日本酒の世界は奥深く、様々な種類や楽しみ方があります。近年、特によく出ているアイテムが「生酒」です。かつては酒蔵でしか味わえなかった新鮮な生酒が、現在ではコールドチェーン(冷蔵物流)の発達により、私たちの食卓にも届くようになりました。この記事では、生酒の基本から楽しみ方までをわかりやすく解説します。

文/山内祐治

目次
生酒の読み方 – 「なまざけ」と読みます
日本酒における生酒とは? フレッシュさが魅力の加熱殺菌していないお酒
日本酒 生酒の賞味期限。早めの消費がおすすめ
日本酒の生詰と生酒の違い。加熱殺菌のタイミングが鍵
日本酒の原酒と生酒の違い。加水と加熱の違いを理解する
日本酒 生酒のおすすめ。季節ごとの楽しみ方
まとめ

生酒の読み方 – 「なまざけ」と読みます

まず基本中の基本として、「生酒」は「なまざけ」と読みます。「きざけ」と間違えて読んでしまう方もいますが、正しくは「なまざけ」です。かつては「なまなま」や「ほんなま」という表記や読み方もありましたが、現在は「生酒(なまざけ)」という呼び名が一般的となっています。

日本酒の世界には多くの専門用語があり、初めての方にとっては覚えることが多いかもしれませんが、まずは「生酒(なまざけ)」という読み方から覚えていきましょう。

日本酒における生酒とは? フレッシュさが魅力の加熱殺菌していないお酒

「生酒」とは一体どのようなお酒なのでしょうか?

日本酒は伝統的に、酒蔵で造られたお酒が消費者の手元に届くまでに加熱殺菌(「火入れ」と呼ばれます)を行います。これは、お酒の変質を防ぐための重要な工程です。以前はコールドチェーン(いわゆるクール宅急便のようなもの)が発達していなかったため、蔵で作られたお酒をそのままの状態で消費者に届けることが難しかったのです。

加熱殺菌を行うことで、酵素の働きが止まり、お酒の味が変わりにくくなります。しかし、これによりお酒の持つある種のフレッシュさや、生き生きとした風味が失われることもあります。

ここで登場するのが「生酒」です。生酒とは、加熱殺菌をまったく行わない日本酒のことを指します。1988年に開始されたクール宅急便をはじめとするコールドチェーンの発達によって、加熱殺菌をせずにお酒を届けることが可能になり、蔵で直接飲むような鮮度の高い日本酒を楽しめるようになりました。

生酒の魅力は何といっても「フレッシュさ」にあります。味わいとしては、リンゴをかじった時の爽やかな香りや、草をちぎった時のような立ち上る青々しい香りが特徴です。

日本酒 生酒の賞味期限。早めの消費がおすすめ

日本酒は基本的に賞味期限を設けていないことをご存知でしょうか? もちろん、長く保存すればするほど味が変わっていくものですが、法律上の賞味期限表示義務はありません。

一方、生酒は加熱殺菌を行っていないため、加熱殺菌を施した日本酒よりも味が変わりやすいという特徴があります。そのため生酒のボトルには必ず「要冷蔵」「開栓後はお早めにお飲みください」などの注意書きが記載されています。これは生酒を識別するひとつの目安にもなります。

生酒は冷蔵庫で保管し、できるだけ早く飲むことが推奨されます。限外ろ過など、特殊な方法もありますが、香気成分の変化なども考慮すると、一般的に言われている指標よりも短い期間での消費をおすすめします。冷蔵保管であれば2〜3か月以内、理想としては購入後1〜2週間で飲むことをおすすめしたいです。特に開栓してからは酸化が進みやすくなるため、3、4日程度で飲み切るのが理想的と考えています。

ただし、例外として意図的に保管して楽しむ生酒も存在します。一部の酒蔵や酒販店、飲食店では「熟成生酒」という試みも行っています。これらのお酒は、出来立ての生酒には無い個性や深みがあり、また違った楽しみ方ができます。あくまでも例外的なケースですが、酒蔵がそのような意図で造っているお酒には、フレッシュな生酒とはまた違った魅力があるので、飲食店などで出合えたら、試してみることをおすすめします。

日本酒の生詰と生酒の違い。加熱殺菌のタイミングが鍵

日本酒の製造過程では、通常、2回の加熱殺菌(火入れ)が行われます。1回目は絞った直後、2回目は瓶詰め前です。この加熱殺菌をどのタイミングで行うか、まったく行わないかによって、日本酒の呼び名や特徴が変わります。

わかりやすく説明すると、以下のような4つのパターンがあります:

