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スタンダード曲はジャズマンの共通言語である【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道4】

文/池上信次

第4回ジャズマンはなぜみんな同じ曲を演奏するのか?(2)~「スタンダード」という「共通言語」

「スタンダード」という「共通言語」

ジャズマンが演奏する「同じ曲=スタンダード」は、アドリブで勝負するための同じ土俵であると第1回で説明しましたが、そのほかにもいくつも理由があります。そのひとつに、スタンダード曲はジャズマンの共通言語であるということがあります。

ジャズマンの多くは、いわゆる「バンド」編成で演奏します。ジャズには定型編成はありませんのでひとりだけで演奏する「ソロ」や、ビッグ・バンド(ジャズではオーケストラとも呼ばれます)、さらにデュオ(2人)や7人や11人のバンドでも珍しくはありませんが、全体からみれば少数派といえます。多くは4人から6人編成のバンドで、これらはコンボと呼ばれます。コンボとはsmall combinationが語源で、ビッグ・バンドに対して小編成という意味あいです。

ベースとドラムスのふたりをリズム・セクションと呼び、そこに伴奏の要となる楽器、つまりコード(和音)を演奏できるピアノやギターが加わったトリオ(3人編成)がバンドとしては最小限の編成です。そこにサックスやトランペットなどのソロ楽器が加わったものが、コンボと呼ばれる編成で、モダン・ジャズにおいてはもっとも基本的なバンド編成です。なお、ジャズは「〜でなければならない」というルールのない音楽(これこそがジャズの大きな特徴)ですので、例外はいくらもありますが、ここでは単純化して話をすすめていきます。

さて、モダン・ジャズのコンボでは、たとえばビートルズのようにグループ名を名乗り、そのバンドのオリジナルの「持ち歌」だけを演奏するのは少数派です。バンドの多くはレコーディング・セッションや特定のライヴのためだけに集められたメンバーによる臨時編成で、バンド名は「チャーリー・パーカー・カルテット」や、「マイルス・デイヴィス・クインテット」など、リーダー・ミュージシャンのあとに編成名を付けた便宜的な名称で呼ばれます(クインテットは5人編成、カルテットは4人編成の意味)。つまりリーダーこそが重要であって、バンドのメンバーはあくまでリーダーのバックアップをするという位置づけなのですね。

そして、その臨時編成バンドではスタンダード曲を演奏することがほとんどです。この理由は先に説明したように、ほかのバンドと同じ土俵で勝負するためですが、それ以前に、スタンダード曲は臨時編成=ジャム・セッションで演奏するための必修レパートリーなのです。いわば共通言語のようなもの。みんながすでに習得済みの曲であれば、たとえばリーダーが「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」を演る、と一言いえば、初対面のミュージシャン同士でもすぐさまバンドで演奏できるというわけです。勝負どころはアドリブ・ソロなので、アレンジなどは二の次なのです。ですから、多くのスタンダード曲を演奏できることは、ジャズマンにとってとても大切なことなのです。それにより、多くの演奏機会を得ることができるのですから。

1957年に録音された『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』(コンテンポラリー)というアルバムがあります。今でもたいへん人気のあるアルバムですが、これはアート・ペッパー(アルト・サックス)と、当時のマイルス・デイヴィス・クインテットのリズム・セクション(ピアノ・ベース・ドラムス)によるアルバムです。当時のマイルスのクインテットはメンバーが固定化されており、このリズム・セクションはよく知られているのでこの名称になっていますが、とくにマイルスと関わる内容ではなく、ペッパーをリーダーにした典型的なレコーディング・ジャム・セッションです。ここで演奏されたのはほとんどがスタンダード曲と即席の(定型)ブルースでした。じつはペッパーは当日まで、レコーディングのことを忘れていたといいます。つまり、スタジオでのぶっつけ本番だったわけですが、全員が「共通言語」をもっていたので、滞りなく10曲を録音、しかも名演が生まれたのでした。

また、マイルスは1956年に、2日間で25曲26テイク(アルバム4枚超分)を一気に録音(マラソン・セッションと呼ばれます)しましたが、そのすべてがスタンダード曲とブルースでした。これは契約消化のために急いで録音したもので、当然リハーサルはなし、しかも1曲をのぞいてワン・テイクで終了、さらに結果は大名演という驚異的な記録となりました。固定メンバーによる「マイルス・デイヴィス・クインテット」とはいえ、普段このすべてをバンドのレパートリーにしていたわけではないでしょうから、これが実現したのもメンバー全員がスタンダード曲を多数演奏できたから。

こういったセッションの形だけ見れば、演奏できる曲を「せーの!」で録音するのですから、「ジャズっていいかげん」と思うかもしれませんが、それを名演に仕上げるためにはたいへんな技術の習得と努力の蓄積が必要なことを忘れてはいけません。スタンダード曲の習得はそのはじめの一歩にすぎないのです。

『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』(コンテンポラリー)

『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』(コンテンポラリー)

演奏:アート・ペッパー(アルト・サックス)、レッド・ガーランド(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)
録音:1957年1月19日

まさに一期一会のセッション。初対面のぶっつけ本番であっても演奏が成り立ち、しかも名演が生まれるのは、スタンダード曲という共通言語があったから。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

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