家族や大切な人へ財産を遺すことは多くの人にとって重要なテーマですが、「相続税がいくらかかるのか?」は多くの人が気になるポイントではないでしょうか。相続税は、被相続人(亡くなった人)の財産を受け取る際に一定の基準を超えると課税される税金です。今回は、相続税の仕組みや計算方法を解説し、実際にシミュレーションを行う際のポイントや注意点についてもご紹介します。

100歳社会を笑顔で過ごすためのライフプラン、ライフブック(R)を提唱する、独立系ファイナンシャルプランナー藤原未来がわかりやすく解説します。

目次
相続税の基本構造と仕組み
相続税の計算方法|基本の3ステップ
【事例で解説】配偶者・子ども・孫などの相続パターン別計算例
土地・不動産の評価と計算方法
生命保険と相続税|非課税枠と申告の要注意ポイント
相続税の「自力計算」をする際の注意点
まとめ

相続税の基本構造と仕組み

相続税の基本構造と仕組みについて、解説します。

相続税が発生する条件(基礎控除・課税対象)

相続税が発生するかどうかの判断は「基礎控除額」を計算することから始めます。基礎控除額の計算式は以下の通りです。

3,000万円+600万円×法定相続人の数

たとえば、配偶者と子ども2人の合計3人が法定相続人であれば、

3,000万円+600万円×3人=4,800万円

この金額を超える相続財産がある場合にのみ、相続税が課されます。また、相続税の課税対象となる相続財産とは、以下のような財産です。

・預貯金
・不動産(土地・建物)
・株式などの有価証券
・生命保険金(受取人による)

相続財産は負債(マイナスの財産)も対象になりますので、相続財産から負債を差し引く必要があります。

誰に、どのくらいの割合で相続税がかかるのか

相続税は、最終的には各相続人が実際に取得した財産額に対して課税されますが、まずは国税庁のルールに従い「法定相続分」に基づいて一度相続税の総額を計算するという仕組みになっています。これを「法定相続分による総額方式」と呼びます。ステップの流れを簡単にまとめると、以下のような流れとなります。

1.法定相続人を確定
2.遺産総額から基礎控除や非課税枠を差し引いた「課税遺産総額」を算出
3.その課税遺産総額を法定相続分で仮に分けたと仮定して、税率を当てはめて全体の相続税総額を計算
4.その後、実際に各人が受け取った財産額の比率に応じて相続税額を按分する

このように、相続税の計算は「法定相続分に基づく仮計算」と「実際の取得額での按分課税」という2段階構造になっています。遺産分割の内容に関係なく、一度は「法律上の分け方」で計算する必要があるのが特徴です。

相続税の計算方法|基本の3ステップ

次に、相続税の計算方法を解説します。

STEP1:財産の総額を出す(預貯金・土地・家・保険など)

まずは、被相続人が所有していたすべての相続財産を明確にします。以下が主な対象です。

・預貯金の残高
・株式・投資信託
・土地・建物(相続時点の評価額)
・現物資産(貴金属・骨董品など)
・暗号資産(仮想通貨など)
・生命保険や死亡退職金(受取人の指定などにより一定条件で課税)

※負債や未払いの医療費など、マイナスの財産も考慮に入れる必要があります。

STEP2:非課税枠や控除を差し引く(基礎控除・配偶者控除・小規模宅地など)

次に、控除を適用して課税対象を減らします。控除には、

・基礎控除(前述のとおり)
・配偶者控除:法定相続分または1億6,000万円までのいずれか高い金額まで非課税
・小規模宅地等の特例:居住用の土地は最大80%評価減

などの制度があります。これらを適用すると、課税対象額を大幅に減額できる可能性があります。

STEP3:課税遺産に応じた税率で相続人ごとの税額を計算

課税対象額を法定相続分に分けて、以下のような税率を適用して計算し、課税額を合計します。

<図表1>相続税の税率

(株式会社SMILELIFE projectにて作成)

合計した課税総額を、実際に受け取った財産額の割合で按分します。

【事例で解説】配偶者・子ども・孫などの相続パターン別計算例

次は、相続パターン別に計算します。

配偶者と子どもが相続する場合

たとえば遺産総額が8,000万円、相続人が配偶者と子ども2人(合計3人)の場合

基礎控除:3,000万円+600万円×3=4,800万円

課税対象:8,000万円-4,800万円=3,200万円

法定相続分で分割:配偶者1/2=1,600万円、子ども1/4=800万円ずつ

配偶者の税率:15%(控除50万円)

子どもの税率:10%

相続税額合計:(1,600万円×15%-50万円)+800万円×10%=270万円

270万円を実際に相続した資産額の割合で按分します。配偶者は配偶者控除が適用されるため、配偶者の税負担は0円となり、その他にも適用できる控除があれば税額を減額できる可能性があります。

