どうしたことなのでしょうか? 今年は、いつもの夏とは違い天候不順が続いております。東日本では季節外れの長雨が続き、各地に大きな被害をもたらしております。例年ですと、やっと暑さも一段落し、朝晩に吹く風に涼しさを感じる季節になるはずですが……なかなか、そうは参らないようです。
季節的には、これから穀物や果物の収穫時期に入ると同時に、台風シーズンに入ります。こうした季節の変化は、私達の生活習慣や文化にも大きな影響を与えています。
日本人は“二十四節気”を定め、古くから季節ごとの行事や慣わしを大切にしてきました。このことは、それだけ日本人がこの国の気候風土に感謝をし、愛していたことを物語っているのではないでしょうか? この記事を通して、改めて二十四節気を理解し、より深く日本文化の素晴らしさを感じていただきたいと存じます。
さて今回は、旧暦の第14番目の節気「処暑」について下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。
目次
処暑とは?
処暑に行われる行事とは?
処暑の候の使い方とは?
処暑の季節の花とは
処暑に旬を迎える食べ物
まとめ
処暑とは?
「処暑(しょしょ)」とは、8月後半から9月前半にあたる二十四節気の一つです。「暑さが終わる頃」という意味を持ち、秋を6つに分けたうちの2番目の節気にあたります。「処」という字には「止まる」という意味が込められているため、「処暑」は「暑さが終わる頃」なのです。日中はまだ蒸し暑い日が続きますが、朝晩には涼しい風も吹くようになり、秋らしくなってくるでしょう。
二十四節気は毎年日付が異なりますが、処暑は例年8月23日〜9月7日になります。2022年の処暑は、8月23日(火)です。また期間としては、次の二十四節気の「白露」を迎える、9月6日~9月7日頃までが該当します。2022年は8月23日(火)〜9月7日(水)が処暑の期間です。
夏のピークが過ぎる頃合いにあたる処暑ですが、この時期は昔から台風が発生しやすいとされています。昔から毎年9月1日頃は「二百十日(にひゃくとおか)」と呼ばれ、米農家の厄日とされてきました。立春から数えて210日目にあたるこの日は、稲が開花、結実する大事な時期ながら、台風が農作物に甚大な影響を与えることが多かったとされます。そのため、農家ではこの日を厄日として警戒するようになりました。
「二百十日」は「二百二十日(にひゃくはつか)」(9月11日頃)、「八朔(はっさく)」(8月27日頃)とともに、「農家の三大厄日」です。台風の予測ができなかった時代に生きる人々は、この日を恐れて警戒していました。昨今は9月〜10月に上陸する台風が多くなり、また規模も大きくなっています。二十四節気「処暑」を目安に、備えを再確認しましょう。
処暑に行われる行事とは?
処暑の時期、京都を中心とした近畿地方では「地蔵盆」が行われます。「地蔵盆」とは、8月(旧暦では7月)23、24日に行われる地蔵にまつわる行事のこと。地区にもよりますが、数珠回しなどをし念仏を唱える風景は、今でも継承されています。お寺や地域で祀る地蔵尊に飾り付けやお供物をし、そこで子供たちが遊んだり、盆踊りをしたりするところもあるようです。
西陣では、「ふごおろし」という子供たちの福引の景品となるお菓子やおもちゃなどを乗せた「ふご(籠)」を家の2階からおろすという風習があります。
「処暑の候」の使い方とは?
