
日本人の約8割が「疲れている」と回答するなど、疲労は現代的な“国民病”と言われます。仕事や人間関係のストレス、運動や睡眠の不足、スマートフォンへの依存など、様々な原因が指摘されますが、医学的に間違った「食事のあり方」を問題視するのが牧田善二医師です。新著『疲れない体をつくるための最高の食事術』が話題の牧田医師が解説します。
解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)

食物繊維を摂る。「腸活」を怠らない
元気な状態を表す言い回しに、「快眠・快食・快便」があります。
これら3つの要素は、互いにリンクしています。快便は快食や快眠がつくるし、快便がなくては快眠も快食もかないません。
そして、ここで言う「快食」とは、食欲があって美味しく食べられる状態を指します。その上で、食事内容にこだわり、かつ腹八分目を守れたらベストです。
ガツガツ大食いするのは、決して快食ではありません。それをやっているから、よく眠れず疲れが溜まり、腸内環境も整わないのです。
腎臓が老廃物や毒素を濾過して出す「尿」は重要ですが、もちろん「便」も疎かにはできません。なぜなら、便は「腸」という大切な臓器の働きの結果を示すものだからです。
過去において、腸は「便を排泄する器官」くらいにしか見られていませんでした。しかし、今は腸に関する研究が世界中で進んでいます。
その結果、腸内環境が悪いと、下痢や便秘という不調を招くだけでなく、疲労を溜め込み、あらゆる病気に罹りやすくなることがわかってきました。
腸内環境を整えるために、非常に重要なのが「腸内細菌」の存在です。
皮膚や口腔内など、私たちの体には、もともとさまざまな細菌が大量に住み着いています。なかでも大腸内には、1000を超える種類の腸内細菌がいて、重さにすると1〜1.5キロにもなります。
この1000を超える種類の腸内細菌は、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の大きく3つに分類されます。日和見菌は、その名の通り、状況に応じて善玉菌にも悪玉菌にもなります。
いずれにしても、悪玉菌に対して善玉菌優位にしておくことが大事です。
ただ、食事内容が悪かったり、強いストレスがかかったりすると、そもそも1000を超えていた腸内細菌の種類自体が減ってしまうことがわかっています。
それによって、善玉菌や悪玉菌の割合にもゆがみが生じ、腸内環境を整えにくくなるのです。
水溶性も不溶性もバランス良く
種類豊かな腸内細菌を持った人の大腸は、まるでさまざまな花が分布して咲き誇るお花畑のようで、そこから「腸内フローラ」という言葉が生まれました。
多様性があって善玉菌優位の腸内細菌を育て、見事なお花畑をつくるには、食事が大事。なかでも、食物繊維が不可欠です。
食物繊維は、ほかの栄養素と違って小腸で吸収されず大腸まで届きます。
その食物繊維には、水溶性と不溶性の2種類があり、それぞれ異なる良い働きをします。
ワカメやヒジキなどの海藻類や、キノコ類に多く含まれる水溶性食物繊維は、腸内細菌の餌となります。
一方、キャベツやレタスなど野菜類に多い不溶性食物繊維は、便の嵩を増やして便秘を解消してくれます。
いかにも食物繊維が豊富そうなごぼうやにんじんは、水溶性と不溶性の両方をバランス良く含んでいます。
こうした食材を偏らずに食べていくことで、腸内環境が整っていきます。
また、腸の炎症を引き起こすようなものを食べないことも大事です。下痢や便秘も腸の炎症の一つですが、とくに、「リーキーガット症候群」には注意が必要です。
リーキーガット症候群とは、もともと余計なものはなにも通さないはずの腸の表面に、ごく小さな穴が開いてしまう病態です。これによって、老廃物の毒素が血液を通して体内に回ってしまうのです。
当然、慢性疲労が抜けにくくなりますし、ほかのさまざまな病気を呼び込みやすくなります。
便の状態は黄土色のバナナ状が理想
ストレスもリーキーガット症候群の大きな原因ですが、人工甘味料や添加物など、不自然な食材によっても引き起こされることがわかっています。
現代人にリーキーガット症候群が激増しているのは、こうした食材と無関係ではないでしょう。
なお、便の状態はちゃんとチェックしましょう。
いい便としては、黄土色で柔らかいバナナ状のものが1〜2本、するりと出たら最高です。そういう便はあまり臭いも強くなく、お尻を拭いたとき、ペーパーにくっつきません。かつ、軽く水に浮いたような状態になります。
逆に、コロコロと固かったり、柔らかすぎて形にならなかったりするような便が出ていたら、腸内環境の悪化を疑う必要があります。
黒い便や重い便、臭いの強い便も同様です。
疲れ知らずの健康体を手に入れたいなら、食事の記録と共に、排便の記録もつけるといいでしょう。
***
世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』
現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。

牧田善二/著 四六判208ページ 小学館刊 1650円(税込)
