文・石川真禧照(自動車生活探険家)

スポーツカーの世界には幾つもの伝説がある。その中のひとつに「美しい車は速い」という言葉がある。

アストンマーティンDB12クーペ。最新のアストンマーティンのスポーツクーペだ。撮影と試乗のためにメタリックグリーンの車を見たときに、真っ先に頭の中に浮かんだのが冒頭の言葉だった。

長く、低く伸びたボンネット、傾斜したフロントウインドからテールまでのなだらかな曲線、小さなドアウインド、大きく張り出したグラマラスなリアフェンダーと前後の大径タイヤ&ホイール。街を走っていても、路上に停めておいても周囲の人々の視線を釘付けにしてしまうほどに、その姿は美しく、気品にあふれている。

デイタイムランニングライトを上部に配置したLEDヘッドライト。六角形のグリルは1957年に初めて採用された。
ボリューム感のある美しいデザインの2ドアクーペ。ドアは水平方向ではなく、前ヒンジでややナナメ上方向に開く。
4725mmの全長と2805mmホイールベースはレクサスの4ドアセダン「IS」に近い数値。全長はDB12が13mm、ホイールベースも5mm長い。
天井からテールにかけての曲面のバランスが美しい。この大きさでなぜ、このような美しいクルマができるのだろう。

優雅で気品にあふれているのは、外観だけではない。

水平ではなく、ややナナメ上に開くドアを開け、室内に入る。このわずかにナナメ上に開くドアも優れものだ。壁や隣りの車との間隔が狭くても、ラクに乗り降りができる。特許なのか、コストがかかるのかわからないが、他の車も同じように開閉できるドアを採用してほしい。

室内も美しい。本革の内装は革の室内用品の老舗「Bridge of weir(ブリッジ・オ・ワイル)」の手縫いレザーを使用。キルティング・パターンのシートなどは、使いこむほどに味のある光沢が出てくるに違いない。

太くて、小径のハンドルがスポーツカーを感じさせる。センターコンソールのデザインも新しくなり、使い勝手も向上。
レザーインテリアは英国の老舗が手がけている。シートは腰から背中をしっかり支えてくれる。
中央に大きなコンソールがあり、ややタイトな後席。シートベルトは中央からの3点式。
中央のツマミ風レバーが8速ATのシフト。足回りやシート、空調、ラジオ調節はすべてここで行う。

1960年代から現英国国王のチャールズ3世が愛車にし、ロイヤルワラントが授与されているのも納得できるクルマ造りである。

機能面では以前からのセンターパネル上のボタンスイッチによるシフトをやめ、センターコンソールでのレバーによるシフトを採用し、使い勝手の向上を図っている。ドライブモードは5段階をロータリー式のダイヤルで選択することができる。排気音量の調節や乗り心地もセンターパネル上で操作する。

クーペは後席も備えている。と言っても座席のクッションは硬く、背もたれも垂直に近い。前席との間隔は狭く、屋根の形状を見れば天井も低く、実際に身長160cmでも狭い。子供用というよりも、冬ならコート置き場として使うぐらいの広さだ。あくまでも非常用のプラス2という座席だ。

前車軸より室内寄りに搭載されたV8エンジン。外からはほとんど姿が見えない。
360km/hまで刻まれたスピードメーター(左)と8000回転までのエンジン回転計は液晶表示。

「美しい車は速い」と冒頭に述べた。DB12クーペの美しく、長いボンネットの下には、V型8気筒、4.0L、ツインターボガソリンエンジンが搭載されている。先代のDB11のときに、技術提携を結んでいるメルセデスAMG社から供給されたエンジンは、アストンマーティンのエンジニアによってハンドビルドされ、チューニングされ、DB11時代よりもトルクは34%も増加し、800Nmを達成、680psの最高出力とともに、DB12クーペは最高速325km/h、発進から時速100キロまで3.6秒という速さで走り切る性能を与えられた。最近ではこのクルマをベースにしたレーシングカーが世界のサーキットで活躍していることも付け加えておこう。

エンジンや走行性能を知ると、DB12クーペは本格的なスーパースポーツカーなので、手に負えない車と思うかもしれない。

運転席に座り、エンジンスタートボタンを押し、Dレンジにシフトすると、最初のアイドリング時はややボリュームのある排気音を発するが、すぐにおとなしくなる。

走りはじめて気がつくのは、このハイパワーエンジンの柔軟さ。目の前のメーター内には、いま走っているギアの段数が表示されるのだが、発進と同時にシフトアップを続け、時速60キロで8速ATの7速まで入ってしまう。エンジン回転は1100回転。この低い回転数でもV8、4.0Lツインターボエンジンはトルクがあり、アクセルペダルの動きで即座に反応するのだ。時速40キロで街中を走れば5速1100回転で走る。その走りは、排気音も小さく、運転もしやすい。最高速300キロ以上も出るスーパースポーツとは思えない運転のしやすさなのだ。

速いクルマはブレーキも強力。ディスクはセラミック製も選べる。タイヤはミシュランがDB12専用に開発した。
開口部は低く狭いが内部はゴルフバッグが横置き出来る広さがあるトランク。後席の背もたれは固定式で室内と一体にならない。

乗り心地も「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」が手元のダイヤルで選べるが、「スポーツ」モードでもゴツゴツした乗り心地でも突き上げるような硬さではなく、しなやか。高級車の乗り味を楽しむことができる。優雅に街乗りをしてもまったく無理のないスーパースポーツなのだ。

「美しい車は速い」だけでなく、意外にも「乗り易い」のである。

ただし、ウデと度胸があれば、発進から時速100キロを3秒台前半(実測)、最高300キロ以上の世界も楽しめる。007ジェームス・ボンドが操れば、敵の軍団も蹴散らせる。アストンマーティンDB12クーペは、そういう車なのである。

アストンマーティン/DB12クーペ

全長×全幅×全高4725×2060×1295mm
ホイールベース2805mm
車両重量1685kg
エンジンV型8気筒ツインターボ 3982cc
最高出力680ps/6000rpm
最大トルク800Nm/2750~6000rpm
駆動形式後輪駆動
燃料消費率 8.2km/L
使用燃料/容量無鉛プレミアムガソリン/78L
ミッション形式8速自動
サスペンション形式前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク式
ブレーキ形式前後:ドリル加工ベンチレーテッドディスク
乗員定員2+2名
車両価格(税込)2990万円
問い合わせ先 03-5797-7281(アストンマーティンジャパン)

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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