地でもありました。そしてミズーリ州は、ジャズ誕生に少なからない影響を与えたラグタイムの中心地でもあり、この地でラグタイムやらブルースといったさまざまな音楽が創成期の「ジャズ」に流れ込んでいったのです。

また、ブルース地帯から出てきてカンザス・シティで育った「シャウト唱法」(絶叫型の歌い方)が、ニューヨークのハーレムにまで進出し、のちにリズム・アンド・ブルース(R&B)となるのです。そしてR&Bはロックン・ロールの生みの親でもありましたね。

ですから、アメリカの黒人が彼らの日常生活をシンプルな旋律に乗せて歌ったブルースの、哀愁を帯びたイメージを借りた日本の「ブルース」は、音楽としては別物だとしても、「気分」としてはどこかしら似たものがあったといえるのかもしれません。ただ違いもあって、日本の「ブルース」がどちらかというと情緒纏綿とした哀愁路線一本やりでマイナー・ムードを強調しているのに対し、本場ものはもう少し気分の幅が広い。それは、「ブルーノート音階」の「長調と短調の中間的感覚」が影響しているのかもしれません。しいて言葉にすれば、ちょっと憂鬱(ブルー)だけれども必ずしも「悲しみ」だけではなく、それ自体をちょっと斜から眺めているような、「クール」な視線を含んだ「重層的気分」とでもいったらよいでしょうか。

また、ジャズで演奏される「ブルース」は必ずしもブルースそのものではなく、そうとうに洗練、ジャズ化されていて、必ずしも〝ブルージー〟とは聴こえないものもずいぶんとあります。ですから、ここで紹介する「“ブルージー”な演奏」は、黒人音楽特有の「哀感」と、それ自体を「眺めて」いるような「達観」にも似た独特の気分を巧みに表現している演奏だとお考えください。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

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