そんな思い出のある「1600GT」ですが、実際に運転したのはずっと後。今から10年ほど前に、ある自動車雑誌の企画で試乗する機会がありました。オーナーの方が長年大切にされていることがよく分かる、整備の行き届いた個体でした。高性能ながら初めてでもすんなり運転できる懐の深さは、古いとはいえ、さすがトヨタ車だと思いましたね。
今でも縁があれば欲しい気もしますが、僕が好きなのはそのスタイリングで、これで飛ばしたいとは思いません。なので「1600GT」ではなく、普通の「コロナ・ハードトップ」にも興味があります。とくに初期型の3段コラムシフトとか2段トヨグライド(AT)のモデルや、それらの北米仕様があれば最高ですね。
「1600GT」や「コロナ・ハードトップ」が走る姿を想像すると、昔から頭の中に流れてくるのは朱里エイコさんの『アフリカ象とインド象』。1973年にリリースされた、全曲冨田勲さん作・編曲によるコンセプトアルバム『パーティー』に含まれている曲なのですが、このアルバムがおしゃれで、すばらしい出来なんです。
ミシェル・ルグランばりの流麗なサウンドに乗って歌われる詩の内容は、アフリカ象とインド象の違いを力説する男と、そんなことにはまったく興味がない女の噛み合わない心情。おそらく「1600GT」がアフリカのような景色をバックに走る絵はがきを見た記憶が、僕の中でこの曲につながったのだと思いますが、脳裏に浮かぶ象好きの男は、サファリジャケットを着て、首から一眼レフを提げたカメラマンなんです。(笑)
いかにも70年代的なイカした男性のイメージですが、いつか僕もサファリジャケットを着て、8トラックのカーステレオでこの曲を聴きながら、「1600GT」をドライブしたいですね。なんだか、だいぶゲタさんのイメージからは遠ざかってしまいましたが、この“違和感”もまた魅力的です。
横山剣(CRAZY KEN BAND)
1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足。今年クレイジーケンバンドはデビュー20周年を迎え、8月1日(水)には3年ぶりとなるオリジナルアルバム「GOING TO A GO-GO」をリリース予定。9月24日(月・祝)には、横浜アリーナでデビュー20周年記念ライブも行われる。http://www.crazykenband.com