文・石川真禧照(自動車生活探険家)

2024年12月の改良で、床回りを強化し、コーナリング性能はさらに向上した。

1970年代まで日本国内で見かける輸入車はアメリカ車が多かった。大きな車体に大排気量、多気筒エンジンの車が主役だった。スポーツモデルは大抵、V8エンジン、排気量6.0L以上が普通で、この時代に車を所有していた人の憧れの仕様だった。

やがてアメリカ車も小型化の波が押し寄せ、魅力的な車が激減。欧州の有名メーカーが次々と日本での販売を開始したこともあり、多気筒、大排気量エンジンのアメリカ車は次第に市場から姿が消えていってしまった。しかし、アメリカ国内ではその火は消えず、アメリカに輸出していた欧州も多気筒、大排気量エンジンの車をつくり続けた。主にスポーツカーや大型高級車の世界で生産は続けられていた。

レクサス車を象徴する、台形を上下に配置したスピンドル(紡鐘)グリルは2012年から採用されている。メッシュの間隔も上から下へと微妙に異なっている。ヘッドライトは超小型の三眼LED。
ドアウインドと幌を全開にした状態。幌はボディの中に折り畳まれ、外からは見えない。屋根がないので、車体の補強が行われ、車両重量はクーペより約100kg重い。
幌を閉じると、リアウインドの面積が狭く、後方視界は限られる。幌の開閉は約15秒と速い。
幌を開け、サイドウインドを立てた状態。この状態で走行すれば、時速100キロでも室内への風の巻きこみは少ない。
幌は4重の布製で耐久性もよく、締めればクーペに近い居住性が保たれる。車体色は9色、幌は4色から選べる。

1989年(平成元年)に北米でスタートしたトヨタの高級ブランドであるレクサスは、2005年から日本でも展開されることになった。当初はトヨタ車からの改良版が中心だったが、独自の車両開発もはじまり、レクサスブランドは確立していった。もともと北米市場を中心に展開していたブランドだけに、高級車やスポーツカーは、多気筒、大排気量エンジンが主役。2017年にはV8エンジン搭載車が6車種もあった。

国産で唯一になってしまったV型8気筒エンジンはカバーによって本体を確認することはできない。
ドライブモード毎に切り変わるTFT液晶メーターもコンバーチブル専用仕様。9000回転まで刻まれ、7000回転からレッドゾーン。0→100km/h加速では7000回転まで豪快に上昇する。

その後、世界の市場は省エネ、地球環境保全の流れの中で、小排気量エンジンが主流になった。ターボチャージャーやスーパーチャージャーなどの技術も進化し、2Lエンジンで数百馬力が可能な時代になった。

ただ一部の熱狂的なファンは多気筒、大排気量エンジンの存続を熱望していた。レクサスもV8エンジン搭載車を減らし始めてはいるが、まだその存在は残っている。しかも、毎年のように改良を重ねている。世界中のスポーツカーメーカーや高級ブランドが、必死で残している多気筒、大排気量エンジンを搭載した車を、日本ではレクサスLCが継承している。

肩までしっかりと体を支えてくれる形状の前席。コンバーチブル用は座面にたわみを持たせた深吊り機構を採用し、座り心地を向上させている。
幌を閉じた状態でも身長150cmまでならなんとか座れる後席。足元は狭い。万が一の転倒時にはロールバーが後席うしろの車体から飛び出す。
幌の開閉に関係なく確保されているトランクスペース。クーペよりは狭いがそれでもゴルフバッグは1セット収納できる。

2012年に公開され、日本では18年から販売を開始。当時2ドアクーペだけだった車体は、20年に屋根が全開し、布製の幌を装備したコンバーチブルを追加。現在では世界のスポーツカーの中でも数少ないV8エンジン搭載のオープンスポーツカーだ。

V型8気筒エンジン。それは、排気量4L以上のガソリンエンジンが好きなカーマニアには憧れのエンジン。最新のレクサスLC500 コンバーチブルの座席に着き、シートベルトを締め、センターコンソール上のスイッチで屋根を開けてからスタートボタンを押すと、その瞬間に野太く周囲に轟きわたるような排気音が耳に入ってくる。人によっては時代遅れというが、往年のスポーツカーファンにはたまらないサウンドにワクワクさせられる。この音だけでアドレナリンが身体中を駆け巡る。これは直列4気筒、2Lエンジンでは味わえない迫力だ。

センターコンソールまで運転席側という配置の室内。液晶画面は音声認識も備わっている。内装色は4色から選べる。
中央のダイヤルはオーディオ系、右のシフトレバーは乗用車では世界発の10速AT用、10段目は時速100キロでシフトされる。
オーディオダイヤルの後方にフタ付のレバーがルーフとウインド開閉を行う。幌の開閉に要する時間は約15秒で、時速50キロ以下で走行中でも操作できる。

かつてのV8エンジン搭載車は、エンジン始動と同時に車体もゆすられたが、最新のレクサスLC500は前後の床下に補強材が入れられ、振動などが抑えられているので、何事もなかったかのように静止している。Dレンジでの発進も、若干車体の重さを感じるものの、動き出してしまえば一気に加速する。その実力はもちろん超一級。V8、5Lエンジンも7000回転までスムーズに上昇する。“コンフォートモード”を選択しておけば、街中での乗り心地や高速走行での安定性も確保できる。

メーターカバーの外側に走行モード切り替えダイヤル。左側はS/S+、NORMAL/Custom、Comfort/Ecoが選択できる。
右側のダイヤルはトラクションコントロールOFFとSnowモードが選択できる。

同じエンジンを搭載するクーペも美しいスタイリングで魅力的だが、新車で手に入るV8エンジンのオープンカーは世界でも数車種しかないのだ。

これから先のことを考えると、今が最後のチャンスかもしれない。ハンドルを握り春の風を体で感じながら、ふと銀行預金の残高を考えてしまった。

レクサス LC500 コンバーチブル

全長×全幅×全高4770×1920×1350mm
ホイールベース2870mm
車両重量2050kg
エンジンV型8気筒DOHC 4968cc
最高出力477ps/7100rpm
最大トルク540Nm/4800rpm
駆動形式後輪駆動
燃料消費量8.0km(WLTC) 
使用燃料/容量                無鉛プレミアムガソリン/82L
ミッション形式 Direct Shift−10AT(電子制御10速オートマチック)
サスペンション形式前:マルチリンク/後:マルチリンク
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク/後:ベンチレーテッドディスク   
乗員定員4名
車両価格(税込)1550万円
問い合わせ先0800-500-5577

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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