文・石川真禧照(自動車生活探険家)

自動車の歴史を言い表した言葉として、「自動車はドイツ人が発明し、フランス人が育て、イタリア人が化粧をし、イギリス人がそれを楽しむ」というのがある。

ベントレーは、イギリス人のW.O.ベントレーが1930年代に創業した自動車メーカーだが、無名だった彼が自社の宣伝のために利用したのがモータースポーツだった。当時のイギリス人は自動車を男の趣味としてとらえていた。当時からイギリスには大小のサーキットが点在し、週末には多くのサンデーレースが開かれ、男たちは競っていた。

そこに参加していたのはお金のないクルマ好きの若者もいたし、家族総出で参加している者もいた。

これぞスポーツクーペと呼べる見事なプロポーション。シングルヘッドライトに水平に入るラインはLEDマトリックスライトが120個入っている。
大きく開いたホイールハウスはデザインスケッチのように大胆。大径のホイールは22インチを装着。

ベントレーは当時から高級、高性能なクルマ造りをしていたので、顧客は医者、弁護士、富豪、貴族等経済的に裕福な人が多かった。彼らはレースに参加し、優秀な成績を収めた。1920年代から50年代にかけては、ル・マン24時間レース(フランスで開催され、今年で101回目を迎える)という過酷なレースで5回も総合優勝している。

裕福なアマチュアドライバーが操縦し、勝ったことで、ベントレーは世界の富豪や貴族に認知され高級スポーツカーとしての地位を確立した。

シンプルな形状のグリルの左右にライトを配するのがベントレーの伝統。丸型2灯のライトを採用するのは1959年のS2モデル以来。
なだらかに車体後部まで続く屋根の形状はコンチネンタルGTが登場した2003年の初代から変わっていない。歴史的には1952年に登場したコンチネンタルにも通じるデザイン。
光りものも少なく、シンプルな後ろ姿。車体全体の空力抵抗が優れているので、車速によって可働するスポイラーなどの不可物はない。

最近ではすっかりその地位も安定しているが、その歴史は苦難の歴史だった。ル・マン優勝した直後の1931年に経営難からロールスロイスに買収され、以降、グリルの異なるロールスロイスを造る時代が1998年まで続いた。

しかし、その間も熱心なベントレーファンはほとんどグリルだけしか違わないロールスロイス・ベントレーを支持し、やがてベントレーもその声に答えるように独自のモデルを開発した。その第1号ともいえるのが1952年頃に発表したコンチネンタルだった。今回のコンチネンタルGTのルーツにあたるスポーツクーペだ。ベントレーはロールス傘下になってもスポーツ心を忘れてはいなかった。そして、1998年にフォルクスワーゲングループに属してから、さっそくル・マン24時間レースに復帰、03年に総合優勝している。実に73年ぶりの優勝だった。

教科書どおりに仕立てられた前面パネルやセンターコンソール。丸い空気吹き出し口は50年代のベントレーから変わっていない。
インパネ中央の液晶画面はスイッチで回転し、3連メーター、ウッドパネルの3面が選択できる。
運転席のシートは座面下のレバーで20通りに調節できる。着座位置はやや低め。シートクッションは薄めだが、体をしっかりホールドしてくれる。
中央で2分割されている後席。着座が低いので頭上の空間はあるが、足元は狭く、長時間座るには適さない。
ゴルフバッグを横置きに積めるトランクスペース。但し、付属の200V用充電ケーブルを収納するスペースはないので、室内かガレージに置くことになる。

コンチネンタルGTも03年に高級スポーツカーとして初代が登場。今回の新型は4代目にあたるモデル。新型は時代の流れに合わせ、エンジン+モーターを組み合わせ、外部充電もできるプラグインハイブリッドをパワーユニットとして採用した。エンジンとモーターの出力を足した値はベントレー史上最強。試乗してみると、V8、4.0Lエンジンは、低音で重厚な音を発しながら優雅さを常に保ち、他のスーパースポーツとは一線を画している。発進はモーターなので、文字どおり音もなく動きはじめる。EVモードを選択すればフル充電で70kmはモーターだけで走行する。日常使いなら大半はモーターだけの走行だ。

Eモードスイッチでハイブリッドエネルギーマネージャーができる。EV/HV/ホールド/充電の4モードが選択でき、充電モードを選べば走行しながら電池に充電することができる。走行中の充電は早い。
プラグインハイブリッドの給電口は200V普通充電だけ。急速充電は備わっていない。自宅での充電が基本。

V8、4.0Lツインターボエンジンを楽しみたければ、センターコンソールのダイヤルをスポーツモードに合わせれば、瞬時にV8エンジンは立ち上がり、低音のうなりをあげながらアイドリングする。走り出せば、常に重めの操舵力でブリティッシュスポーツカーの味付け。その実力は加速(0→100km/h 3秒台=実測)、最高速(335km/h=カタログ値)とケタ外れだが、最新の電子制御技術が常に安全、安心方向に振られている。

V8エンジンはツインターボ4.0L。モーターが加わり4輪を駆動する。V8エンジンは低く、野太い音を発するが爆音ではない。
8速ATのシフトや4段階のドライブコントロールダイヤル、シート空調などがレイアウトされたセンターコンソール部。
スタート/ストップボタンの下にEモード用のスイッチがある。

ベントレースポーツは、いまでもアマチュアドライバーが親しみをもって操縦できる、スーパースポーツカーなのである。

ベントレー/コンチネンタルGTスピード ファーストエディション

全長×全幅×全高4880×1965×1405mm
ホイールベース2851mm
車両重量2459kg
エンジン/モーターV型8気筒ガソリンツインターボ/交流同期
最高出力600ps/6000rpm/190ps
最大トルク800Nm/2000~4500rpm/450Nm
駆動形式4輪駆動
燃料消費量未発表  
使用燃料/容量                プレミアムガソリン/ 80L
ミッション形式8速AT
サスペンション形式前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク/後:ベンチレーテッドディスク   
乗員定員4名
車両価格(税込)3930万円
問い合わせ先ベントレーコール 0120-97-7797

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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