子どもがいない場合の兄弟・甥姪への相続

子どもがいないケースでは、兄弟への相続となることがありますが、基本的な計算は配偶者と子どもが相続するケースと変わりはありません。しかしながら、控除制度が少ないため税負担が重くなりがちです。また、甥姪は代襲相続人として相続できるケースもありますが、税率が20%加算されるので注意が必要です。

孫が受け取るケースの注意点

孫が受け取るケースとしては、子どもが既に亡くなっている場合の代襲相続か、「遺贈」というかたちで受け取るケースがあります。孫に遺贈する場合、「一世代飛ばし」の相続とみなされ、通常の相続税に20%加算されます。孫に財産を集中させたい場合は、教育資金の一括贈与などの特例も検討しましょう。

土地・不動産の評価と計算方法

次は、土地・不動産の評価と計算方法について解説します。

路線価と固定資産税評価額の違い

不動産がある場合、原則として土地の評価には「路線価」、建物の評価には「固定資産税評価額」を使用します。

路線価:国税庁が毎年定める評価額で、相続税の計算に使用
固定資産税評価額:市区町村が課税のために用いる金額

相続税の計算には土地については基本的に路線価ベースで評価し、路線価が定められていないエリアでは「倍率方式」となり、「固定資産税評価額×一定の倍率」で計算して評価します。

土地が複数ある場合や共有名義の場合の考え方

複数の土地がある場合、それぞれの土地ごとに路線価で評価します。共有名義の場合は、被相続人の持分のみが相続対象となります。

不動産が多い家庭ほど要注意な節税の落とし穴

小規模宅地等の特例を使えば大幅に評価額を下げられますが、「適用条件」が厳しく、親族が住み続けている必要があります。不動産中心の資産構成は納税資金の確保が難しくなることもあるため、生前から売却して現金化することや分割方法などについて検討しておくことが大切です。

生命保険と相続税|非課税枠と申告の要注意ポイント

生命保険と相続税についても見ていきます。

生命保険の「500万円×法定相続人」非課税ルール

被相続人が契約者・被保険者であり、法定相続人が受取人の場合、500万円×法定相続人の数が非課税になります。たとえば、相続人が3人なら1,500万円まで非課税です。ただし、これを超えると相続税の課税対象となります。

受取人が相続人以外の場合の税務リスク

相続人以外(たとえば、内縁関係の相手など)が受取人になると、相続税ではなく贈与税扱いになることもあります。贈与税は基礎控除額が110万円と小さく税率も高いため、受取人の設定には注意が必要です。

相続税の「自力計算」をする際の注意点

エクセルなどの表計算ツールを使うと、相続税額の計算を自分でもシミュレーションすることができます。あらかじめ相続税がどのくらいかかるのかを把握しておくために、自力で計算をしてみるのも良いでしょう。

エクセルで試算する際の注意点

自力でシミュレーションする際は、

・計算式を正しく設定する
・路線価を正確に反映する
・控除を漏れなく適用する
・特例の適用条件を確認する

など、細かい点に注意が必要です。誤差が大きくなる可能性があるため、あくまで目安としましょう。

税理士に相談したほうがよいケースとは

相続税額の計算は相続財産の評価や、様々な控除の制度が適用できるかを見極めるなど、複雑で専門的な知識が必要となるケースが多いので、税理士に相談することをおすすめします。とくに、次のような場合は税理士に相談するのが安全です。

・不動産が複数ある
・遺産分割が複雑
・相続人が多い
・相続人同士の関係が悪い
・相続税申告が必要か判断できない

まとめ

相続税は、基礎控除や各種特例の適用によって課税対象額が大きく変わります。財産の内容や家族構成によって税額は大きく異なるため、自分のケースではどのくらいの納税が必要になるのか、早めにシミュレーションしておくといいでしょう。実際の申告や節税を正しく進めるためには、税理士への相談も検討しながら、安心できる相続対策を進めていきましょう。

さまざまな金融商品などが出回っている世の中だけに、あなたの味方になって守ってくれる相談相手を持つことが必要な時代になっています。ご自身のライフプランを考えるときには、生命保険や金融商品の販売をせずに中立的な立場からコンサルティングに徹する独立系のファイナンシャルプランナーへの相談をお勧めします。

●構成・編集/京都メディアライン(HP:https://kyotomedialine.com FB:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

●取材協力/藤原未来(ふじわらみき)

株式会社SMILELIFE project 代表取締役、1級ファイナンシャルプランニング技能士。2017年9月株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けトータルライフプランニングサービス「LIFEBOOK®サービス」をスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。

株式会社SMILELIFE project(https://www.smilelife-project.com

 

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