1986年『女が家を買うとき』(文藝春秋)での作家デビューで、世間に鮮烈な印象を残した松原惇子さん。77歳に至る現在まで、一貫して「ひとりの生き方」を書き続けてきました。そんな松原さんの最新刊が『70歳からの手ぶら暮らし』(SBクリエイティブ)です。

65歳で持ち家を手放し、75歳で愛猫を亡くし、母親も亡くし、独り身で身寄りもなく、年金額も少なく、傍から見たら不幸の条件が重なってみえるかもしれませんが、毎日を機嫌よく暮らしています。また、本書では「ひとりの老後を応援する会」の代表でもある松原さんが、自身と同様に「孤独」や「老い」を楽しんでいるおひとりさまたちのお金や住まい事情、暮らしの様子に迫ります。お金があろうとなかろうと、住まいがどこであろうと、とてもイキイキと暮らしている彼女たちの様子は、見えない未来に不安を抱えている女性はもちろん、男性たちにも希望を与えてくれるはずです。

「何も持たなくても、いつでもどこでも幸せになれる」ことを教えてくれる一冊から、松原流の「手ぶら暮らし」の極意をご紹介します。

文/松原惇子

「目標があれば元気になれる」77歳。
毎日がこんなに楽しい

喜寿なんてぜんぜん嬉しくない

今度の誕生日でわたしは77歳、喜寿になるらしい。自覚のないまま喜寿にされるとはトホホ。みんな、こんな感じで自分の年齢に驚きを感じながら年を取っていくのかしらね。しかし、70歳になってからの時間の早さにわたしはついていけないでいる。「喜寿を記念して、ライブをやったのよ。あなたもやりなさいよ」と華やかな写真を見せてくれた知人もいるが、わたしはあまりはしゃぐ気になれない。だって、ぜんぜん嬉しくないのだから。

しかし、先日、フジコ・ヘミングさんのラ・カンパネラに感動し、10年の歳月をかけて一曲をマスターした60歳の漁師の方の演奏を聴いて目が覚めた。年齢を嘆いている場合じゃないわ。彼のようにやりたいことをやらないと、人生のシャッターが降りてしまう。彼と競うわけではないが、わたしもピアノを弾きたいという意欲が湧いて来た。子どもの頃からバイオリンやマリンバなど楽器には親しんできたが、ピアノだけは避けていた。なぜなら、みんなが習うからだ。わたしはみんなと同じが好きではない。でも、彼の挑戦する姿を見てわたしは発奮した。「わたしもグランドピアノを弾きたい!! そうだわ。ひとりの老後のパートナーは友人知人でもない、ピアノだったのだ」

たまたま書店で手にした『老後とピアノ』(ポプラ社)を上梓した稲垣えみ子さんにも触発された。1965年生まれの稲垣さんは子どもの頃にピアノを習っていたらしいが53歳で40年ぶりにピアノに挑戦することになる。その奮闘ぶりが書かれていた。彼女はまだ50代なので老後ではないと思うが、いいタイトルだ。彼女と競うわけではないが、77歳のわたしは発奮した。わたしこそ「老後とピアノ」ではないのか。不思議なもので、そう思いたったとたんに、暑さを理由に昼寝ばかりしていたわたしに力が湧いてきた。血液型がO型のせいか、はたまた猪突猛進のイノシシ年生まれのせいか、わたしは目標がないと力がでない性格なのだ。

久々に見つかった目標を前にわたしは思った。人はどんなに落ち込んでいても、目の前にちょっとした目標があれば変われると。

※本書では、著者と同世代の女性たちの頼もしいエピソードが紹介されています。

*  *  *


70歳からの手ぶら暮らし
松原惇子
SBクリエイティブ 1,430円

松原惇子 (まつばら・じゅんこ)
ノンフィクション作家。1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジにてカウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3作目の『クロワッサン症候群』(文藝春秋)はベストセラーに。1998年には、おひとりさまの終活を応援する団体、NPO法人SSS(スリーエス)ネットワークを立ち上げる。『ひとりで老いるということ』、『孤独こそ最高の老後』、『極上のおひとり死』(SB新書)、母・松原かね子氏との共著『97歳母と75歳娘 ひとり暮らしが一番幸せ』(中央公論新社)など、著書多数。

 

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