文/石川真禧照(自動車生活探険家)
初代の登場は1967年。お抱え運転手が運転することを前提につくられた、国産唯一のショーファーカーが21年ぶりに全面改良された。乗り心地、静粛性などが格段に向上した3代目の魅力を探る。
世界でも5本の指に入る自動車メーカーが、自社の持つ技術と車づくりの情熱をすべて注いでつくり上げた一台の車。外観、内装、動力源において日本車の最高峰といえるトヨタのセンチュリーが、21年ぶりに全面改良された。
3代目となる新型は、細部に至るまで“日本独自の美意識”を感じさせる車づくりが秀逸だ。
たとえば車体前面中央のエムブレムの鳳凰は、専任の工匠が金型を約1か月半かけて手で彫りこんだもの。さらに、フロントグリルの縦格子の奥には七宝文様の意匠が配されている。七宝文様とは同じ大きさの円を重ねて描かれる日本の伝統柄。無限に繋がる円ということから、円満や子孫繁栄などを表すとされる。
また、ボンネットから後部荷室にかけての車体側面に端正なラインが走っている。これは几帳面と呼ばれる、平安時代から屏障具などの柱の面処理に用いられる研ぎ出しの技法によるものだ。
車体の塗装も、黒色は7層に塗り重ねた後、水研ぎを3回施して僅わずかな凹凸を修正するなど、じつに手がこんでいる。漆塗りを手本にした最後の芸術的な鏡面仕上げは、匠の技のたまものである。
室内も見事だ。座席の表皮は本革仕様もあるが、高級ウール地を使った仕様が美しい。前席と主賓が座る後席とを明確に区別しており、運転席と助手席の間には11.6インチの高精細な大型液晶画面、左後席用に電動のオットマン(足乗せ用のソファ)も備える。
天井は中央部を一段高くした折り上げ天井様式で、卍(まんじ)の文字を崩して組み合わせた紗綾形崩し柄の織物を配している。この柄は繁栄と長寿を願う文様とされている。
乗り心地と静粛性が格段に向上。多彩な先進安全装備も充実する
センチュリーの購入者で自ら運転する人は少ないだろう。全長約5.3mの大型な車体だが、運転席は着座位置がやや高く、視界も良好で、思いのほか運転しやすい。
新開発されたエアサスペンションや乗り心地に特化した新タイヤ、エンジンとモーターを併用するハイブリッド方式の採用によって、動力性能や走行安定性は極めて高い。2代目は世界的にも稀少な12気筒エンジンを搭載していたが、3代目は環境や省エネ時代に対応。V型8気筒5Lエンジンのハイブリッド車に生まれ変わった。
後席の乗り心地を最重視しているが、路面の凹凸による不快な振動や突き上げ感は運転席でもほとんど感じない。車体には通常の約2倍の遮音材を使用し、ドアを閉めた途端、室内は静寂に包まれる。
安全面では、単眼カメラとミリ波レーダーを併用する検知センサーを使った多彩な安全装備が同車に初めて搭載された。
“継承と進化”をテーマに開発された新型センチュリー。匠の技によって磨き上げられた日本伝統の美と品格が輝きを放つ、世界に誇れる国産車である。
【トヨタ センチュリー】
全長× 全幅× 全高:5335×1930×1505mm
ホイールベース:3090mm
車両重量:2370kg
エンジン:モーター/V型8気筒/4968cc:交流同期電動機
最高出力:381PS/6200rpm:224PS
最大トルク:52.0kg-m/4000rpm:30.6kg-m
駆動方式:後輪駆動
燃料消費率:13.6㎞/L(JC08モード)
使用燃料:バッテリー/無鉛プレミアムガソリン 82L:ニッケル水素電池
ミッション:電気式無段変速機
前・後:マルチリンク式
ブレーキ形式:前・後:ベンチレーテッドディスク
乗車定員:5名
車両価格:1960万円(消費税込み)
問い合わせ:お客様相談センター 0800・700・7700
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2019年1月号より転載しました。