文/満尾正
新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。
気力や体力を失い、病気を呼び込む原因に!
私のクリニックで、もう1つ非常に重要視しているのが、「DHEA」というホルモンに関する数値です。DHEAは、正式名称をデヒドロエピアンドロステロンといい、コレステロールを原料に副腎でつくられます。免疫力を高め、発がん抑制などの働きもあり、健康長寿の人はこの数値が高いことがわかっています。
実は、このDHEAをもとにして、男性ホルモンも女性ホルモンもつくられます。そのため、「マザーホルモン」とも呼ばれ、男性が男性らしく、女性が女性らしく、魅力的に溌剌と生きていくためにDHEAは欠かせない物質なのです。
ちなみに、男性ホルモンのテストステロンは、女性にとっても重要な働きをしています。
男性ホルモンは人が活発に動き回るためのガソリンとも言える物質で、不足すると気力・活力ともに失われてしまいます。
ある70代の女性が、まったく覇気がなくなって家に閉じこもってしまったということで私のクリニックを訪れました。血液検査を行ってみると、DHEAや男性ホルモン値が非常に低いということがわかりました。そこで、DHEAのサプリメントを摂取してもらうと、男性ホルモンも増えて元気になったのです。
男性ホルモンは筋肉をつくる働きがありますので、これが少ない状態で運動をしても、あまり筋肉はつきません。そのため、男性ホルモン値が低い女性は、体を動かす筋力も衰え、行動力を失って余計に閉じこもるという負のスパイラルに陥りやすいのです。
いずれにしても、ホルモンというのは、加齢とともにどうしても減少傾向にあるので、本来であれば年を重ねるごとに減ってくるはずです。ところが、40~50代の男性のほうが、60歳以上の男性よりも男性ホルモンの数値が低いという報告もあります。総じて男性ホルモンは、朝に高く夕刻に向かって低くなっていきます。しかし、40~50代では午前中からずっと低いのです。
理由については明確ではありませんが、40~50代は働き盛りの管理職世代としてストレスが多いということが考えられています。
現代の日本を「1億総ストレス社会」などと呼ぶ人もいますが、ストレスを受けると、コレステロールを原料にコルチゾールというストレスホルモンがつくられます。すると、やはりコレステロールを原料としているDHEAのレベルが下がり、同時にテストステロンのレベルも下がってしまうのです。
もちろん、食事も関係していると思われます。
40~50代は、60代以降の人たちほど健康に対して神経質にならず、忙しさにかまけて偏った食事をしているはずです。となれば、体がホルモンをつくりだすという機能自体がうまく働かなくなっても当然です。
また、ビタミンDの不足も考えられます。ビタミンDと男性ホルモンはリンクしており、血中ビタミンD濃度が低い人は男性ホルモン値も低い傾向にあります。
男性ホルモン値が低い人は、あまり活動的に外に出ず日光を浴びないからビタミンDも少ないのか、ビタミンDが少ないから男性ホルモン値が低く活動的になれないのか、その因果関係は鶏と卵のようなものなのかも知れません。
私のクリニックでは、男性ホルモンの数値が低い患者さんには、食事指導に加え、男女ともにDHEAのサプリメントを飲んでもらっています。ヤムイモという自然薯の仲間からつくられた自然のホルモンですから副作用の心配がなく、しかも高い効果が得られています。
満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。