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ジャンゴ|エレクトリック・ギターの出現【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第18巻より

文/後藤雅洋

楽器の中でいちばん身近なものといえば、ギターではないでしょうか。比較的安価で持ち運びも容易。ほんとうに巧くなるのは大変でも、手軽にコードを鳴らすことができるのでちょっとした歌の伴奏程度なら2~3カ月も練習すればなんとかなる。

日本でも1960年代にザ・ベンチャーズの影響で多くの少年がエレキ・ギターに夢中になり、TV番組『勝ち抜きエレキ合戦』(65年放映開始)は多くのロック・バンドを生み出しました。80年代も後半になって登場した人気TV番組『三宅裕司のいかすバンド天国』は、同趣旨のアマチュア登竜門番組でした。

ギター・ブームはロックだけでなく、60年代にはジョーン・バエズやピーター・ポール&マリーといった人気フォーク歌手の影響でギターを演奏する愛好家も多かった。また、フランス映画『禁じられた遊び』(ルネ・クレマン監督 53年日本公開)のテーマ曲、ナルシソ・イエペスの弾く「愛のロマンス」が大流行し、ひそかにこの曲を練習したアマチュア・ギタリストは大勢いたはず。そうそう、そのころはまだ夜の街で見かけた「流し」の歌い手さんたちも、ギターひとつで哀愁を込め、歌謡曲や演歌を歌っていました。

ギターの源流はリュートという弦楽器で、中世からバロック時代にかけヨーロッパで演奏された古楽器です。その大もとを辿ると、当時の文明の中心地、アラブ世界にまで行き着くと言われています。日本の琵琶も、同じ地域からシルクロードを通り、東回りで極東の地にたどり着きました。ギターの仲間は世界じゅうに広まっているのですね。ですからヨーロッパではロドリゴ作曲の「アランフェス協奏曲」などのクラシックや、スペインのフラメンコ、日本ではフォーク・ソングにも演歌にも使えるというわけです。そして20世紀にエレクトリック・ギターが開発されると、大音量のロックになくてはならない楽器となったのです。

それではジャズではどうだったのでしょう。意外なことに、アメリカ合衆国にギターが伝わったのは、それほど古いことではないようです。そしてここでも、第6号で紹介したラテン世界が登場するのです。メキシコ湾に面したニューオルリンズがジャズ誕生の地だったのは、この港湾都市が「ラテン世界に向けて開いた窓」であったことが大きく寄与していましたが、ギターもまた19世紀になってからメキシコなどのラテン世界からの移入品でした。

安価、簡便ということも手伝ってギターは黒人ブルースマンの格好の楽器となり、お馴染みのギターによるシンプルなブルースが誕生したのです。そしてブルースは同じ黒人音楽であるジャズに大きな影響を与えたのはご存じのとおり。ところで第6号に掲載された初期のジャズマン、ジェリー・ロール・モートン(ピアノ)の演奏写真にギターに似た楽器が写っていますね。しかし「胴」が丸い。これはバンジョーで、アフリカ起源の楽器をアメリカの黒人たちが改良したものです。大きくみればギターの仲間といってよいと思います。音は第8号に収録されたルイ・アームストロングの「ハロー、ドーリー」で聴くことができます。賑やかな音がするのでニューオルリンズ・ジャズではさかんに使われましたが、しだいにギターに取って代わられました。

■〝大音量〟がギターを変えた

しかしギターもすぐにジャズに馴染んだわけではありません。想像のとおり「音量」がネックとなったのです。美しいけれど穏やかなアコースティック・ギターの音色では、とうていドラムスの出す大音量には勝てません。それが解決されたのがピックアップ・マイクの開発です。30年代に入り、有名なギター・メーカー、ギブソン社などからアンプによって音量を増幅できる〝エレクトリック・ギター〟が市販され、モダン・ジャズ・ギターの父ともいうべきチャーリー・クリスチャンがこの新楽器を引っさげて登場したのです。

それまで、ピアノのようにコードをリズムカルにかき鳴らせる利点から、ピアノとともにリズム楽器の扱いを受けることが多かったギターが、トランペットと同じように力強くメロディ・ラインを演奏しはじめたのです(こうしたいきさつは、第1号に登場したバド・パウエルが、ジャズにおけるピアノの位置づけを変えたことと似ていますね)。その中で傑出した表現力をもっていたのがクリスチャンだったのです。彼は第8号で紹介した人気白人スウィング・バンド、ベニー・グッドマン楽団に、当時としては画期的だった黒人として参加し、素晴らしい演奏でファンにジャズ・ギターの魅力を知らしめたのです。

残念なことに、彼は25歳の若さで病死してしまいましたが、ジャズ史におけるエポック・メイキングな場面に登場しているのです。第9号に登場した〝ビ・バップ〟揺籃の地『ミントンズ・プレイハウス』のセッションに顔を出し、トランペットのディジー・ガレスピーなど、のちにビ・バップ革命を起こすミュージシャンたちと共演しているのです。40年代初頭のことでした。クリスチャンの演奏はまだ過渡期で〝ビ・バップ〟そのものではありませんが、チャーリー・パーカー(アルト・サックス)が影響を受けたというテナー・サックス奏者、レスター・ヤングを彷彿させるモダンなフレーズは、彼以降のジャズ・ギタリストに絶大な影響を与えました。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

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