大河ドラマや時代劇を観ていると、現代では使うことなどない言葉が多く出てきます。その言葉の意味を正しく理解していなくとも、場面展開から大方の意味はわかるので、それなりに面白くは観られるでしょう。

しかし、セリフの中に出てくる歴史用語をわかったつもりで観るのと、深く理解して鑑賞するのとでは、その番組の面白さは格段に違ってくるのではないでしょうか?

【日本史ことば解説】では、「時代劇をもっと面白く」をテーマに、「大河ドラマ」や「時代劇」に登場する様々な言葉を取り上げ、具体的な例とともに解説して参ります。時代劇鑑賞のお供としていただけたら幸いです。

さて、今回は「枕絵」という言葉を取り上げ、ご紹介します。現代では「春画」として知られていますが、その背景には、江戸の笑い、粋、そして生活に密着した文化が息づいていました。

目次
「枕絵」とは?
「枕絵」の社会的な意味
まとめ

「枕絵」とは?

「枕絵」とは、男女の秘め事、つまり性行為や性風俗を描いた絵画のことです。「春画」と呼ばれるようになったのは明治時代からのことで、江戸時代は「枕絵」「艶本(えんぽん)」「秘戯画」「笑い絵」「ワ印」など、さまざまな呼び名で親しまれていました。

なお、入浴の場面など女性の裸体を見せる好色的な絵は、「あぶな絵」と呼ばれ、区別されたそうです。

「枕絵」の描写は同性愛から自慰の様子まできわめて大胆かつ赤裸々ですが、そこには滑稽味や風刺的な誇張表現も織り込まれ、単なる猥雑画とは異なる「粋な演出」がなされています。

「枕絵」の歴史

専門の画家による春画の歴史は、かなり古いものがあります。13世紀には『小柴垣草紙(こしばがきぞうし)』、14世紀(鎌倉時代末期)には『稚児草紙(ちごのそうし)』など、絵巻物の傑作が生まれています。

さらに江戸時代に入ると、名だたる浮世絵師がこぞって「枕絵」を手がけました。12図を1組として構成されることが多く、場面には艶文(えんぶん)と呼ばれる短文のセリフや詩が添えられることもありました。

喜多川歌麿の『歌まくら』、葛飾北斎の『浪千鳥』、鳥居清長の『色道十二番』など、今日では美術品として高く評価される名作も多く存在します。

喜多川歌麿
喜多川歌麿

「枕絵」の社会的な意味

一見すると「大人の遊び」の世界に見える枕絵ですが、実は江戸時代の暮らしに密接に結びついていました。

例えば、枕絵は嫁入り道具のひとつとして、性の心得を学ぶための「性教育」の役割を担うこともあったのです。また、武士が出陣の際に魔除けとして携帯する例もあり、単なる好色本では済まされない実用性と精神的意味を持っていました。

出版の面でも、享保の改革(18世紀)以降、好色本の出版が禁じられる中、枕絵は許可を必要としない秘密裏の出版物として制作され続けました。検閲を逃れるため、作画の署名は無款(署名なし)や変名が使われ、逆に彫りや摺りに贅が尽くされ、極彩色の豪華版が次々と生まれるという皮肉な芸術的進化が起こったのです。

枕絵は単なる娯楽とはいえず、江戸の庶民の心のゆとりと、出版文化の柔軟さ・粋な反骨精神を象徴する存在でもあったといえます。

まとめ

「枕絵」と聞くと、つい眉をひそめたくなる人もいるかもしれません。しかし、その背景には、江戸庶民の生活の知恵と、人生をまるごと楽しもうとする姿勢が色濃く表れています。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の物語に描かれる絵師や戯作者たちの奔放さも、こうした枕絵文化の延長線上にあると考えると、より一層ドラマを味わい深く観ることができるのではないでしょうか。

江戸時代を生きる人たちが「笑い」と「艶」をどう捉えていたのか……枕絵は、その答えを今に伝える貴重な文化遺産なのです。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/菅原喜子(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)

 

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