文/中村康宏
寝たきり予防、生活習慣病予防のカギを握るのが「NEAT(ニート)」だということをご存知でしょうか? 「NEAT」と聞くと就学・ 就労・職業訓練のいずれも行っていないことを意味する用語で「何もしない人」をイメージしてしまい、むしろニートが寝たきりや生活習慣病を招くのではないかと思う人も多いでしょう。
しかし、ここでいうNEATは意味が違います! NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis)の略で、スポーツなどの特別な運動によらない、日常生活によるエネルギー消費のことを意味します。
実はこのNEAT生活がカラダにいい生活なのです。NEATがなぜ・どのようにカラダに良いのか、解説します。
■NEATとは
上述の通り、NEATとはスポーツなどの特別な運動によらない、日常生活によるエネルギー消費のことを意味します。具体的に、NEATには家事や通勤などの身体活動が含まれ、一般的に運動強度は3METs(メッツ)以下の活動と考えられています。(以下図参照)
NEATはヒトのエネルギー消費の約 30% を占めます。基礎代謝の半分程度ですが、1時間の運動によるエネルギー消費の約3倍に値し、NEATは健康的な生活において無視できないエネルギー消費量になります。ある研究によると、太っている人の体重減少の程度はNEATの量(立位・歩行時間の長さ)と比例し、逆に、太っている人の体重増加の程度はNEATの量と反比例すると報告されています(*1)。また、様々な筋トレ・運動の方法論が長く議論されていますが、長期的には有益だといえる方法はないということがわかってきて、ますます健康におけるNEATの重要性が注目されています。
■NEATが注目されている理由
手軽で簡単
わざわざジムに行かなくてもいい、着替えて走ったり自転車に乗ったりしなくてもいいのがNEATのメリットです。
ダイエット効果
NEATを意識することで、消費エネルギーが多くなり自然で無理のない体重減少が期待できます。それと同時に、立つ、歩く、姿勢を伸ばすといった筋肉がつくことで基礎代謝アップが期待できます。
カロリー消費効率が高い
1時間ジムでトレーニングを行っても、せいぜい300kcalしか消費できず、それは一日消費カロリーの10-20%程度です。一方、NEATに目を向けると、買い物や通勤における歩行や姿勢保持のためにもエネルギーは消費されます。座位でも寝ているときに比べてエネルギー消費は約4%増加し、立位では約13%増加します(*2)。
このグラフからもわかるように、現代人の生活の半分以上が座っている状態になります(*3)。NEATの強度を少し上げるだけ、具体的には、座っている時間の2.5 時間を立位あるいは歩行に費やすだけで、毎日約 350kcalのエネルギーを余分に消費することができるのです(*4)。実は、NEATを増やすことは運動するより効率がいいのです。
将来の病気のリスクを減らす
NEATを増やすことが、将来の寝たきり(フレイルやロコモーティブシンドローム)、メタボ・生活習慣病のリスクを減らすと言われています。ある研究によると、週に7時間以上の中高強度の運動を実施していたとしても、テレビ視聴時間が1日7時間以上の人は、1時間未満の人と比べて総死亡リスクが47%、心臓病による死亡リスク は2倍も高いと報告されています(*5)。別の研究でも、余暇におけるテレビ視聴や読書を含む座位時間が1日6時間以上の成人の場合、3時間未満の成人と比べて総死亡リスクが男性で17%、女性では34%も高いことがわかっています(*6)。
■NEATの増やし方
普段のデスクワークを、立って行う、椅子にもたれないで行うだけでもNEATアップにつながります。エレベーター、エスカレーターの代わりに階段を使う、テレビの時間にエクササイズやストレッチを一緒に行うことも有効です。
普段より多く動けば良いだけなので、何も難しいことはありません。ただ、大切なことは「続けること」です。このような地味な作業には筋トレのような筋肉の張り感や爽快な疲労感がなく「やっている実感」を持てないことがネックになります。
そこで、1時間に一回自分の姿勢が維持できているかをチェックしたり、できたことを記録していくようにしましょう。記録すると自分の小さな変化にも気づくようになりますし、そのことによって自分でも続けることができたという「自己効力感」を芽生えさせることができます。自己効力感は行動の継続、さらには運動習慣の獲得へとその人を導く大切な要素です。なかなか運動習慣が根付かない人がNEATを見直すことは、行動を変えるジャンプ台にもなる可能性を秘めているのです。
* * *
以上、NEATについて解説しました。NEATは運動に比べて地味で実感の持てないエネルギー消費ですが、お金が複利で増えていくように、中長期的には大きな効果をもたらします。また、ダイエット効果だけでなく、病気を予防し健康に生きるためのカラダづくりとしても、NEATは注目されています。NEATアップは難しくなく、いますぐに始められます。まず、背もたれから背中を離し、姿勢を正すことから始めてみませんか?
【参考文献】
1.糖尿病 2012; 55: 313-5
2.Arterioscler Thromb Vasc Biol 2006; 26: 729-36
3.JJHEP 2013; 21: 142-53
4.Science 2005; 307: 584-6
5.Am J Clin Nutr 2012; 95: 437–45
6.Am J Epidemiol 2010; 172: 419–29
文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。
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