文/石川真禧照(自動車生活探険家)
いつか、あの車の開発に関わりたい──。そんな憧れを抱く技術者が集結し、伝統の4ドアセダンをつくり変えた。国内ではセダンの人気低迷が続く中、15代目となる国産高級車は新たな輝きを放つ。
初代クラウンが登場したのは昭和30年だった。発売当初から、トヨタを代表する高級乗用車として世に送り出されてきた。車名も性格も変わらずに半世紀以上もつくり続けられている車は、世界を見渡してもそう多くはない。
そのクラウンが、今年6月の全面改良で大きく変わることになった。同車はこれまで、豪華さを謳う伝統のロイヤル、スポーティなアスリート、車体の大きな最上級のマジェスタという3シリーズが存在した。それらをひとつのシリーズにまとめ、基本となるボディをスポーティな意匠の1種類とし、仕様や装備の異なるグレードで車種を揃える構成に変更した。
従来のような車のつくり分けをやめ、クラウンとしての方向性を一本に絞ったことで、15代目となる新型車は、ここ数世代の中で完成度が最も高いといえる。
昨今、モデル変更のたびに大型化する車が多い中で、新型クラウンの寸法は先代とほぼ変わらない。日本の道路事情を考慮した使い勝手のいい車体サイズに加え、世界トップレベルの安全技術を採り入れた同車は、欧州の高級車と肩を並べる高水準な仕上がりである。
安全面では自動ブレーキの性能向上が目覚ましい。その作動実験がテストコースで行なわれた。ひとつは、時速40kmで走行中に駐車中の車の陰から時速15kmで自転車が飛び出すというもの。もうひとつは歩行者の代わりに人形を立たせた真っ暗な道を時速30kmで走行する実験で、いずれも進化したカメラとミリ波レーダーで検知、直前で停止し、衝突を回避した。
常に前方確認していても、判断が一瞬遅れることがある。それをカバーしてくれるのはありがたい。
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