文/石川真禧照(自動車生活探険家)
かつてフランスに、ル・マン24時間レースやラリーで活躍するレーシングドライバーが生み出した、きびきびと走る美しいスポーツカーがあった。歴史は途絶えたかに思えたが、進化をとげて復活した。
輸入車のスポーツカーというとドイツ車や英国車が有名だ。ポルシェ、アストンマーティン、ジャガーなど次々と車名が浮かんでくる。しかし、車の歴史をさかのぼってみると、スポーツカーといえばフランスという時代があった。ガソリン自動車の創成期だった1900年代から’30年代にかけてフランス車はサーキットレースやラリーで世界を席巻する名車を生み出していた。しかし第二次世界大戦後、フランスからスポーツカーは消えた。自動車を生活の道具のひとつとしてとらえるようになったフランス人にとって、スポーツカーは必要な車ではなくなったのだ。
大排気量車に苛酷な税制を課したことも、戦前のスポーツカーが姿を消した理由だった。
軽さが売りのレーシングカー
しかしいつの時代でも、スポーツカー好きはいるもの。1955年、ルノーの販売店経営者でレーシングドライバーのジャン・レデレが、自らスポーツカーをつくろうと考えた。一からの車づくりは資金も時間も必要なので、彼は既存の車を利用した車づくりを考えた。といっても当時のフランス車は小排気量の実用車ばかり。そこで軽い車体をつくり、そこに既存実用車のエンジンを組み合わせた。馬力は小さくても、車体が軽いことで、彼のつくった車はラリーやレースで好成績を挙げた。その評判を聞きつけたスポーツカー好きの好事家がレデレに車づくりを依頼。車名は彼が活躍した欧州の山岳地帯アルプス(仏語でアルピーヌ)とした。アルピーヌはフォーミュラカーのレースにも進出したが、’70年代にルノーの傘下に入り、1995年に活動を休止した。
エンジンを車体中央に配し23年ぶりに復活
1995年以降、アルピーヌの製造は休止したが、2010年代に入ってからアルピーヌ・ルノーは長距離、長時間走り続ける耐久レースへの挑戦を再開。スポーツカーの開発にも取り組みはじめた。
そして、2018年、久々に本格的な量産スポーツカーが誕生した。その名は「アルピーヌ/A110」。この車名はジャン・レデレが1963年に生産を開始したときと同じ車名である。
車体のデザインも初代アルピーヌ/A110の形状を踏襲している。エンジンは、1.8Lとスポーツカーとしては小排気量なものを搭載。初代はエンジンを後輪軸よりも後方に搭載するリアエンジン車だったが、今回はエンジンを後輪軸の前、車体の中心部に近いところに移したミッドシップ車である。ガソリンタンクは前輪の後ろ、車体の中心に近いところに搭載している。重量物をクルマの中央に集め、安定性を向上させた。
実際にハンドルを握り、走らせてみると、加速時やカーブを曲がっているときの車体の動きで軽快さを体感できる。限られた馬力を上手に使いながら、軽やかに走る。これが最新のフレンチスポーツカーの味といえる。
【アルピーヌ/A110 ピュア】
全長× 全幅× 全高:4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車両重量:1110kg
エンジン:筒内直接噴射直列4気筒DOHC/1798㏄
最高出力:252PS/6000rpm
最大トルク:32.6kg-m/2000rpm
駆動方式:後輪駆動
燃料消費率:14.1㎞/L(JC08モード)
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン 45L
ミッション形式:電子制御7速自動変速機
サスペンション:前・後:ダブルウィッシュボーン
ブレーキ形式:前・後:ベンチレーテッドディスク
乗車定員:2名
車両価格:804万6000円(税込み)
問い合わせ:アルピーヌ・コール0800・1238・110
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2020年1月号より転載しました。