癌患者が暮らしやすい社会を目指して
癌の治療は生きるために行っている。同時に、生きるためには、働くことも必要だ。癌治療にかかる医療費は決して安くはない。経済的な面からも、癌患者にとって働く環境が整うかどうかは大きな問題だ。
「生きがいとかやりがいとしての仕事、という意味合いもあると思います。例えば会社員の方の場合、癌であることが分かったら、多くの方がそれまで働いていた部署から異動させられるでしょう。癌患者の側もそれが分かっているから、なかなか打ち明けられない。抗癌剤治療を続けていると、日によっては辛いこともあるのですが、無理をして頑張り続けてしまうこともある。そういう悪循環が起こってしまうのが現状なんです。癌患者は癌とだけ闘うべきなのに、それ以外のことにも気を配らなければならなくなってしまっている」
社会に、「癌患者に対する気遣い」が存在するのなら、それが「仕事を奪う」方向ではなく、「今までと同じように働ける」方向へ進むようになってほしい。
「癌患者が本人の希望・要望を遠慮なく口にできる社会。一方で、癌患者が必要以上に特別視されず、癌になる以前と同じように暮らせる社会。そういう意識が広まってほしい。そういう社会になってほしい。今や、誰もがいつ癌になってもおかしくない時代なんですから。自分が癌患者になってみて、心からそう思います」
大島康徳(おおしま・やすのり)
1950年10月16日生まれ(68歳)。大分県中津市出身。中津工から68年ドラフト3位で中日ドラゴンズ入団。71年に一軍初出場。76年にシーズン代打本塁打の日本記録(7本)を樹立。77年から、強打の内野手として不動のレギュラーに定着した。83年、36本塁打を放ちタイトル獲得。88年、日本ハムファイターズへ移籍。94年限りで現役引退。現役通算成績は、2638試合、2204安打、382本塁打、1234打点、打率.272。現役引退後は、解説者や指導者として活躍。2000年から02年まで日本ハムファイターズの監督を務めた。また、06年第1回WBCでは日本代表チームの打撃コーチに就任。チームの初優勝に貢献した。2016年、大腸癌(ステージ4)と転移性肝臓癌が発覚。同年11月に大腸癌切除手術を受け、現在も抗癌剤治療を続けている。
取材・文/田中周治 (たなか・しゅうじ)
1970年、静岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、フリーライターとして活動。週刊誌、情報誌などにインタビュー記事を中心に寄稿。また『サウスポー論』(和田毅・杉内俊哉・著/KKベストセラーズ)、『一瞬に生きる』(小久保裕紀・著/小学館)、『心の伸びしろ』(石井琢朗・著/KKベストセラーズ)など書籍の構成・編集を担当。現在、田中晶のペンネームで原作を手掛けるプロ野球漫画『クローザー』(作画・島崎康行)が『漫画ゴラクスペシャル』で連載中。
撮影/藤岡雅樹