文・石川真禧照(自動車生活探険家)

シャープな回頭性を実現するために車体前部と後車軸を強化したことで、路面との接地性が向上した。

10代から20代の頃、運転免許が欲しくて仕方のなかった人は、大抵憧れの車があった。

その車は屋根の開いたオープンカーだったり、スピードの出るスポーツカーだったが、もちろん購入できるほどの収入もなく、夢の話だった。

歴代のZの中でも、最も初代のスタイリングイメージに近いのは現行モデルの7代目。開発陣もそれを意識した。
車体色は屋根を黒色にしたツートーンのタイプが4色とモノトーンのタイプが6色、計10パターンから選べる。ドア上からテールに伸びたクロームメッキの加飾は好き嫌いがわかれるところ。
1969年にデビューした初代フェアレディZ。日本市場より北米市場で人気を集め、約10年間に55万台生産された。日本市場では約8万台が販売されたと言われている。当時の新車価格は廉価版のZで93万円、Z-Lは108万円。ちなみにスカイライン2000GTの4ドアAT車は91万5000円だった。

時が過ぎ、この若者だった人たちが当時の憧れの車を購入する例が増えている。当然新車ではなく、車齢50年近い中古車だ。じつは筆者もそのひとりなのだが、当時の車は中古車市場でも台数が少なく、また同じことを考えている同朋は多いらしく、近年市場での値上がりが激しい。あの頃の新車価格の数倍であることも珍しくないのだ。

四隅が直線のグリル、左右の丸型ヘッドライトも初代のイメージ。但し、最新モデルはヘッドライトはLEDで、上下半円のデイライトランプが装備されている。
ロングノーズ、ショートデッキのプロポーション。初代と比べると全長265mm、全高20mm、ホイールベースは245mmも大きい。これも衝突安全基準の影響。当時の車は小さかった。
長四角のテールランプもZの伝統。最新型は3DシグネチャーLEDを使用。最新型のZは初代より車体幅が215mmも広い。
Fairladyの字体も、Zが別色なのも初代から変わっていない。
サイドウインドウとリアゲートの間のCピラーのZエンブレムも初代とおなじ場所に設けられていた。

1970年(昭和45年)、10月。東京・晴海で第17回東京モーターショーが開催された。前年からこの年にかけての国産車は、鈴鹿や富士でサーキットレースが盛んだったこともあり、国産各社がスポーツカーを発表し、一堂に展示していた。そのほとんどが今日、名車と言われている車だった。

トヨタ・セリカ、日産スカイラインGTR、三菱ギャランGTO、ホンダ1300クーペ、いすゞベレットGT等、次々と車名が出てくる。その中にフェアレディZもあった。

フェアレディZはそれまでの屋根のない二人乗りオープンカーのフェアレディからクーペタイプの二人乗りスポーツカーへとフルチェンジし車名も変更されたモデルで、フェアレディZはその後、モデルチェンジを繰り返しながら2022年には7代目が送り出された。スカイラインとともに日産車の中では歴史のある車名になっている。

座席は前の二人だけ。座面の中央部分に人工皮革を使用し、身体の動きを抑える。シートの色パターンは4タイプ用意されている。
運転席前のメーターは液晶パネルを採用。ドライブモードセレクターを操作することで、3パターン表示される。画面は「スポーツ」モードで、エンジン回転計が中央部分に大きく表示され、速度は右上に小さくデジタル数字で出る。
運転席まわり。目の前のメーターパネルは液晶画面なので、表示を換えることができる。ダッシュボード中央上の3連メーターは初代Zと同じデザイン。
ドライバーの方に向けられた3連メーター。右からターボブースト計。タービン回転計、電圧計が並ぶ。初代は時計、電流/燃料計、水温/油圧計が備わっていた。

7代目のZを開発するときに、その性格付けをどうするかが開発部門で取り上げられた。日産にはGTRという超ド級のスポーツカーもある。調査してみると、初代Zが日本だけでなく、米国でも支持されている事がわかった。本格的なスポーツカーというよりはスポーツカーの雰囲気を楽しめる車ということで人気があった。その人気の理由のひとつがスタイリング。そこで、新型は初代をオマージュしたスポーツカーにすることにした。60年代から70年代のデザインを取り入れるのは世界的にも流行していた。

車体前部に搭載されたエンジンはV型6気筒ガソリンツインターボ、3.0L。新型に合わせて出力は405psに向上している。
初代の時代には想像も出来なかったのが変速機のシフト。初代は5段手動変速で、シフトレバーが棒のように立っていた。最新モデルは6速手動クラッチペダル付きもあるが、ATであれば9速で、シフトは直方体のノブを縦方向に動かし、操作する。Mモードを選択すればコラムのパドルレバーで手動操作ができる。

冷静に考えれば、当時の車は安全面でも環境面でも現在の基準には合致しない。特に衝突安全に関しては運転者や同乗者だけでなく周囲に対しても責任がある。技術面でも最新のテクノロジーの発達は目覚ましいものがある。電子制御の進化は特に凄い。実際に古い車を最近試乗した時にヒヤッとする場面もあった。

初代から変わらないのが、駐車用ブレーキレバー。レバーを手で引き上げ、ブレーキをかける。Zは輸出重視なので、左ハンドル仕様でレバーも左側に位置している。
タイヤは専用開発したブリチストン・ポテンザ。ブレーキはアルミキャリパー、4輪ベンチレーテッドディスクを装着。

7代目のフェアレディZが発表されたのは2022年。ところが発表してから生産技術での問題が発生し、国内での受注が中断してしまった。待つこと約1年、ようやく25年モデルが販売されることになった。

撮影と試乗を兼ねた取材期間中、最新のフェアレディZが数日間我が家のガレージに居たのだが、毎日その姿を見て、ドアを開け、乗り込んだ時、50年以上前に憧れの車に乗ったかのような幸せの時間を味わうことができた。当時の実車を手に入れるのも楽しいが、もっと気軽にこういう形で憧れの車を乗り回すのも、車の楽しみのひとつの方法かもしれない、と思った。

日産/フェアレディ Z バージョン ST

全長×全幅×全高4380×1845×1315mm
ホイールベース2550mm
車両重量1620kg
エンジンV型6気筒ガソリンツインターボ 2997cc  
最高出力エンジン405ps/6400rpm
最大トルクエンジン475Nm/1600~5600rpm
駆動形式後輪駆動
燃料消費量10.2km(WLTC) 
使用燃料/容量                無鉛プレミアムガソリン/ 62 L
ミッション形式電子制御 9速自動変速
サスペンション形式前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク/後:ベンチレーテッドディスク   
乗員定員2名
車両価格(税込)675万9500円
問い合わせ先0120-981-523

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2025年
8月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店

SNS

公式SNSで最新情報を配信中!