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死刑台のエレベーター|ジャズの〝新しい波〟【ジャズ耳養成マガジン JAZZ100年】第12巻より

文/後藤雅洋

ジャズと映画、たいへん楽しそうなテーマです。私も若いころ、日活アクション映画に登場する、ナイト・クラブでジャズ・バンドを背景にヒーローたちが大活躍するシーンで、「ジャズって、カッコいい音楽だなあ」と思ったものです。

じつをいうと、ジャズと映画は20世紀を代表するアメリカ文化なのですね。ハリウッドを中心としたアメリカ映画は、20世紀娯楽産業の牽引車であり、アメリカ政府は経済的にも、対外文化政策のうえでも映画産業を積極的に後押ししていました。

プロパガンダとまでいっては言い過ぎかもしれませんが、国威発揚的な映画には戦闘機や空母など、莫大な運用費がかかる兵器でも惜しげもなく撮影用に供与しました。また貿易収支に益するよう、ディズニー作品などの著作権を延長させようとしたり、かなり政治的な動きを見せたりしています。アメリカにとって映画は、たんなる「娯楽」以上の存在なのですね。

ジャズもまた、当初こそは黒人のマイナー音楽として一部のマニアの愛好物にすぎませんでしたが、ある時期からアメリカ人自身がこれを自国の固有文化と見なし、積極的に擁護・支援する姿勢を見せています。

ですからこのふたつが結びつくのは当然のように思えるのですが、最初の出会いは少々一方的だったような気もします。それは第10号「ウエスト・コースト」のところでご紹介したように、1950年代前半、映画音楽の商業的価値に気づいたハリウッドが、積極的にこの部門を強化したことに始まります。その結果としてスタジオ・ミュージシャンの需要が増え、ジャズマンがその役割を果たしたという話を思い出してください。

当然ジャズ自体も映画音楽に登場するようになりましたが、『グレン・ミラー物語』(54年公開)や、コルネット奏者、レッド・ニコルズの半生を描いた『五つの銅貨』(59年公開)のように、正面からジャズマンを描いた作品以外は、どちらかというと「イメージ的」な使われた方が多かったようです。とはいえ、この潮流がジャズ、そしてジャズ・ミュージシャンにとってプラスであったことは間違いないでしょう。

同じころ、日本でもジャズを使った映画が生まれました。戦後日本を象徴する国民的映画スター、石原裕次郎の代表作『嵐を呼ぶ男』(57年公開)です。この映画は、ジャズ・ドラマー役を演じる裕次郎のアテレコ(吹き替え)に屈指のジャズ・ドラマー、白木秀雄が起用されていました。しかし観客の関心は裕次郎の歌や、時代に先んじたヒーローぶりに集中していたようです。私も記憶にあるのは「♪おいらはドラマー~」という有名なフレーズでした。要するに、日米ともジャズはまだ「効果音楽」的な扱いだったのですね。

■無意識に感じられるジャズの魅力

そうした風潮に風穴を開けたのがフランスの〝ヌーヴェル・ヴァーグ〟でした。日本語に訳せば「新しい波」となるヌーヴェル・ヴァーグは、50年代末にフランスで興った若手映画監督たちの運動です。そのヌーヴェル・ヴァーグに属するルイ・マルやロジェ・ヴァディムといった新世代の監督たちが作った作品で、じつに効果的にジャズが使われたため、一躍ジャズが世間の注目を浴びることとなったのです。

その効果は絶大でした。58年に公開されたルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』は、マイルス・デイヴィス(トランペット)を起用したサウンドトラックを使用しましたが、これが映画の内容、雰囲気と見事に合っていると同時に、音楽自体としても独立した魅力をもっていたのです。

ポイントは「音楽としての独立した魅力」です。それまでの映画音楽に使われるジャズは、ストーリーを優先させるため断片的であったり編集されていたりと、「効果音」的な使い方が多かったのです。それに対し、マイルス・デイヴィスの音楽は、たんに映画の内容にマッチしているだけでなく、それだけを取り出しても立派にジャズとして成立しているのです。これが大きかったのですね。

『死刑台のエレベーター』の観客は、まずジャンヌ・モローの不思議な存在感に魅せられ、エレベーターに閉じ込められてしまったモーリス・ロネがどうなってしまうのかやきもきしつつも「この音楽ってステキ」と無意識のうちに感じ取ったのでした。私も何度もこの映画を観ましたが、映像と音楽の見事なまでの融合には、いまだに驚かされます。

この映画の観客の大半は、特にジャズ・ファンというわけではありません。このことの意味もまた、重要でした。つまり、従来のジャズ・ミュージシャンの半生記や、ジャズそのものを扱った映画の観客は、もともとがジャズ・ファンである可能性が高い。他方、『死刑台のエレベーター』の観客は「この映画で初めてジャズと出会った人たち」が多かったのです。その結果、ジャズという50年代当時はまだきわめてマニアックな音楽ジャンルが、映画を通じ多くの人々の心を捉えたのでした。その意義はきわめて大きかったのです。

文/後藤雅洋(ごとう・まさひろ )
1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

>>「隔週刊CDつきジャズ耳養成マガジン JAZZ100年」のページを見る

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死刑台のエレベーター ~ ジャズの〝新しい波〟

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