文・石川真禧照(自動車生活探険家)

ミニシリーズで初のEVだが、基本的なボディデザインは初代のミニから同じ。さらにさかのぼれば、1954年に登場した初代オールドミニのイメージも踏襲している。

1959年(昭和34)、英国で初代ミニが誕生した。その後、2002年にドイツのBMWが新しいミニの開発を引き継ぎ、生産、販売までしてきた。2024年3月、ミニが全面改良し、4代目になったが、英国ミニから数えて65年の歴史の中で初めて電気自動車(EV)を量産モデルとして用意した。ミニのEVは3代目のときに試験的につくられたが、今回はカタログモデルとして正式に販売されることになった。

しかもBMWは4代目からミニという車名を、より親しみのあるミニ クーパーに変え、正式名称にしたのだ。さらにミニ クーパーEVは他のガソリン仕様のミニ クーパーとはボディの大きさだけでなく、ホイールベースから異なるクルマとして設計され、今回、シリーズに加わった。さらにボディはドアハンドルの突起がなかったり、屋根後部のアンテナが小型化されるなど、空気抵抗を減らす工夫が取り入れられている。

EVのミニ クーパーは3ドアハッチバックだけで、5ドアはない。5ドアでのEVはミニ エースマンというモデルがEV専用で販売されている。
新型はガソリンエンジン仕様もあるが、ボディは共用ではない。EVはガソリン車よりホイールベースから異なり、EVのほうが30mm長い。全長も15mm違う。さらにドアハンドルやルーフアンテナの形状も異なる。
ミニは、このモデルからMINI COOPER(ミニ クーパー)が正式名称になった。クーパーというのはミニで国際ラリーに優勝するなど有名なドライバー兼チューナーのジョン・クーパー氏からとったものだ。

小さいけれど、上級感のあるミニ クーパーのEV。長距離旅行には向かないが、日常でのショッピングや足代わりに、ガソリンスタンド不要のEVを使う生活を体験してみた。

少し大きくなったとはいえ、全長3860mm、全幅1755mmなので、全長はトヨタ・ヤリスより短く、全幅はトヨタ・カローラツーリングよりも小さいサイズ。街中でももて余す大きさではない。しかも相変わらず可愛らしいデザイン。ミニ クーパーのEVで用意されているのは3ドアのみ。なので、年中後席に人を乗せる人には向かない。後席の足元はそう広くはないので、イザというときに人が座れる、という感じの広さと考えたほうがよい。

クッションの厚味はないが、体をしっかりと支えてくれる形状の前席。
後席は左右2人乗り。足元はやや狭く、前席と合わせ大人4人での長距離ドライブは厳しい。
後席を立てた状態の荷室。奥行は約950mmある。床板は上下2段階に固定できる。写真は上にある状態。下に充電ケーブルが収納できる。
後席の背もたれは2分割で前倒する。荷室の床面と後席の間に段差ができるのが気になる。

今回試乗、撮影したのは、「SE」というグレードで、一充電での走行可能距離は446km(WLTCモード)。「S」もあり、こちらは一充電走行可能距離は344km(同)となっている。搭載する電池容量の違いが走行距離の差になる。

遠出をしない人には「S」でも良い(車両本体価格も68万円違う)と思う。

電気自動車なので、暖気運転する必要もなく、走り出せる。

ミニ クーパーの室内は完全にデジタル化されていて、前席前の中央に直径240mmの円型のメーターがあり、この画面でエアコンからナビゲーションまで操作する。モーターの始動と終了はセンターパネルのトグルをキーのようにひねって行う。

直径240mmの円形ディスプレイだけのインパネ。ダッシュボードの素材はリサイクルポリエステルを編み物のように加工する技術が採用されている。
直径240mmの円形液晶メーターにすべての操作系要素が表示される。
前席円形メーター下にあるスイッチ。右からパーキング、シフトノブ、パワーオン/オフスイッチ/ドライブモード切り換えスイッチ/オーディオON・OFFをそれぞれ操作する。

小さなボディでキビキビ走るミニ クーパーだが、加速性能は0→100km/h加速は6秒台で、国産のガソリン車ならスポーツカーでもかなわないレベル。さらに走行モードが7パターンあり、スポーティな「GO-KART(ゴーカート)」モードでは、アクセルオンで野太い排気音が効果音として流れる。アクセルの反応も鋭くなり、文字どおり競技用のゴーカートを操っている痛快な気分を味わうことができる。ハンドルを持つ手首の少しの動きでも車は瞬時に向きを変える。乗り心地は1枚の板の上に座っているような硬さが直接伝わってくる。これもゴーカート感覚。街中でも十分にスポーツ感覚を味わえる。

ドライブモードは合計8モードあるが、もっともスポーティなのが「GO-KART」モード。アクセルレスポンスが俊敏になり、スポーティな効果音も室内に流れる。
車体前部に収められたモーターユニット。モーターは128ps、330Nmを発生し、前輪を駆動する。
充電口は車体後部左右に設けられている。さらに電力を外部に給電することができる外部給電機能も装備している。

街中を走行しての電費だが、6km/kwh台が標準的電費だったので、この値は良いほうだ。充電は自宅(3kw)にて、1時間で約4%だった。10時間充電すれば40%位充電できる。150km以上は走ることができる計算なので、1回の家庭充電で十分に走れるはずだ。

街乗りでもちょっとしたスポーツ気分を味わいたい。かつて「ボーイズレーサー」と呼ばれていた小型でおしゃれな車があった。新型ミニ クーパーEVを現代のボーイズレーサーと呼びたい。

BMW/ミニ クーパー SE

全長×全幅×全高3860×1755×1460mm
ホイールベース2525mm
車両重量1640kg
モーター交流同期   65.0kw
最高出力218ps/7000rpm
最大トルク330Nm/1000~4500rpm
駆動形式前輪駆動
一充電走行距離446km(WLTC) 
使用燃料/容量リチウムイオン電池/54.2kwh
ミッション形式電気式無段
サスペンション形式前:ストラット式/後:マルチリンク式
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク 後:ベンチレーテッドディスク
乗員定員4名
車両価格(税込)531万円
問い合わせ先 0120-3298-14

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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