文・石川真禧照(自動車生活探険家)

1970年代まで日本国内で見かける輸入車はアメリカ車が多かった。大きな車体に大排気量、多気筒エンジンの車が主役だった。スポーツモデルは大抵、V8エンジン、排気量6.0L以上が普通で、この時代に車を所有していた人の憧れの仕様だった。
やがてアメリカ車も小型化の波が押し寄せ、魅力的な車が激減。欧州の有名メーカーが次々と日本での販売を開始したこともあり、多気筒、大排気量エンジンのアメリカ車は次第に市場から姿が消えていってしまった。しかし、アメリカ国内ではその火は消えず、アメリカに輸出していた欧州も多気筒、大排気量エンジンの車をつくり続けた。主にスポーツカーや大型高級車の世界で生産は続けられていた。






1989年(平成元年)に北米でスタートしたトヨタの高級ブランドであるレクサスは、2005年から日本でも展開されることになった。当初はトヨタ車からの改良版が中心だったが、独自の車両開発もはじまり、レクサスブランドは確立していった。もともと北米市場を中心に展開していたブランドだけに、高級車やスポーツカーは、多気筒、大排気量エンジンが主役。2017年にはV8エンジン搭載車が6車種もあった。


その後、世界の市場は省エネ、地球環境保全の流れの中で、小排気量エンジンが主流になった。ターボチャージャーやスーパーチャージャーなどの技術も進化し、2Lエンジンで数百馬力が可能な時代になった。
ただ一部の熱狂的なファンは多気筒、大排気量エンジンの存続を熱望していた。レクサスもV8エンジン搭載車を減らし始めてはいるが、まだその存在は残っている。しかも、毎年のように改良を重ねている。世界中のスポーツカーメーカーや高級ブランドが、必死で残している多気筒、大排気量エンジンを搭載した車を、日本ではレクサスLCが継承している。



2012年に公開され、日本では18年から販売を開始。当時2ドアクーペだけだった車体は、20年に屋根が全開し、布製の幌を装備したコンバーチブルを追加。現在では世界のスポーツカーの中でも数少ないV8エンジン搭載のオープンスポーツカーだ。
V型8気筒エンジン。それは、排気量4L以上のガソリンエンジンが好きなカーマニアには憧れのエンジン。最新のレクサスLC500 コンバーチブルの座席に着き、シートベルトを締め、センターコンソール上のスイッチで屋根を開けてからスタートボタンを押すと、その瞬間に野太く周囲に轟きわたるような排気音が耳に入ってくる。人によっては時代遅れというが、往年のスポーツカーファンにはたまらないサウンドにワクワクさせられる。この音だけでアドレナリンが身体中を駆け巡る。これは直列4気筒、2Lエンジンでは味わえない迫力だ。



かつてのV8エンジン搭載車は、エンジン始動と同時に車体もゆすられたが、最新のレクサスLC500は前後の床下に補強材が入れられ、振動などが抑えられているので、何事もなかったかのように静止している。Dレンジでの発進も、若干車体の重さを感じるものの、動き出してしまえば一気に加速する。その実力はもちろん超一級。V8、5Lエンジンも7000回転までスムーズに上昇する。“コンフォートモード”を選択しておけば、街中での乗り心地や高速走行での安定性も確保できる。


同じエンジンを搭載するクーペも美しいスタイリングで魅力的だが、新車で手に入るV8エンジンのオープンカーは世界でも数車種しかないのだ。
これから先のことを考えると、今が最後のチャンスかもしれない。ハンドルを握り春の風を体で感じながら、ふと銀行預金の残高を考えてしまった。
レクサス LC500 コンバーチブル
全長×全幅×全高 | 4770×1920×1350mm |
ホイールベース | 2870mm |
車両重量 | 2050kg |
エンジン | V型8気筒DOHC 4968cc |
最高出力 | 477ps/7100rpm |
最大トルク | 540Nm/4800rpm |
駆動形式 | 後輪駆動 |
燃料消費量 | 8.0km(WLTC) |
使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/82L |
ミッション形式 | Direct Shift−10AT(電子制御10速オートマチック) |
サスペンション形式 | 前:マルチリンク/後:マルチリンク |
ブレーキ形式 | 前:ベンチレーテッドディスク/後:ベンチレーテッドディスク |
乗員定員 | 4名 |
車両価格(税込) | 1550万円 |
問い合わせ先 | 0800-500-5577 |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博