文/石川真禧照(自動車生活探険家)
飾り気はないが、世界一まじめな高性能を誇る。日本車史上屈指のロングセラーの新型は、アクセルの踏み間違い防止機能や自動ブレーキなど最先端の安全装備を搭載し、走行性能も大幅に進化させた。
「カローラ」といえばトヨタを代表する車である。
1966年に初代が誕生して以来、その歴史は54年に及ぶ。この間に多くの新型車が発売されたが、車名を変えることなく現在まで販売されているトヨタの車は、「クラウン」と「カローラ」だけになってしまった。時代の波に乗り続けることがいかに難しいかを示している。
令和元年秋に発売された新型のカローラは、これまでのカローラとは、車体の大きさが異なる。今回のカローラは、海外生産車と共通にするため、日本の「5ナンバー」の車体寸法基準(全長4.7m×全幅1.7m×全高2m以下)は考えずに設計開発された。全幅は1.74mと広くなり、「3ナンバー」車になった。日本国内で販売されるカローラで3ナンバーというのは初めてのことである。
カーブ走行時の操作性が進化
最近では、3ナンバーだからといって税金が高くなることはないのだが(税金はエンジンの排気量と車体重量で算出される)、昔からのカローラを知る人にとっては、「カローラが3ナンバー?」といぶかしく思うかもしれない。
しかし、乗ってみると、新型カローラは、これまでにない素晴らしい車に仕上がっている。とくに出来のよさが際立つのは、カーブでハンドルを切ったときの動きだ。手首の少しの動きに俊敏に反応し、車が向きを変えてくれる。そのときの一体感が、これまでのトヨタの大衆向けセダンの動きとは、まったく異なるのだ。
なぜカローラは、これほど素晴らしい車に進化を遂げたのか。その理由は社長にある。
54年の歴史を引き継ぎ生まれ変わった最先端セダン
トヨタ自動車の豊田章男社長は、自らハンドルを握り、モータースポーツに積極的に参加している。サーキットでのレースや公道を走るラリーに参加する理由は、「いい車をつくるため」だという。社長に就任してからも多忙ななかでサーキットやテストコースに通い、いい車をつくるという思いを社員たちに自ら伝えてきた。
最初は“社長の道楽”と冷ややかな目で見ていた社員や役員も多かった。ひとつの新型車を開発するには3~5年の年月がかかるので、そう簡単には車づくりの方向性を変えることはできないからである。実際、2009年に章男氏が社長に就任してから5~6年経過しても、トヨタの車に試乗して、いい車になってきたという実感は湧かなかった。
しかし、新型カローラは違う。ハンドルを切ったときの動きがシャープになり、ドイツのセダンに負けない走りが楽しめる。衝突を回避する自動ブレーキや、アクセルペダルの踏み間違い防止機能、後方左右のレーダー検知など、最新の安全装備も搭載されている。
ここ1~2年、トヨタが発表する車が変わってきた。これからおもしろくなりそうだ。
【トヨタ/カローラ セダン S】
全長× 全幅× 全高:4495×1745×1435mm
ホイールベース:2640mm
車両重量:1300kg
エンジン:直列4気筒DOHC/1797cc
最高出力:140PS/6200rpm
最大トルク:17.3㎏-m/3900rpm
駆動方式:前輪駆動
燃料消費率:14.6km/L(WLTCモード)
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン 50L
ミッション形式:CVT(無段変速)
サスペンション:前:ストラット式 後:ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ形式:前:ベンチレーテッドディスク 後:ディスク
乗車定員:5名
車両価格:213万9500円(消費税込み)
問い合わせ:お客様相談センター 0800・700・7700
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2020年2月号より転載しました。