手紙やハガキを出す際には、季節にちなんだ挨拶をすることで、相手の健康を気遣い、味わい深い文章を書くことができます。時候の挨拶は、四季だけではなく、二十四節気に応じて変わってきます。
処暑の時期における代表的な時候の挨拶が、「処暑の候(しょしょのこう)」です。例えば、手紙の書き出しにて「拝啓 処暑の候 夏の日差しがまぶしいこの頃ですが、お変わりございませんか」というように使います。「処暑の候」を使用する期間は、処暑~白露の前日までとなります。
また、その他の時候の挨拶としては、「秋暑の候」「早涼の候」「初秋の候」などが挙げられます。どれも、暑さが峠を越して秋が近づいている、そんな季節の移ろいを感じさせてくれる言葉です。普段は会えない人たちにこうした言葉を添えた手紙を送ってみるのもよいかもしれません。
処暑に旬を迎える食べ物
処暑の時期に旬を迎える野菜・果物、魚、京菓子をご紹介します。
京菓子
日本は四季のある国。その移ろいを実感させてくれるのが、季節を告げる草花ではないでしょうか。古くは『万葉集』から『古今和歌集』にいたるまで、さまざまな草花が季語として登場します。季節ごとの花を愛でながら、季節の移ろいを感じる-その心は、花を模して甘味として楽しむ「京菓子」へも映し出されております。
今回は、下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久氏に、処暑の時期に楽しめる京菓子についてお話をお聞きしました。
「当店(茶寮宝泉)では、処暑の時期になりますと『こぼれ萩』を提供しております。いにしえ人は四季折々の花を愛で、秋には萩を楽しんでいたそうです。「桜は舞い、萩はこぼれる」と謳われたことから、このような名称がついています。
『茶寮宝泉』の『こぼれ萩』は、金団(きんとん)と呼ばれる上生菓子で、萩の色合いに染めた白餡(しろあん)を裏ごし器でそぼろ状にした上で、それを餡玉(あんだま)に細やかに柔らかくのせていきます。
処暑とはいえ、まだまだ残暑が厳しい時節。暑い最中でも、餡の柔らかい口溶けからは、あたかも「こぼれゆく萩の儚さ」のようなものを感じていただけると思います。この『こぼれ萩』を味わっていただくことで、いち早く秋の訪れを感じていただけるのではないでしょうか」と古田氏。
野菜・果物
処暑に旬を迎える野菜は、サツマイモです。食物繊維が豊富なサツマイモは、便秘解消にも効果があると言われています。焼いて食べる際には、ゆっくり加熱すると甘みが増すため、オーブンでの調理やじっくりと蒸し焼きにするのがおすすめです。次第に昼夜の寒暖差が大きくなる時期に入るため、積極的に摂って体調を整えましょう。
また、この頃はイチジクが旬を迎えます。生で食べるほか、ジャムやドライフルーツにしてもおいしい果物です。イチジクを漢字で書くと「無花果」となりますが、これは外部から花が見えず、内側に小花がつき、果実となることに由来しています。傷みやすく日持ちがしないため、早めに食べ切りましょう。
魚
旬を迎える魚は、秋刀魚(サンマ)です。名前に「秋」の字が入っていることからも、季節を代表する魚であることがうかがえます。細い柳葉形で銀色に輝く魚体が刀に似ていることから、「秋に獲れる刀のような魚」という意味で名づけられたといわれています。近年漁獲量が極端に減っていて、徐々に庶民の魚であったサンマもやや食卓から遠のいている感じがしますが、様々な効能を持つため、動脈硬化や生活習慣病が気になる人にはおすすめです。
処暑の季節の花とは
処暑、つまり毎年8月23日頃~9月7日頃は、長く続いた暑さが少し和らぐ頃合いです。ここからは、そんな処暑の訪れを感じさせてくれる植物をいくつかご紹介しましょう。
処暑の時期になると、萩(はぎ)が花を咲かせます。秋の七草の一つである萩は、『万葉集』に最も多く詠まれており、古くから日本人に親しまれてきました。枝が垂れ、晩夏から秋にかけて多数の赤紫色の花を咲かせるのが特徴です。ちなみに、秋のお彼岸に供える「おはぎ」は、この「萩」にちなんで名付けられたとされています。
また、ハイビスカスを小ぶりにしたような花を咲かせる木槿(むくげ)も、見頃を迎えます。朝に開いて、夜にはしぼんでしまうことから、「槿花一朝(きんかいっちょう)の夢」といった成句も存在するほど、儚く涼やかな花です。また、韓国の国花としても知られています。
まとめ
厳しい暑さの峠を越し、朝夕には涼しい風が吹く季節である「処暑」。暑さが和らぎ始め、どこからか心地よい虫の声が聞こえてきます。台風到来の時期でもあるため、充分な対策をしたうえで季節の移ろいを楽しみましょう。
監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com
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構成/トヨダリコ(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook