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文/池上信次

レコード登場の当初から長らく続いた「3分しばり」ですが、ついにそのしばりが解ける日がきました。1948年、大手のコロンビア・レコードがLPレコードを発表したのです。これは10インチまたは12インチ(25センチまたは30センチ)の直径で、33 1/3回転、材質は塩化ビニールというもので、片面15〜20分ほどが収録できるというものでした。

それまでのSPレコードと直径は同じですから、要するに、溝を細くしたわけですね(マイクログルーヴと呼ばれます)。そしてそれを広く普及させようと、コロンビアはライバル各社に協調を持ちかけます。そしてデッカとキャピトルは受け入れるも、ヴィクターは拒絶し、同じ細溝で独自のフォーマットを開発しました。それがシングル・レコードです。7インチ(17センチ)で45回転、独自のオートチェンジャー・プレーヤーに対応するため、センターには大きな穴を開けました。これらは現在でも使われているLPレコードと、いわゆるドーナツ盤です。

ビデオのVHSとベータ、レーザーヴィジョンのLDとVHD、デジタル録音のMDとDCC(といっても見たこともない人も多いでしょうが)のように、新しいフォーマットができる時は、昔から必ず二分しケンカすることになっていたのですね。とはいえ、LPはそれまでレコードのセットであった「アルバム」を1枚に収めるため、あるいは1曲の長時間化が目的で(特にクラシック)、一方のシングルは省スペースと手軽な再生が売り(ポップスでは長時間化の必要はない)ですからそもそもの狙いが異なっており、結局両社はお互いにフォーマットを受け入れて、51年には各社が両方のフォーマットで発売を始めました。

しかし、LPからCDへの移行の経験からもわかるように、新しいフォーマットはなかなかすぐには普及しません。ですからしばらくは、SP、LP、シングルの3種類のフォーマットで併売されるという状況になりました。また、CDでも経験したように、新フォーマットの当初の商品は、それまでの音源の再発売が多かったということもあり、LPによって長時間再生が可能になったものの、すぐにそのための録音を実行に移したものは少なかったのでした。たとえば、1949年に録音された、チャーリー・パーカーの『ウィズ・ストリングス』は、同じ内容で3種のフォーマットで発売されています。

(1)『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』(マーキュリー)
『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』

『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』

演奏:チャーリー・パーカー(アルト・サックス)、ミッチ・ミラー(オーボエ)、スタン・フリーマン(ピアノ)、レイ・ブラウン(ベース)、バディ・リッチ(ドラムス)、ジミー・キャロル(編曲・指揮)、ストリングス
録音:1949年11月30日

新フォーマット登場のさなか、このアルバムは3種類発売されました(写真)。10インチLPはディスクが1枚で、SPは3枚セットのアルバム、シングル盤は3枚のボックス・セットでした。内容はどれも同じ「1曲3分」の6曲収録で、マスターはテープレコーダーで収録されていたものの、1曲の長時間化は考えられていなかったようです。さらにその後は2度目のセッション音源とともに12インチLPにまとめられました。

* * *

ジャズで最初に長時間化を形にしたのは、1950年末に録音され、51年にリリースされたデューク・エリントン・オーケストラの『マスターピーシズ・バイ・エリントン』(コロンビア)といわれています。12インチLPに4曲が収録され、1曲が8分から15分という内容でした。これはおもに既発表曲を「長時間ヴァージョン」で録音し直したものです。

その後はマイルス・デイヴィスの10インチLP『ザ・ニュー・サウンズ』(プレスティッジ)が、長時間を意識して収録されたのはよく知られるところです。ちなみに、この音源は他の音源とともに1956年に『ディグ』というタイトルの12インチLPで発売されました。LPレコードは当初10インチと12インチがありましたが、次第に12インチが一般化し、10インチLPの多くは短期間で12インチに「衣替え再発売」され、『ディグ』はその1枚です。現在のCDはほとんどが12インチLPをもとにしているので、10インチLPの存在は意外と知られていないかもしれません。

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(2)マイルス・デイヴィス『ザ・ニュー・サウンズ(10インチLP)』(プレスティッジ)
マイルス・デイヴィス『ザ・ニュー・サウンズ(10インチLP)』

マイルス・デイヴィス『ザ・ニュー・サウンズ(10インチLP)』

演奏:マイルス・デイヴィス(トランペット)、ジャッキー・マクリーン(アルト・サックス)、ソニー・ロリンズ(テナー・サックス)、ウォルター・ビショップ(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)
録音:1951年10月5日
このアルバムは4曲収録で、最長の「ディグ」は7分半の演奏です。アンサンブルとアドリブの両方を聴きどころとした、いわゆる「ハード・バップ」の先駆けとされる演奏のひとつ。

(3)セロニアス・モンク『ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1(12インチLP)』(ブルーノート)
セロニアス・モンク『ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1(12インチLP)』

セロニアス・モンク『ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1(12インチLP)』

演奏:セロニアス・モンク(ピアノ)、アイドリース・スリーマン(トランペット)、ジーン・ラミー(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)ほか
録音:1947〜48年

このアルバムは現在このジャケットでCDになっていますが、この音源はもともとSP時代に録音されたもので、最初は各曲がSP(シングル盤)でリリースされ、次に同名の10インチLP(LP 5002)、そしてこの12インチLP(BLP 1510)で発売されたものでした。つまり新しいフォーマットができるたびに、再編集・再発売されたのです。12インチLPにもかかわらず「3分」の演奏ばかりというのは、そういう理由です。

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こうした再生方法の進歩で「3分しばり」はなくなり、ミュージシャンは(もちろん限度はあるものの)時間にとらわれずに演奏を聴いてもらうことができるようになり、ジャズのアルバムの作り方、聴き方は大きく変わったのでした。

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(4)アート・ブレイキー『ア・ナイト・アット・バードランド Vol.2(10インチLP)』(ブルーノート)
アート・ブレイキー『ア・ナイト・アット・バードランド Vol.2(10インチLP)』

アート・ブレイキー『ア・ナイト・アット・バードランド Vol.2(10インチLP)』

演奏:アート・ブレイキー (ドラムス)、クリフォード・ブラウン(トランペット)、ルー・ドナルドソン(アルト・サックス)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、カーリー・ラッセル(ベース)
録音:1954年2月21日

いちばん長時間再生の恩恵を実感するのは「ライヴ」ですね。ステージがありのまま再現されるのですから。「チュニジアの夜」は9分20秒の演奏。10インチLPの片面全部を1曲で使いました。クリフォード・ブラウンをはじめ各人の素晴らしいソロをたっぷりと楽しむことができます。このセッションのオリジナルは10インチLPの3連作。現在は2枚の12インチLPに編集されたフォーマット(ジャケットも)でCD化されています。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。先般、電子書籍『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ001/マイルス・デイヴィス絶対名曲20 』(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz/)を上梓した。編集者としては、『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/伝説のライヴ・イン・ジャパン』、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)などを手がける。

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