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モダン・ジャズ・カルテット|クラシックの香り漂う典雅な〝室内楽ジャズ〟【ジャズの巨人】第11巻より

文/後藤雅洋

「モダン・ジャズ・カルテット」略称MJQは、ジャズ界でも珍しい長寿グループです。第2次世界大戦後間もない1952年に結成されて以来、日本が「高度経済成長」を成し遂げた’74年に至る20年以上の間、初期の一時期を除いて同じメンバーで活動を続けました。

彼らに匹敵する長命ジャズ・バンドといえば、カリスマ・トランペッター、マイルス・デイヴィスのグループと、名ドラマー、アート・ブレイキー率いる「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」くらいしか思い当たりませんが、どちらもバンド・メンバーはめまぐるしく入れ替わっています。

そして一度は解散したMJQも’81年には再結成され、’92年には結成40周年を記念するアルバムを制作しています。この「モダン・ジャズ・カルテット」の活動歴を辿ることによって、まさに「モダン・ジャズの時代」が概観できるのです。

バンド・メンバーは、実質的リーダーであるピアノのジョン・ルイスと、ヴァイブラフォン奏者ミルト・ジャクソンを中心に、ベースのパーシー・ヒース、そして最初のドラマーはモダン・ドラミングの開祖といわれたケニー・クラークの4人組。’55年にクラークが脱退して後任にコニー・ケイが参加して以来、不動のメンバーというのがMJQの来歴なのですが、彼らの足跡が「モダン・ジャズの時代」を概観することになるという話は、少し説明が必要でしょう。

まず、バンド名にご注目ください。それまでジャズのバンド名といえば、「チャーリー・パーカー・オールスターズ」とか、「デューク・エリントン楽団」のように、バンド・リーダーの名前を被せたネーミングが一般的でした。そして、おおむねバンド・メンバーは流動的で、ロック・バンドのように、ザ・ビートルズといえばジョンとポール、そしてジョージとリンゴの4人組というような、バンド名とメンバーのかっちりとした結びつきは希薄なのが、MJQ登場までのジャズ界だったのです。

これは、たまたまそうだったというわけではありません。アルト・サックスの天才、チャーリー・パーカーの場合でみてみましょう。

彼のグループは言ってみればワンマン・バンド。パーカーが創始した〝ビ・バップ〟という新しいジャズ・スタイルについてこられるミュージシャンであれば、極論すればサイドマンは誰でもよかったのです。これはパーカーに限らず、ビ・バップ・ピアノの開祖、バド・パウエル・トリオにしても、サイドマンは固定されてはいません。

こうした事実は〝ビ・バップ〟というジャズ・スタイルがもっぱら「個人技」、つまりリーダーのアドリブの沍えを聴きどころとする音楽であったところからの、必然的状況であったといえるでしょう。

この、即興中心主義のジャズ〝ビ・バップ〟が、マイルス・デイヴィスや同じくトランペッターのクリフォード・ブラウン、そしてアート・ブレイキーといった「次世代ジャズマン」たちによって改良・洗練され、〝ハード・バップ〟という新しいジャズ・スタイルが現れたのが、ちょうどMJQ誕生の時期、1950年代前半のことだったのです。

ちなみに、私たちが深く考えることなく使っている「モダン・ジャズ」という言葉は、パーカーたち「ビ・バッパー」の音楽がたいへん斬新だった、つまり「モダンだった」ところから始まった「通称」なのです。ですから、〝ビ・バップ〟以前の〝ニューオルリンズ・ジャズ〟の巨人である大トランペッター、ルイ・アームストロングの音楽や、スイング時代の代表的クラリネット奏者、ベニー・グッドマンなどの演奏を「モダン・ジャズ」とはいいません。

他方、現代では「モダン・ジャズ」という言い方は少しばかり「レトロ」な印象があって、ふつうはたんに「ジャズ」というようです。つまり「モダン・ジャズ」は、100年以上の歴史をもつ「ジャズ史」の「一部分」を指しているのです。

始まりは〝ビ・バップ〟だとして、では終わりは……。これは「通称」なのですから厳密な定義などありませんが、おおよそ’60年代末、つまりマイルスが〝エレクトリック・ジャズ〟を始めたあたりが「境い目」となっているようです。

まとめると、〝ビ・バップ〟〝クール〟〝ウエスト・コースト〟〝ハード・バップ〟〝ファンキー〟〝モード〟〝フリー〟あたり、40年代後半から60年代後半までのジャズ・スタイルの総称が「モダン・ジャズ」といえそうです。

つまりMJQは、「モダン・ジャズ」という言葉が使われ始めた’50年代初頭に、早くもその通称を自らのバンド名として名のったきわめて先進的グループだったわけです。

■グループ名の〝主張〟

ところで、MJQというグループ名の「新しさ」には二重の意味があるのです。

若干話が脇道に逸れますが、東京に「女子学院」という中高一貫の学校があります。私の家の近所ということもあって、小学校の同級生が3人も女子学院に進学したので覚えているのですが、最初この校名にはずいぶん違和感を覚えたものでした。そっけなさすぎますよね。たとえば「東京女子学院」ならまだわかります。しかし、これは後からできた別の学校。つまり「女子学院」は、日本に女学校がほとんどなかった時代にのみ、通用する校名ということです。

