文・石川真禧照(自動車生活探険家)
名車の条件とはどのようなものだろう。
誇れる歴史があること、欲を言えば過酷なレースでの歴史があること。輝かしい存在であること。人々を魅了する魅力があること。
人によって異論はあるかもしれないが、最低でもこれぐらいの条件を満足する車であってほしい。
日本に名車が少ないと言われているが、それも無理のないこと。日本のモータリゼーションが本当の意味で一般の人々のものになったのは、1950年代の後半に入ってから。自動車メーカーにおいても1950年代になってようやくいくつかの会社が本格的に乗用車の生産に取り組み始めた。
歴史の部分で欧米の自動車メーカーに遅れをとっている。また、日本の自動車メーカーが歴史や伝統をそれほど重視していない節もある。車名の変更や消滅が多いのもその表れといえる。
歴史や輝かしさから唯一といってよいほどの存在が、日産GT-Rと言っても反論は少ないだろう。もちろんトヨタ2000GTやホンダS800も資格は十分だ。
日産GT-Rの前身を遡ると、1964年、第2回日本グランプリレースに出場したスカイラインGTになる。その後、1969年に、スカイラインGT-Rが発売され、2002年まで生産され、空白期間があり、2007年に第3世代、現在の日産GT-Rが誕生した。そのGT-Rも2025年モデルで18年目を迎える。凄いのはこの間、フルモデルチェンジを1回も受けていないこと。しかも、その性能は常に世界でもトップレベルを保つべく、改良に改良を重ねていること。日進月歩、常に世界最高レベルのクルマ造りが、世界のスポーツカーの常識だが、この点でもGT-Rは別格の存在といえる。
もちろん、開発陣たちの苦労は並大抵のことではなかった。2007年の初期モデルから毎年のように改良型を発表し、その最新型に試乗してきたが、その進化は実に興味深いものがあった。唯一時代を感じさせるのは変速機が6速ATということだけだ。
車の世界に限ったことではないが、責任者の思いで方向性は変わる。初期のGT-Rは、競技車両に近い考え方だった。サーキットのレースに勝つための工夫が行われており、公道上で試乗すると路面からの振動が強かった。言うまでもなく、その理由はサーキットの路面に照準を合わせていたから。音や振動対策や乗り心地よりも優先していたのはサーキットでの速さだった。
途中で開発責任者が変わると、GT-Rの性格も変わった。公道で速く走る車を目指したのだ。次の開発者はサーキットよりも公道での走りが好きだった。
その結果は乗り心地に表れた。2017~2019年頃にかけて街中や高速道路での走りも良くなってきた。今回、撮影のために試乗した最新型(であり最終型)は、これまで乗ったGT-Rでもっとも良い乗り心地だった。
もちろん、GT-R本来のスーパースポーツとしても能力は少しも低下していない。それどころか向上している。
60~70年代のレーシングカーからの流れを受け継いだスポーツカーは、自宅からサーキットまで自走し、トランクからスペアタイヤなど重量物を取り出して、ピットに置き、車体は不慮の転倒などに備え、ヘッドライトなどにレンズ飛散防止テープを貼り、ゼッケンをドアに貼り、レースに出場した。運が良ければ表彰台に立ち、カップを受け取り復路につく、というような芸当も可能だった。
最新のGT-Rもそれが不可能ではない。その実力は未だに世界トップクラスということだろう。
ただし、唯一気になるのは後部トランク。排気管やデフからと思われる熱が容赦なく伝わってくる。床面がかなりの熱を持つのだ。GT-Rのトランクが熱いのは、初期から変わらない唯一の弱点なのだ。街乗りでも快適になったからといってスーパーなどで買い物をした冷凍食品をトランクに積むのは厳禁。帰宅したとき、家人からの叱咤は間違いない。冷凍食品はすっかり解凍されているはずである。
日産GT-R プレミアムエディション Tスペック
全長×全幅×全高 | 4710×1895×1370mm |
ホイールベース | 2780mm |
車両重量 | 1760kg |
エンジン | 3799cc |
最高出力 | 570ps/6800rpm |
最大トルク | 637NM/3300~5800rpm |
駆動形式 | 4輪駆動 |
燃料消費量 | 7.8 km(WLTC) |
使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/74L |
ミッション形式 | デュアルクラッチ 6速AT |
サスペンション形式 | 前:ダブルウイッシュボーン式/後:マルチリンク式 |
ブレーキ形式 | 前後:ベンチレーテッドディスク |
乗員定員 | 2+2名 |
車両価格(税込) | 2035万円 |
問い合わせ先 | 日産自動車 0120・315・232 |
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博