日本人の2人に1人はがんになるといわれている今、がんは誰にでも起こりうる病気です。しかし、「非喫煙」「節酒」「塩蔵品を控える」「適正な身体活動」「適正なBMI値」という「5つの健康習慣」を実践することで、がんのリスクを下げることができます。

そこで、日常的に取り入れることができる、がんを予防する生活習慣について国立健康・栄養研究所長(元:国立がん研究センター・がん予防・検診研究センター長)である津金昌一郎先生にお話を伺いました。

コーヒーのがん予防効果

「コーヒーにがんを予防する作用があるかどうかは、数々の報告があるものの科学的に根拠が証明されたわけではありません。われわれは男女10万人を対象に、コーヒーを飲む頻度による、その後10年間のがん発生率を調査しました。その調査によると肝臓がんの発生率は、『ほとんど飲まない人』に比べて、『毎日飲む人』では、約50%、『1日5杯以上飲む人』では、70%も低くなりました。コーヒーの抗がん作用については、多くの証拠があるものの、さらなる研究が必要です。現在のところ、コーヒーに含まれるポリフェノールの一種であるクロロゲン酸の持つ抗酸化作用やインスリン抵抗性の改善効果(糖の吸収を抑えるなどで、腫瘍増殖効果を持つインスリンの分泌を抑える)のためではないかという仮説があります。

また、大腸がんでは、コーヒーによる予防的効果は、女性では可能性が示されているものの、男性では見られませんでした。これは、男性は大腸がんの発生に関わる喫煙や飲酒の習慣を持つ人が多いので、コーヒーによる効果が発揮されなかったのではないかと見られています。また、子宮体がんには肝臓がんと同様に予防効果が見られました。これらはいずれも糖尿病の人がなりやすいとされるがんでもあります。

コーヒーはインシュリン抵抗性の改善効果があるため、糖尿病予防につながり、糖尿病に関連するがんのリスクを低下させるという面もあるかもしれません。これからさらに研究を進めることで、コーヒーの抗がん作用がはっきりしていくことと思います。

しかし、コーヒーは飲みすぎると、胃腸が荒れる、不眠、高血圧、脂質異常症などのデメリットが発生することがあります。飲む量は、1日2 〜3杯が適度な量だと思います。1日5杯以上は飲まないようにした方がいいですね。また、砂糖を入れない状態で飲むことが望ましいです。砂糖の摂り過ぎは肥満の原因になります」

嗜好品であるコーヒーにがんの予防効果が期待できるとしたら、喜ばしい情報ですね。しかし、砂糖をたっぷり入れて飲むと効果が期待できなくなってしまうので気をつけましょう。

緑茶のがん予防効果

「緑茶に含まれるポリフェノールの一種であるカテキンが、がん細胞の増殖を抑制するという実験結果が国内外でありますが、コーヒーと同様、科学的根拠がまだ不十分であり、さらなる研究が必要とされています。
われわれが実施した研究によりますと、緑茶をよく飲む女性は胃がんのリスクが下がることがわかりました。『1日5杯以上飲むグループ』は『1日1杯未満グループ」に比べて、胃がんのリスクが約30%低く、胃の下部のがん発生リスクは50%も減りました。
男性にはっきりとした効果が見られなかったのは、喫煙や塩分過多の食事を摂るなどの行為をする人が女性よりも多く、緑茶の効果が打ち消されたのではないかと思っています」

適度な運動ががんのリスクを下げる

「運動ががんのリスクを下げるということは、解明されています。私たちの研究でも、身体活動量が多い人ほどがん罹患リスクが低いことがわかりました。男性では、結腸がん、肝臓がん、膵臓がん、女性では胃がんのリスクが低下しています。運動によって肥満を防止するだけでなく、「インスリン抵抗性を改善する」「腫瘍増殖を予防する」「免疫力が高まる」「便通が良くなる」などの効果が、がんの発生を抑えることに効果があるのではないかといわれています。

運動がいいといっても、激しい運動はフリーラジカルを産生し、逆に細胞を傷つけてしまう可能性があるので、おすすめできません。厚生労働省は、18〜64歳の血糖・血圧・脂質が基準範囲内の人に対して、以下のような運動を推奨しています。

『3メッツ以上の強度の身体活動を60分(23メッツ時/週)』、『3メッツ以上の強度の運動(4メッツ時/週)毎週60分』。

『3メッツ以上の強度の身体活動』は歩行、またはそれと同等の身体活動、『3メッツ以上の強度の運動』は、息が弾み、汗をかく程度の運動を指します。目安としては、1週間に毎日1時間歩くこと、さらに、週に1時間はジムで運動をしたり、ジョギングや水泳をしたりするとよいです。毎日の歩行1時間は、分割してもよいので、通勤、買い物、犬の散歩など日常生活で歩く機会を設けていれば、難しくないと思います。

『非喫煙』『節酒』『塩蔵品を控える』『適正な身体活動』『適正なBMI値』の健康習慣に気をつけていれば、がんのリスクは何もしない人に比べて半分に抑えられるとのデータもあります。これらの健康習慣を送っていれば、必要以上にがんにおびえることはありません。一度しかない人生です。健康を保ち、好きなものを食べ、好きなことをして、その人にとっての幸せな人生をできるだけ長く送っていただきたいと思います」

お話を伺ったのは……

津金昌一郎先生
医薬基盤・健康・栄養研究所 理事兼国立健康・栄養研究所 所長

1981年、慶応義塾大学医学部を卒業後、同大学医学研究科にて公衆衛生学を専攻。同大学医学部助手を経て、86年に国立がんセンター(現・国立がん研究センター)に入所。研究所室長、臨床疫学研究部長、がん予防・検診研究センター(2016年より社会と健康研究センター)予防研究部長を経て、2013年にセンター長に就任。2020年に国立健康・栄養研究所所長を併任し、2021年より現在に至る。主な受賞歴に朝日がん大賞、高松宮妃癌研究基金学術賞、日本医師会医学賞など。主な著書に『がんになる人ならない人』『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』などがある。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/一瀬立子  写真/フカヤマノリユキ

 

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