
ドイツの名門時計ブランド、A.ランゲ&ゾーネから、デジタル表示を採用した機械式時計「ツァイトヴェルク・デイト」の新作が発表されました。今回登場するのは、18Kピンクゴールドケースを採用したモデルで、グレーダイヤルとの組み合わせが上品な印象を与えます。
文/土田貴史
針を使わない革新的な時刻表示が魅せる新境地
高級時計の世界において、デジタル表示を採用した機械式時計は決して新しい概念ではありません。19世紀に作られた懐中時計に見られ、アブラアン-ルイ・ブレゲによる発明だとの説もある「ジャンピングアワー」機構や、1920年代前半にコルテベールやニトンといったメーカーが実現した腕時計サイズのデジタル表示など、その歴史は意外なほど古いものです。しかし、機械式デジタル時計というコンセプトは、過去にもいくつかの試みが行われていますが、本当に信頼性のある形で実現された例はまだ一つもありませんでした。
「ツァイトヴェルク(Zeitwerk)」という名前は、ドイツ語で「時の機構」を意味します。2009年、A.ランゲ&ゾーネは時と分を瞬時に切り替わる数字によって表示する初の機械式腕時計を発表し、時計界に衝撃を与えました。従来の「ジャンピングアワー」が時表示のみをデジタル化していたのに対し、ツァイトヴェルクは時と分の両方を同時に瞬転させる画期的なシステムを実現したのです。
この革新をA.ランゲ&ゾーネが成し遂げた意義は計り知れません。それというのも、ツァイトヴェルクは、ドレスデンのゼンパー歌劇場にある有名な五分時計に着想を得て生まれた時計だからです。1841年、王家召し抱えの時計師ヨハン・クリスチャン・フリードリッヒ・グートケスが弟子のフェルディナント・アドルフ・ランゲとともに完成させた五分時計の精神を、現代の技術で1分刻みに進化させたのがツァイトヴェルクなのです。
時刻表示の仕組みは実にユニークで、時と分が大型の数字窓に表示されます。一日を通して1440回もの瞬間的な数字の切り替えが行われ、その精密さは圧巻の一言。世界初の瞬転式時分デジタル表示を持つ腕時計として、針の動きとは異なる、まさに「時が刻まれる瞬間」を視覚的に楽しむことができます。

さて、今回の「ツァイトヴェルク・デイト」で最も注目すべきは、その独創的な日付表示機構です。文字盤の外周に配置されたガラス製のリングには、1から31までの数字がプリントされています。日付の表示方法が実に巧妙で、針を使わずに色彩で日付を示す仕組みとなっています。現在の日付に該当する数字が赤色で表示され、ひと月をかけてその赤い表示が外周を一周します。時計を見た瞬間に、赤く目を引く数字で今日の日付が直感的に分かるのです。
深夜12時ちょうどに、時・分・日付のすべてが同時に切り替わる瞬間は、まさに圧巻のスペクタクルと言えるでしょう。機械式時計が電子制御時計に押されつつある現代において、ツァイトヴェルクは「機械式でなければ実現できない美しさ」を証明しました。瞬転数字式表示機構に必要な膨大な動力を、特許技術の動力制御メカニズムとツインバレルで制御し、一分間に一度のパワフルな動作を72時間にわたって持続させる技術力は、まさに機械式時計の可能性を押し広げた金字塔と言えるでしょう。

ケースサイズは直径44.2mm、厚さ12.3mmと、存在感のあるサイズ設定で、サファイアクリスタル製のケースバックからは、516個の部品から成る精巧なムーブメントの美しい仕上げを堪能できます。
本作は従来のホワイトゴールドモデルと比較して、色彩的にも親しみやすく、日本の愛好家にとって魅力的な選択肢となりそうです。

Ref.148.033、手巻き、18Kピンクゴールドケース(径44.2mm、厚さ12.3mm)。手縫いのアリゲーターストラップ、18Kピンクゴールド製のピンバックル、3気圧防水。価格は要問い合わせ。問い合わせ/A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
http://www.alange-soehne.com