  1. 火入れ:2回とも加熱殺菌を行うもの(特別な表記なし、これが一般的な日本酒です)
  2. 生酒:まったく加熱殺菌を行わないもの
  3. 生詰(なまづめ):絞った後の加熱殺菌を行い、出荷前に加熱殺菌を行わないもの
  4. 生貯蔵:絞った後の加熱殺菌を行わず、出荷前に加熱殺菌を行うもの

わかりやすく覚えるコツとしては、「通常の日本酒は加熱殺菌を二度行う」と理解し、それ以外は何らかの工程を省略しているということです。

「生詰」は、一度火入れを行っているため生酒ほどの鮮度感はありませんが、瓶詰め前の加熱殺菌を行わないことで、一般的な日本酒よりは生き生きとした風味を楽しむことができます。加熱殺菌による風味の変化を最小限に抑えたい場合に選ばれる製法です。

また、秋口に出回る「ひやおろし」と呼ばれるお酒は、本来は「生詰」のお酒であることが多いです。夏の間貯蔵していたお酒を、秋に瓶詰めする際に加熱殺菌をせずに出荷するため、「ひやおろし」と呼ばれています。

日本酒の原酒と生酒の違い。加水と加熱の違いを理解する

「原酒」と「生酒」、似たような言葉ですが、実はその意味はまったく異なります。これらの違いを理解することで、日本酒の楽しみ方がさらに広がるでしょう。

  • 生酒:加熱殺菌に関わる言葉で、加熱殺菌をまったく行わないお酒を指します。
  • 原酒:加水調整に関わる言葉で、絞った後に水を加えていない(加水調整を行っていない)お酒を指します。

これまでの多くの日本酒は絞りたての瞬間、アルコール度数が18〜20度以上と高いことが多いです。一般的な製品のアルコール度数は15〜16度程度なので、この差は絞った後に水を加える「加水調整」によるものです。加水調整を行わずにそのままのアルコール度数を維持したものが「原酒」です。そのため原酒は一般的な日本酒よりもアルコール度数が高く、味わいも濃厚になる傾向があります。一方で、生酒はフレッシュさが特徴なので、冷やして飲むことで爽やかな風味を楽しむことができます。

これらの組み合わせとして、以下のようなものもあります。

  • 生原酒:加熱殺菌も加水調整も行わないお酒。フレッシュな風味と高いアルコール度数を併せ持ちます。
  • 無濾過生原酒:濾過も加熱殺菌も加水調整も行わない、蔵で絞ったほぼそのままの状態のお酒。すっぴんに近い、出来立てそのままのお酒を消費者に届けるというコンセプトで造られています。

一般的な日本酒は、濾過、加水調整、加熱殺菌をすべて行うため、特別な表記はありません。これらの工程のいずれかを省略した場合に、その特徴を表す言葉が付くと理解するとよいでしょう。

日本酒 生酒のおすすめ。季節ごとの楽しみ方

生酒は一年を通して流通していますが、特に12月頃から出てくる新酒と相性が良いです。新酒は出来立てのフレッシュな状態を楽しむお酒であり、多くの酒蔵が新酒を生酒として出荷するため、12月から2〜3月頃までが生酒を楽しむ最盛期となります。

この時期は酒蔵のSNSや酒販店でも生酒情報が多く出回ります。寒い季節ですが、暖房の効いた部屋で冷やした生酒を楽しむのもまた格別です。新酒の生酒は、フレッシュなフルーツを思わせる香りと、瑞々しい味わいが特徴で、日本酒初心者の方にも親しみやすいでしょう。

また、最近では夏場にもアルコール度数を意図的に下げた、炭酸飲料を思わせるような爽やかな生酒も登場しています。これらもコールドチェーン(冷蔵物流)のおかげで楽しめるようになりました。夏の暑い日に冷たい生酒を楽しむのも、新しい日本酒の楽しみ方として人気を集めています。

まとめ

生酒は、日本酒のフレッシュさという魅力を最大限に引き出したひとつのスタイルです。出来立てのお酒を早いうちに飲むという「フレッシュローテーション」の観点からも、生酒の持つ価値や意味合いは非常に大きいと言えます。

しかし、日本酒の魅力は生酒だけに留まりません。日本酒は多様性の時代を迎えており、生酒もひとつの選択肢として持ちながら、熟成したお酒、お燗酒、フレーバーを楽しむお酒、甘口のお酒、火入れしたお酒など、製法にこだわらず様々なスタイルの日本酒を楽しむことができます。生酒を選択肢の一つとして捉え、日本酒の多様な世界を探検してみてください。

はじめての方にとっては、まず生酒の鮮やかな風味と香りを楽しみ、そこから徐々に様々なタイプの日本酒へと視野を広げていくことで、より深く日本酒を楽しむことができるでしょう。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。

構成/土田貴史

 

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