文・石川真禧照(自動車生活探険家)

5つの走行モードは画面から選択でき、車高、サスの硬さ、加速、シート形状などをコントロールし、快適に走らせることができる。

EV(電気自動車)が地球環境に良いと言われだしたころ、EVは小型で街中を走るコミューター的な乗り物と思われていた。しかし、米国テスラが高級・大型・高額なEVを制作し販売すると、富裕層の間で人気になり新しい高級車市場が誕生した。EVの開発はガソリン車やディーゼル車よりも短時間でできることから、各国の高級車ブランドが着手し始める。例えばドイツ勢は、メルセデスベンツ、BMW、アウディの御三家に加え、ポルシェなども含めて自らの技術力を誇るように高級EVを発表した。

英国のロータスはかつてはライトウエイトスポーツと呼ばれる小型、軽量なスポーツカーを得意とし、セブン、エラン、ヨーロッパ、エリーゼなどのヒット作を造り出してきた。フォーミュラ1レースからの実戦経験に基づいたクルマ造りの技術で、次々とライトウエイトスポーツカーの名車と呼ばれるクルマを発表してきた。

ボンネット上の2本のライトはデイタイムランニングライトとウインカーで、ヘッドライトはその下のスリットの中に左右2灯式の角型小径ライトが装備されている。
電子制御エアサスペンションシステムで、最低地上高はこのモデルの場合は146mmが標準。モードにより上下する。
シンプルなデザインの後ろ姿。バンパーやバンパー下にエキゾーストパイプはない。

そのロータスが2020年、突然、EVの生産にのり出した。しかも高級、高性能なスポーツカーやSUV。フォーミュラ1で培ってきた技術は、車体の形状にも生かされる。限られた電力でクルマを動かすEVは、空気抵抗が性能向上の鍵と言われている。確かにこれまでに発表された高性能EVは、タイヤのホイールにまで空気抵抗を減らす工夫をしている。そこまで設計に気を使うのだそうだ。

全長5.1m、全幅2.0mはライバルであるポルシェのEVタイカンやパナメーラよりも全長、全幅ともに大きいサイズ。
こうして見ると最新のトヨタ・クラウンも車体半ばから後半にかけての造形は同じ。最新セダンの最先端デザインだ。

この点でロータスは他車よりも優れているように感じる。車体側面の空気口はタイヤからの空気の流れを整える役目があると言われているが、ロータスの空気口は本当にタイヤが見える位置に開けてある。車体全体が空気の流れに逆らわないのだ。

空気抵抗の軽減に徹した車体は至るところに本格的な空気の通り道が空けられている。写真は左後輪から車体後部への“穴”。タイヤが確認できるぐらい大きい。

ロータスがつくるはじめてのリアゲート付5ドア大型サルーンは先進的技術と快適追求アイディアが満載されている。

まずドアの開閉は前後ともに自動。開けるときは周囲の状況をカメラが監視し、後ろから車や自転車、歩行者が近づいているときは開く角度を制御し、周囲の迷惑にならないようにしている。屋根の上、左右フェンダー、リアの4か所に自動運転用のカメラも内蔵されている。

中央の液晶画面は15.1インチHD有機EL Lotus Hyper OSインフォテイメントシステム。ドアの開きもスクリーンタッチすることで行える。
前席の着座位置は低め。走行モードにより背もたれが動き、体にフィットする。
後席の着座位置はやや高め、撮影車はオプションで左右別々の座席が設定されていたが、標準モデルは3名乗車できる。
変速機はセンターコンソールに小さく設けられているツマミで行う。回生は左パドルレバーで4段階。右パドルはドライブモードの選択に用いる。
サイドミラーはデジタル式。カメラからの映像はインパネ左右の画面にそれぞれ表示される。画面の調整はドアアームに内蔵されている。
ヘッドアップディスプレイはフロントウインドの前面に55インチで表示される。
天井のガラスルーフは、インテリジェント・パノラミック・ガラスルーフで、不透明と透明の切り替えが可能。部分的に不透明にするオプションも用意されている。
安全性はトップレベル。車体の前後左右4つのLiDAR(※)、18のレーダー、7つの8mpカメラ、5つの2mpカメラで、クルマの周囲200mまでの障害物をスキャンし、安全性を確保。将来の自動運転にも備えている。(※ライダー。レーザー光を使った画像検出と測距。)

電動ハイパーGTを名乗るだけに、動力性能も他のサルーン系電動GTに負けていない。撮影、試乗した最上級モデルのエメヤRは、車体の前後にモーターが置かれ、最高出力918ps、最大トルク985Nmを発生させる。2速の変速機は発進から動きを制御しているため、アクセルを踏みこんでもハイパーEVにありがちな頭の血の気が引くような加速Gもなくスーッと走り出すが、その後一気に加速する。気がつくと、発進から時速100キロまで3秒台というスーパースポーツカー並みの速さを体験できる。その動きは、例えるならば新幹線の加速に似ている。不快感はなく、速い。このような速さはこれまでのハイパーカーにはなかった。

もうひとつの特徴は急速充電。充電量が残り10%になっても、400kw、600A対応のDC急速充電器であれば14分で80%まで充電できるという最速充電機能を搭載している。ただし、日本では充電インフラが追いついていないので、この機能を試すことは難しい。

急速充電は600A対応400kwを使用。10~80%までの充電を14分で行うことが可能だが、日本での対応は少ない。航続距離はメーカー発表値で610kmだが、450~500kmが安全航続距離。

ライトウエイトスポーツカーメーカーが挑戦した大型、高級、高性能EVのGTカーは、街で見かける事が多くなってきたドイツ製GTやアメリカンGTでは物足りなく感じている人たちに勧めたいクルマだ。

車体前部の荷物収納。前後19cm、左右70cm、上下25~33cmで、アタッシュケースや充電ケーブルが入る。
車体後部のスペース。奥行は97cm、左右幅104~173cm、高さ35cm、バンパー開口部と路面は72cmと低め。床下の収納スペースも用意されている。

ロータス/エメヤ R

全長×全幅×全高5139×2005×1467mm
ホイールベース3069mm
車両重量2500kg
モーターデュアルモーター
最高出力918ps
最大トルク985Nm
駆動形式4WD
航続距離435~485km(WLTP) 
使用燃料/容量                リチウムイオン電池/102kwh
ミッション形式2速自動変速
サスペンション形式前:マルチリンク/後:マルチリンク
ブレーキ形式前:ディスク/後:ディスク   
乗員定員4名(オプション)
車両価格(税込)2268万2000円
問い合わせ先https://www.lotuscars.com/ja-JP

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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