【ゆらぎの扉】155cm75kgの50歳女性が「女として終わりたくない」一心で減量に成功、背景にあった夫への複雑な思い〜その２〜

40代後半から50代半ばの女性が、「新しいことに挑戦」する様子を目にすることが多い。離婚や結婚、移住や家の購入、転職や独立、最近は留学やリスキリング（学び直し）、もそこに加わる。しかし一方で、心身の“ゆらぎ”に悩む世代でもある。更年期による心や体の乱れ、育児や介護やお金の不安、家族のために献身しても“当たり前”と思われる虚しさ。世間からの疎外感を覚える人もいるだろう。“ゆらぎ世代”の女性が感じている“現実”を、25年間に1万人近くのインタビューを行ったライター・沢木文が紹介する。

2025年4月17日、日本肥満学会は、『女性の低体重/低栄養症候群』の声明文を発表。これは、日本女性の「やせ」体型が多く、骨量の低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることを問題視したためだ。

やせ願望が強いことは、近年問題になっている「ダイエット目的の2型糖尿病の治療薬の服用」にも及んでいる。自由診療で処方された薬を、「必要ない」のに服用することによる事故が増えている。

尚美さん（56歳）はかつて、155cm75kgの体型だったが、50歳からの4年間で23キロの減量に成功した。「きっかけは、女として終わるのが嫌だと長年悩み続けたこと。あとは、過去に浮気した夫（54歳）への復讐の気持ちがあったかも……」と話し始めた。

前編では、2年間で13kgの減量を達成するまでの日々を紹介した。ここではさらに10kg落とし、維持していることについて詳述する。

【これまでの経緯は前編で】

「膝が悪いから、水泳がいいのではないか」

尚美さんの減量にアドバイスをくれたのは、娘（現在21歳）が進学した高校で出会った元ミス日本のママ友だ。彼女は、夫のモラハラやDVの果てに離婚して、年下の彼氏ができたことを尚美さんに打ち明ける。それに「うらやましい」と反応したことで、「まずは減量だよ」とアドバイスをくれた。

「彼女のアドバイスを守って、減量を続けていると、彼女はミス日本仕込みのアドバイスをPTAの会合の度にくれる。私が遠慮すると、“頑張っている人を輝かせるのが私の生きがい”と言ってくれる。それまで、美しい人にコンプレックスがあり、“美人＝意地悪”みたいな思い込みがあったのですが、本当の美人は、朗らかで親切だと感じたのです。彼女は離婚直後に“年下の彼氏ができた”と言っていましたが、半年くらいで“やっぱ、男は面倒”とすっぱり別れていた。私もそのセリフを言ってみたいとも（笑）」

尚美さんが、さらに減量するために、ジョギングしたいというと、「肥満体型の人は、変形性膝関節症のリスクが高い。関節に問題を抱えると厄介だから、整形外科で診てもらって」とアドバイスをくれた。

「受診したら、お医者さんはジョギングはやめた方がいいという。それをママ友に聞いたら、“スイミングしかない”という話になり、これは乗りかかった船だと、3か月以上迷って、スポーツクラブの初心者クラスに入ったんです」

尚美さんには運動歴が全くない。スポーツクラブに入るのも初めてだった。

「水着が入る体型になっておいて、本当に良かったと思いました。とりあえず、浮くことはできたものの、とにかく無様。足が攣って溺れ、死にそうになって助けてもらったこともありました。恥ずかしくて苦しくて、どうしょうもなかったけれど、ここでやめたらこのままだと思い、頑張って続けたのです。浮気した夫を見返してやりたいという思いもありました」

水泳は体の感覚を掴めば、泳げるようになる。尚美さんは週2回通い、半年目に「あ、できた」という感覚を掴んだという。

「できるようになると、楽しくなるもの。泳いでいると頭も空っぽになって、気持ちいい。ただ、泳いだあとは猛烈にお腹が空く。ファストフードやお菓子をドカ食いしたくなるんです。それを見越して、ママ友は“チーズと塩を効かせた玄米のおにぎり、黒砂糖を持参しな”とアドバイスをくれました」

泳法の習得後は、1週間に3回、クロールでゆっくり30分程度泳ぐという生活習慣を続けたという。食事制限もあり、1年間で7キロ減る。娘の高校卒業式の時は、155cm75kgから55kgになっていた。20年ぶりにワンピースを購入し、ママ友の勧めに従い、プロにメイクをしてもらった。

「すると、知らないお父さんや、男性の先生がすごく優しくしてくれて、“またお会いしましょう”などと言ってくる。一応、“女”としての舞台に立てたとは思いましたが、自分と同世代の男性と恋愛をするのも気持ち悪い。さりとて、夫と男と女の関係を持つのも“ないわ〜”という揺らぎは、この頃も続いていました」

【夫から誘ってきたけれど……次のページに続きます】