文/鈴木拓也

写真はイメージです。

高齢世代で、うつ状態になる人が急増している。

60歳以上でうつ病の治療を受けている人は、40万人を超える。厚生労働省の調査でも、高齢者の約3割が気分障害を患っているそうだ。筆者の祖母も、晩年はうつ状態に苦しみ、いつも伏せっていたのを思い出す。

実際の話、「認知症よりもうつが怖い」と言うシニアの話をよく耳にする……そう語るのは、保坂サイコオンコロジー・クリニックの保坂隆院長だ。

保坂院長は、著書『60歳からは悩まない・迷わない・へこまない 精神科医だから知っている「老後うつ」とは無縁の暮らし方』(主婦と生活社 https://www.shufu.co.jp/bookmook/detail/978-4-391-16196-0/)のなかで、定年退職、子の独立、配偶者の死別といった、社会・家族とのつながりの喪失が、うつへのきっかけになると説く。くわえて、時間を持て余すとか、健康への不安が高じて、うつ状態になることもあるという。そうした「老後うつ」の対策として、本書ではさまざまなアドバイスが記されている。

今回は、そうしたアドバイスの一部を紹介しよう。

電話でのやりとりでも孤独感は癒される

孤独感は、うつ状態をもたらすリスク要因だが、高齢になると、どうしても一人でいる時間が増えてくる。

保坂院長は、作家ヘッセの言葉を引用しつつ、「孤独にならないよう心がける気持ちが大切」と説く。

もし、人見知りのせいで孤独がちなら、「無理に親しくならなくてもすむ方法」はあるとも。その一つに挙げられているのが、日曜菜園。自治体で安く貸し出している農地を活用して、野菜作りに励んでみる。これなら誰とも話す必要はないし、育てている植物に「お前も頑張れよ」などと話しかけると、孤独感は癒されるという。

そして、期待できるのは、やはり人とのつながりだ。保坂院長は、以下のように記している。

また、慣れない作業に悪戦苦闘していると、周囲の人が見かねて「支柱はこういうふうに立てたほうがいいですよ」「そろそろ追肥の時期です」などと声をかけてくるかもしれません。
こうしたきっかけがあれば、いくら人見知りのあなたでも、会話を始められるでしょう。しかも、わからないことを聞くと、相手から好感を持たれやすいので、自然と親しくなれるはずです。(本書043pより)

もしかすると、ここから交流の輪がゆるく広がり、人見知りも少しずつ解消されるかもしれない。試しにやってみるのも、悪くはなさそうだ。

さらに、別の方法としてすすめられているのが、電話の活用。

メールやLINEといったテキストのやりとりもコミュニケーションではあるものの、「お互い心が閉じてしまっていることもありがち」だと、保坂院長は指摘する。そこで、電話を通じて声の交流をするが、話す内容は「たわいのない話」でかまわないそう。ただ、留意点もあって、それは話し相手に女性を選ぶこと。男性だと、こうした雑談が苦手な人が多いが、女性だと深刻な話や愚痴でも、「きっと、なんとかなるよ」などとサラリと励ましてくれるからだという。

逆に避けたいのは、寂しさを解消するための飲酒。高齢になると、肝臓の働きが低下するなどして、アルコール依存症になるリスクが高くなる。それに、何年も飲み続けていれば、認知症やうつ病にもかかりやすくなる。そのため保坂院長は、「絶対にやめるべき」と諭している。

いい人をやめて自分の人生を生きる

保坂院長は、第二の人生を迎えたら「地域とのつながり」を持つことをすすめる。

しかし、一度はつながりができたものの、そこから先がスムーズにいかない人は少なくないそうだ。

原因として、「自己顕示欲の強さ」の可能性を指摘する。例えば、

・人の話を聞くよりも、自分が話すほうが好き
・仕事人として優秀だった自分のことを知ってほしい(本書090pより)

といった心理が、これにあたる。自己顕示欲は必ずしも悪いものではないが、地域に溶け込むにあたってはマイナスになりやすいという。その場で疎んじられてしまっては、かえって気に病んでしまいかねない。ここは、「郷に入っては郷に従え」の心持ちが必要となる。

もっとも、摩擦を恐れて、気持ちを抑え込んでしまうのとは違う。逆説的だが、いい人をやめたほうが、かえって好かれるし、元気で長生きできるとも説かれている。

でも、素を見せたり自分らしく振る舞うことに不安を抱いている人は意外に思うかもしれませんが、実は、自分の気持ちを素直に口にしたり、「イエス」「ノー」をはっきりしたほうが、人間関係はうまくいくものなのです。(本書098pより)

社会人の頃は、とかく周囲を意識して、自分を抑制してきた人が大半だろう。しかし、いまやその制約はなくなったのだから、自分の人生を生きることが大事になる。

人間関係についても、八方美人とならず、気の合う人とだけつき合えばいいとも。これができれば、人間関係のストレスも最小限となって、うつを遠ざけるわけだ。

病気とは上手につき合えばいい

本書には、即実践できる老後うつを遠ざけるコツも登場する。

その一つが深呼吸法だ。

思い当たるふしもないのに、気分がスッキリしないとか、モヤモヤすることは誰しもある。これを放置しておくと、うつ状態に向かうことも……。深呼吸法は、全身に酸素を行き渡らせ、そんな気分をリセットする効果がある。

方法は、以下のとおり。

1 背筋を伸ばして椅子か床に座り、鼻から軽く息を吸います。息を吸うときは、おへそのすぐ下5センチほどの「丹田」(生命エネルギーをつかさどる場所)を意識して、自然にお腹をふくらませます。
2 息を吐くときは、口から空気を出し切るつもりで、できるだけゆっくりと吐きます。その際、お腹がへこむのを意識しましょう。
吐き切ったら、また鼻から息を吸いますが、吸うことには意識を向けず、吐くことに意識を集中させて、できるだけ長く細く吐き切るのがコツです。
こうすると、浅かった呼吸が深くなり、頭がスッキリします。(本書123pより)

そのほか、心身の健康を改善する方法もいくつか載っているが、保坂院長は、「病気とは上手につき合えばいい」というスタンスだ。それなりの年齢になれば、健診の検査数値がちょっと高いとか、眠りが浅いといった不調はどうしてもあるもの。それを深刻に考えすぎるほうが、かえって健康に良くないという。だから、目指すべきは一病息災。こう心がけていれば、穏やかに過ごせると保坂院長は言う。

* * *

このように本書には、老後うつを防ぐ生き方のヒントが多数盛り込まれている。最近、メンタルが弱り気味というかたは、一読をすすめたい。

【今日の健康に良い1冊】
『60歳からは悩まない・迷わない・へこまない 精神科医だから知っている「老後うつ」とは無縁の暮らし方』

保坂隆著
定価1650円
主婦と生活社

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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