文/池上信次

前回(https://serai.jp/hobby/1191784)の「裏焼き(逆版)」ジャケットの続きです。裏焼きは写真フィルム表裏の間違いから起こるものですが、それはフィルムだけのことではありません。こんな例もあります。

ジョン・コルトレーン『ジ・アザー・ヴィレッジ・ヴァンガード・テープス』
(Impulse)

これはジョン・コルトレーンの没後10年にあたる1977年にリリースされた、未発表テイク集LP2枚組。前回読んでいただいた方はもうおわかりですね。逆版です。逆版の写真をもとにイラストを描いたのか、はたまたイラストを逆版にして使ったのかはわかりませんが、シンプルなデザインゆえ、右向きでもよかったような気はします。

『ザ・ファビュラス・ファッツ・ナヴァロ vol.1』(Blue Note)

次はトランペット。不自然には見えませんが、このナヴァロは逆版です。トランペットに左利き用はありませんので、ピストンを押すのは誰でも右手の指です。これも右向き(正しい方向)でも大きな違いはないようにも思えますが、明確な意図があったのでしょう。タイトル文字の流れからかなぁ? なにせ、撮影は数々の傑作ジャズ写真を撮影したフランシス・ウルフで、デザインは「ジャズ・ジャケット」のスタイルを作り出したともいえるリード・マイルスなのですから。

『リー・モーガンvol.3』(Blue Note)

こちらもウルフ&マイルスによるアートワーク。もう説明は不要ですね。これは左右からの撮影ではなく、真ん中の写真は逆版です。しかも上下の写真は同じ、つまり3枚とも同じ写真なのです。1枚の写真からこんなデザインを作り上げてしまうマイルスの発想は素晴らしい。

ほかにもトランペットではとても有名な逆版ジャケットがあります。ジャケット写真が紹介できないのですが、それはあのマイルス・デイヴィスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(Columbia)です。トランペットを抱え、耳に手を当てた黒眼鏡のマイルス。モノクロ写真に赤をかぶせた印象的な色使いの、あの写真は逆版なのでした。デザインとしてはタイトルも顔もセンターに合わせてあり、マイルスのヘアスタイルも顔も左右対称なので、正しい版にして見ても違和感はなし。逆版の意図はどこに? 

『ザ・カーティス・カウンス・グループ』(Contemporary)

これは1957年にリリースされた、ベーシストのカーティス・カウンス・グループのアルバムです。これは逆版に見えますか? とくに不自然には見えませんよね。しかし、次のジャケットを見ると……。

ザ・カーティス・カウンス・グループ『ランドスライド』(Contemporary)

こちらはタイトルは違いますが、同じ内容の再発盤。なんと、版が逆になっているではありませんか。この後はこのデザインでカタログに残っていることみると、再発で「修正」されたというのが正しいと思われます。初版のほうは写真の表裏がわからず進めてしまったのか、どうしてもこの文字配置にしたかったために写真を逆版にしたということなのか。

こんなに大きな、楽器を持った写真なのに、なかなか逆版に気がつかないというのは面白いことです。これからは腕時計や指輪など、細かいところまで凝視しそう(カウンスは弦の張り方が特殊であることにも気がつきました)。新しい発見があると音も違って聞こえてくるかも? 「じっくりジャケットを見る」のもレコード鑑賞の楽しみのひとつなのです。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』シリーズを刊行。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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