文・石川真禧照(自動車生活探険家)

シボレーコルベットがはじめて販売されたのは1954年。当時のアメリカは欧州から次々とスポーツカーが上陸し、若者の関心を集めていた。それに対抗するためGM(ゼネラルモーターズ)がスポーツカーをつくったのだ。以来、コルベットはアメリカ製スポーツカーとして70年間もその地位を守り、アメリカの若者達が一度はあこがれるクルマとして存在してきた。
最新のコルベットは2019年に登場した8代目。このモデルが発売されたとき、日本のコルベットファンは驚いた。アメリカンビッグサイズであるV型8気筒エンジンは、車体の真ん中、運転席の後ろに積まれ、ミッドシップという本格的なスポーツカーになった。しかも日本仕様として右ハンドルが用意されていた。どちらも史上初のことだった。



さらに5年が経った2024年6月に、V8エンジンに加えてモーターを搭載し、四輪駆動にもなるコルベットが登場した。コルベットの電動化や四輪駆動は史上初の事。そのクルマが日本に上陸してきた。
実車に触れてみると、電動コルベットはユニークな構造だった。モーターとV8エンジンは一体ではなく別々に積まれ、車体の前にモーター、後方にV8エンジンを置き、それぞれが車輪の動力を伝える。もちろんエンジンとモーターのパワーはコンピューターで綿密に制御され走行するが、前輪モーター162馬力、後輪V8エンジン502馬力というパワーは、これまでのどのコルベットよりも速く走り、それでいて燃費も良い。まさに新時代のスポーツカーに生まれ変わっていた。
実際にどのような走りをするのか、試乗してみた。
コルベット E-Rayと名付けられたモーター搭載モデルは2ドアクーペ。V8、6.2Lエンジンのノーマル仕様と見た目自体は変わらない。
横幅の大きなドアを開け、全高1.2mの車体にもぐりこむ。ドアが大きく開くので乗り降りはラクだが、日本の駐車場では苦労しそうだ。しかし、一度座席に着いてしまえば頭上やAピラーからの圧迫感はない。このクラスのスーパースポーツカーとしては珍しく空間はしっかり確保できている。




スタートボタンを押すと目の前の液晶画面が一斉に点灯する。ノーマル車であれば、ここで運転席の後ろからV8エンジンのおたけびが聞こえるのだが、無音で走行状態になる。
センターコンソール上の8速ATの操作ボタンの「D」を押し、162馬力、165Nmのモーターの力で約1.9トンの電動コルベットは走り出した。
このまま時速70キロ以下を保ち急加速をしなければ、5kmぐらいはモーターで無音のまま走行できる。音のしないV8コルベットは新鮮な体験だ。
画面には走行中のモーターとエンジンの動きがリアルタイムで表示される。モーターを動かす電池の残量が20%になったところで、V8エンジンが目をさました。V8、6.2L、OHVエンジンの振動と排気音だ。
コルベットの電池は1.9kwhと容量が小さく、プラグインハイブリッドのように外部充電ができないので、電池を使いきったらどうなるのか興味深かった。その時はエンジンが稼働し、時速26キロ以上で走行したり減速の時にフロントのモーターが回生し、充電を行うようにプログラミングされているという。走行中に電池の充電が蓄えられると、再びモーターを動かし巡航時の前輪を駆動させ、V8エンジンは4気筒モードで後輪を駆動し、燃費を抑える走行を行うのだ。



もちろんアメリカンV8スポーツカーならではの走りも忘れてはない。EV走行を無視し、「スポーツ」や「サーキット」モードを選択すれば、V8エンジンは本来のパワーを発揮し、スタートから時速100キロまでを3秒台で走り切り、専用サスペンションと専用カーボンブレーキによって、レーシングカーのようなスポーツ走行を楽しませてくれる。




一方で歩行者と自転車にも対応したブレーキや車線維持支援システムなどGMが誇る先進安全装備も搭載されている。車高は低いが普通の乗用車としての顔も持っている。
憧れのアメリカンスポーツをどのようにしてガレージに迎えるか。ディーラー周辺の試乗ではモーターだけのEV走行で安全技術の充実ぶりをアピールし、我が家の大蔵大臣(最近は財務大臣)から特別予算を引き出し、環境に良いコルベットに乗るなどという説得が果たして通用するか。それは貴殿のプレゼンにかかっている。


シボレー/コルベット E-Ray クーペ 3LZ
全長×全幅×全高 | 4685×2025×1225mm |
ホイールベース | 2725mm |
車両重量 | 1810kg |
エンジン/モーター | V型8気筒OHV 6156cc/交流同期 |
最高出力 エンジン/モーター | 502ps/6450rpm/162ps/9000rpm |
最大トルク エンジン/モーター | 637Nm/5150rpm/165Nm/0~4000rpm |
駆動形式 | 4輪駆動 |
燃料消費量 | 未発表 |
使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/70L |
ミッション形式 | 8速自動 |
サスペンション形式 | 前/後:ダブルウィッシュボーン |
ブレーキ形式 | 前/後:ベンチレーテッドディスク |
乗員定員 | 2名 |
車両価格(税込) | 2350万円 |
問い合わせ先 | 0120-711-276 |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博