「モダン・ジャズ・カルテット」というグループ名も同じで、「女子」「モダン・ジャズ」という一般名称をそのまま自分たちのネーミングとしてしまうことが許された時代の産物というか、言い換えれば「先進性」の象徴的ネーミングでもあるわけです。まあ、見方を変えれば「図太い命名」ともいえるでしょう。だって、ある「カテゴリー」を勝手に代表しちゃっているんですから……。

しかし、MJQは言うまでもなく、また女子学院も聞くところによればその名に恥じない名門校の由。というか、前述の女子3人組は全員私より成績優秀でした(苦笑)。

話を元に戻し、2番目の「新しさ」とは、前述したようにリーダー名がないこと。これもまた、たまたまということではなく、彼らの新しい「ジャズ観」に基づいたものなのです。

それはこの時代の新しいジャズ・スタイル〝ハード・バップ〟という考え方で、〝ビ・バップ〟の「即興第一主義」に対し、テーマつまり原曲と、その即興的展開部分である「アドリブ」を「有機的」に結びつけ、音楽を全体として捉えようという発想ですね。

こうした演奏を行なうためには、メンバー全員がある程度「自分たちがやる音楽」に対するセンスを共有する必要が出てきます。そのためには、できる限り「いつも同じメンバー」つまり「レギュラー・コンボ」が求められるのですね。パーカーの時代との違いはここです。

1950年代半ばに相次いで誕生した「ハード・バップ・コンボ」は、「マイルス・デイヴィス・クインテット」にしろ「クリフォード・ブラウン~マックス・ローチ・クインテット」にしろ、そして「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」にしても、すべてその目的のために結成されているのですね。そして、その嚆矢とされるのが、今回の主人公MJQというわけなのです。

しかも彼らは「チームの音楽」というハード・バップ的コンセプトを前面に押し出すため、あえてリーダー名を被せない全員が対等という意味を込めた命名を採用した点でも徹底しているのですね。つまりMJQは、典型的な「ハード・バップ・コンボ」なのです。

ところで、もしかすると読者のみなさんは〝ハード・バップ〟という語感から、何かしら「激しいジャズ」「熱気に満ちた演奏」をイメージしておられはしませんか? そしてMJQの「クラシック的」とも思える雰囲気から、「彼らの演奏が典型的ハード・バップだって?」と疑問をもたれたのではないでしょうか。

じつをいうと私もそうでした。ジャズを聴き始めたころ、MJQっていわゆる「ジャズ」の激しい演奏とぜんぜん違うなあと思い、しかし一方でそれがジャズに馴染みのない私にも近づきやすかった理由でもあったのです。

しかし、だんだんと〝ハード・バップ〟という考え方に対する理解が進むと、「ハード」の意味は、音楽的に堅固でしっかりとした構造、つまり「構築的音楽」という意味もあることに気がつき、そうしてみると、まさにMJQの音楽はそのものずばり「ハード(堅固)な構築美」を備えているのですね。

そして「クラシック的」な外観も、じっくりと検討してみると思いのほかジャズの本質を踏まえたものであることがわかってきたのです。

■〝仕掛け人〟ジョン・ルイス

彼らの音楽が一見クラシック的でありながら、じつはジャズの本質に深く根ざしている秘密は、ジョン・ルイスとミルト・ジャクソンの組み合わせの妙にあるのですが、そのことは彼らがそれぞれ単独で演奏したアルバムを聴くとじつによくわかります。

とりあえず注意を喚起しておくと、一見クラシック狂的にも思えるジョン・ルイスですが、彼は〝ビ・バップ〟の天才、チャーリー・パーカーのサイドマンをマイルスとともにきちんと務め上げているのですね。いってみれば、これはジャズ界における「東大卒」みたいなもの。

そしてフリー・ジャズの巨人、オーネット・コールマンを中央のジャズ・シーンに紹介したのも、じつはルイスなのです。

付け加えれば、一見、水と油のように思えるパーカーとオーネットですが、同じアルト・サックス奏者としてオーネットはパーカーを尊敬しており、若いころはパーカーのコピーをしていました。そして、ちょっと視点を引いて見れば、ふたりとも登場した時点では「前衛音楽」であったいう点では、まったく同じなのです。

また、マイルスがパーカーの影響圏を逃れんと歴史的「9重奏団」を結成したとき、ちゃんとルイスも傍についている。若干地味な印象もあるルイスですが、こうしてみると彼はジャズ・シーンが「次の時代」を迎えようとするときの「フィクサー」としては、きわめて重要なポジションを占めていたのです。

他方、ミルト・ジャクソンはというと、「ミスター・ソウル」の異名のとおり、普通に弾けばどちらかというと「クール」なサウンドのヴァイブラフォンという楽器から、じつにソウルフルな表情を引き出したという点で傑出したヴァイブ奏者でもあるのです。

ですから、このふたりが組み合わさったことで、どのような音楽的「化学反応」が起こったのかを細かく見ていくことで、MJQの魅力の正体も明らかになっていくでしょう。

そしてその仕掛け人はというと、ご想像のとおり全体を俯瞰して見通すことができた名フィクサー、ジョン・ルイスだったのです。

文/後藤雅洋
ごとう・まさひろ 1947年、東京生まれ。67年に東京・四谷にジャズ喫茶『いーぐる』を開店。店主として店に立ち続ける一方、ジャズ評論家として著作、講演など幅広く活動。

「隔週刊CDつきマガジン JAZZの巨人」のページを見る

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