取材・文/坂口鈴香
ケアマネジャー、略して「ケアマネ」と呼ばれる専門職名を聞いたことのある人は多いだろう。正式名称は「介護支援専門員」。介護が必要になり自宅で暮らそうとしたとき、最初に決めなくてはならないのが、このケアマネジャーだ。
今回は、在宅での介護生活を左右するといってもよい重要な専門職、ケアマネジャーについて解説しよう。
◆ケアマネジャーの役割とは
1 ケアプラン(介護サービス計画)をつくる
要介護度によって利用できる介護サービスの回数や時間が違う。訪問介護、訪問看護、訪問入浴、訪問リハビリテーション、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)などの介護サービスを、介護を受ける本人や家族の心身の状況、希望に合わせて組み立てる。身体状態によっては、介護ベッドや歩行器、車いすなどの福祉用具を導入したり、住宅改修をして手すりやスロープなどの設置を指示したりもする。
2 介護チームの司令塔となり介護生活をマネジメントする
ケアマネジャーは介護サービスやサービスを提供する事業所をアレンジし、ヘルパーや看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職による介護チームを“司令塔”としてうまく回す必要がある。まさに“マネジャー”だ。
そして、要介護者の家庭を定期的に訪問、モニタリングをしながら、要介護者とその家族の介護生活をマネジメントしてくれる重要な専門職なのだ。それだけに、どうやって、どんな人を選ぶかが大事になってくる。
◆ケアマネジャーはどんな資格を持っているのか
「介護支援専門員」の資格を取得するには、「介護支援専門員実務研修受講試験」に合格し、「介護支援専門員実務研修」を受けなければならない。
介護支援専門員実務研修受講試験の受験資格は以下のとおりだ。
・医師、歯科医師、看護師、薬剤師、介護福祉士、理学療法士、社会福祉士などの国家資格を持ち、従事している期間が通算して5年以上、900日以上ある人
・生活相談員、支援相談員、相談支援専門員などの相談援助業務に従事している期間が通算して5年以上、900日以上ある人
なお、平成29年度までは介護業務に5年から10年以上従事している人も受験可能だったので、上記2点を満たしていないケアマネジャーもいる。
◆ケアマネジャーはどう選ぶ?
要介護と認定されたからと言って、ケアマネジャーが自動的に選任されるわけではない。介護を受ける本人や家族が探して、選ぶことになる。
ケアマネジャーは居宅介護支援事業所に属している。地域包括支援センター(https://serai.jp/living/309580)か市町村の介護保険担当課から居宅介護支援事業所リストをもらい、そこから選ぶのだが、自宅近くの事業所だけでもたくさんあるので、どの事業所の、さらにその中でどんな人を選べばよいか、途方に暮れたという声はよく聞く。
そこで、選び方のポイントを挙げてみたい。
1 口コミ
近所の介護経験者や介護ヘルパーとして働いている人に聞いてみよう。評判の良いケアマネジャーは、口コミで指名されることが多い。
2 地域包括支援センターに相談する
地域包括支援センターは、「この事業所がいい」とは言ってくれないが、それでもある程度候補を絞ることはできる。
3 介護についての希望を伝える
居宅介護支援事業所には複数のケアマネジャーが在籍している。その中で、要介護者に合ったケアマネジャーを選ぶには、受けたい介護サービスや現在の生活環境を具体的に伝えることだ。たとえば「独居だが、ずっと自宅で暮らし続けたい」「家族は普段働いていて、仕事はやめたくない」などだ。地域包括支援センターに自分に合ったケアマネジャーの候補を挙げてもらうときも同様だ。
あるケアマネジャーは、「ケアプランには、ケアマネのそれまでの生き方があらわれる」とまで言う。同じような介護状態でも、ケアプランにはケアマネジャー自身の人生についての考え方が色濃く反映されるというのだ。
だから、介護者である家族が「働き続けたい」「育児中」というような場合は、介護者と似た生活環境のケアマネジャーを選ぶのがおすすめだ。介護者の状況をより理解できるし、想像力を働かせて、気配りをしてくれる可能性がある。
4 ケアマネジャーの経歴を聞く
ケアマネジャーの資格について書いたとおり、医師や歯科医師、薬剤師、看護師、介護福祉士、理学療法士、社会福祉士などの国家資格を持っているか、相談援助業務に従事していた人でないと受験資格がない。
そこでそのケアマネジャーが、介護福祉職出身なのか、医療職出身なのかを確認しておきたい。高齢になると持病のある人は多いが、常に医療措置が必要だったり、医療について詳しい方が安心だと思える場合は、医療職出身のケアマネジャーが良いだろう。医療機関とパイプを持っていることもある。
◆合わなければ替えられる!
ケアマネジャーも玉石混交だ。デキるケアマネジャーは、地域包括支援センターからの紹介や口コミにより、たくさんの担当を抱えて多忙を極めている、というのも事実。お願いしたくても、手一杯でと断られる可能性もあり得る……というジレンマもあるのだが。
しかし、家族や要介護者の希望どおりに動いてくれない、話をあまり聞いてくれないなどと感じるようなら、我慢せずに変更を申し出てほしい。冒頭に書いたように、ケアマネジャーは“司令塔”なので、替えることで介護生活が良い方向に一変することも十分あり得るのだ。「同じ事業所内で変更してもらうのは、気まずくて言い出しにくい」と思うなら、事業所自体変更してもよい。そういう場合は、地域包括支援センターに連絡すればよい。
ケアマネジャー選びでカギを握るのは、そのケアマネジャーと信頼関係を結ぶことができているかどうか、だ。そこで、こんなケアマネジャーなら信頼できる、というポイントを挙げてみよう。
◆信頼できるケアマネジャーかどうか判断するポイント
1 訪問して、要介護者や家族の話をきちんと聞いてくれる
家族がケアマネジャーに相談したいと思っていても、「特に状態変化がないから、訪問せずに電話で済ませる」というケアマネジャーもいるという。要介護の場合、月1回の訪問は必須条件だ。そして信頼できるケアマネジャーなら、ささいなことでも話せる関係であるはずだ。
2 心身の状況に変化があったり、現在の介護サービスが合わなかったりしたら、別の選択肢を示してくれる
介護している人の話を聞いて感じるのは、要介護者の心身の状況とケアプランにミスマッチが起きているのに、本人や家族がそれに気がついていない場合があるということだ。そうなると、本人もつらいが、家族もつらいはずだ。「このままでは仕事を続けられない」「疲れ切って、親子関係も悪くなっている」などと悩んでいるとしたら、それはもしかすると適切なケアプランが提示できていないことが原因かもしれない。
もちろん、すべてがケアマネジャーのせいとは言えないが、まずはつらい状況を話す。それでも対応してくれなかったり、改善されなかったりするのなら、ケアマネジャーを替えるということも視野に入れてほしいと思う。
なお、介護認定で「要支援」と判定された場合は、地域包括支援センターがケアプランを立てることになるので、ケアマネジャーも自分たちで選ぶ必要はない。ケアマネジャーを選ぶ必要があるのは、「要介護」1以上と判定された場合である。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。