文・石川真禧照(自動車生活探険家)

車重2.5トン、286psの走りは、軽快。ロングホイールベース車よりも走りの楽しさがある。スポーツモードも楽しく走ることができる。

1970年代頃にアイビーファッションやサーフィンや湘南に憧れていた若者が、ちょっとだけ欲しいと思った車が「ワーゲンバス」だった。その名のとおり、フォルクスワーゲンがつくった、今でいうワンボックスカーだ。スポーツカーでもデートカーでもないその車はカリフォルニアの若者たちに人気のある車、ということから日本でも知られるようになった。

このような古いエピソードを知る世代に、ちょっと乗ってみたくなるような車が、フォルクスワーゲンから登場した。

大きなVWマーク。上下に塗り分けられたフロントマスク。ワイドな全幅。遠くからでもひと目でわかる。
全長は国産の中型ミニバンと同じサイズの4.7mだが、ホイールベースは大型ミニバンクラスの3mなので室内は広い。
初代のワーゲンバスは、ビートルのシャーシを利用したので、リアエンジンだったが、ID. Buzzはフロントモーター、後輪駆動。

2017年に海外のモーターショーで、コンセプトカーが発表され、ワーゲンバスの再来、と話題になった車が、ようやく実用化され、日本に上陸したのだ。

発表会で並べられたID. Buzzとワーゲンバス。

そもそもワーゲンバスという車だが、そのルーツは1950年に誕生したVW(フォルクスワーゲン)トランスポーターというパネルバンの商用車だった。当時、大ヒットしていたVWビートルという大衆車があった。その骨格を利用してバンスタイルの車をつくったのがはじまり。箱型のバンや多人数乗用、座席の取り外しができる簡素な乗用貨物車などのバリエーションがつくられた。ドイツ本国だけでなく何か国かで現地生産も行われ、輸出もされた。

初期型はタイプ1と呼ばれ、その骨格が多方面に流用されたがおもに軍事用だった。

本格的な市販モデルはタイプ2と呼ばれ、1950年から生産を開始し、67年まで改良されながら世界中で販売された。日本ではヤナセが1953年に輸入販売を開始したが、海外から中古車の輸入も盛んに行われた。この中古車が若者たちの憧れの車になったのだ。

VWトランスポーターは、タイプ2以降もモデルチェンジをくり返し、2022年まで生産されている。しかし、タイプ2以降のモデルは、ドイツ車らしく質実剛健、実用性重視、真面目な実用バンとして登場し、おとなしいファミリーカーとして販売された。

ID. Buzzの元になったワーゲンバス、タイプ2。

ID. Buzz(アイディ.バズ)は、2017年にプロトタイプがモーターショーに登場したが、その後の開発途中で当初の計画とは異なる車になっていった。スタイリングは、発表当時の、タイプ2を現代版に解釈したものだったが、中味は時代を反映し、100%電気のEVとして登場したのだ。IDという車名はすでにVWにはID4というEVがあり、同社のEVの総称だ。

EVということより、現代版タイプ2に早く乗ってみたいという気持ちのほうが強かった。

車体後方右側には給電口。家庭用200Vと、急速充電口の差し込み口が設けられている。
上下2トーンの塗り分けは初代の特徴。ID. Buzzはオプションでイエロー、グリーン、ブルーと白の2トーンが選べる。標準は白、シルバー、ブラックの3色。
後部座席用のドアは電動スライド式。スライドドアには小さめの窓が設けられている。

実車を前にすると、正面からの目立ち度が、ワーゲンバスだった。大きなVWマーク。2トーンに塗り分けられた色使い。

全高1.9m以上の車体の乗りこむには、ハンドルを片手で掴み、体を持ち上げ、シートに座るという動作が必要。運転席に座ると、広い視界が目に入る。うしろをふり向けば、後方は2、3列目シートが目に入る。無駄だけど明るい空間になぜかワクワクする。もし、70年代にワーゲンバスを手に入れたら、きっと同じ事を思ったに違いない。

全幅は2m近いが、乗ってみるとあまり幅広さも感じない。全長も4.7mなので5ナンバーワンボックスカーと大差ない。同じID. Buzzにロング仕様もあるのだが、こちらは全長が5m近いので、2mの全幅と共に大きさを感じた。

100%EV車の走り出しは、静かで力強い。車体前部にモーターを搭載し、後輪を駆動する。

内装色はグリーン、グレー、ブルーとブラックが用意されている。ハンドルが白いのはこのグリーン内装色だけ。
2列目は左右1名ずつの独立シート。床面は平らで広く、シートはスライドもするし、3列目へウォークスルーもできる。
前席の背もたれには2列目用のテーブルが内蔵されている。
後席ドアウインドに設けられたスライド式の開閉ウインド。
3列目シートは折り畳んでスライドダウンする。左右2名でクッションは薄めだが、大人2名が座れる。座面も平らで窮屈ではない。

前席は助手席と運転席との間で行き来ができ、2列目と3列目も行き来ができる。2、3列目は折り畳んで広い空間になるし、2列目は左右独立した座席で、前席背もたれのテーブルも利用できる。主に運転するのであれば実際に使うことはあまりないかもしれないが、2列目に座りテーブルを出したり、3列目に座ったりしていると、なんだか冒険をしているみたいで、楽しくなってしまう。

3列目を使用したときの荷室スペース。ボードで上下に分かれている。下のVWマークの箱には充電ケーブルなどが収納されている。ボードは取り外すこともできる。
3列目の背もたれを倒すと、座面もスライドして、手前の荷物スペースの床と同一面になる。この状態で奥行は110cm強。
2列目シートも倒した状態。全体に同一面なので、薄いマットを敷けば、大人が寝ることも可能。

充電に関してだが、ID. Buzz Proは満充電での走行距離はカタログ値で524km。実走行でも450km以上は走る。高出力での急速充電が可能なので、外出先でも短時間で大容量の充電ができる。また、VWのディーラー以外でもアウディやポルシェはVWグループなので、共通の充電施設が利用できる。時間はかかってしまうが、もちろん家庭用200V充電も使える。

前方視界の良い前席。ダッシュボードも広く、小物置き場の多いインパネ。メーター類もスッキリ。
ハンドルの向こう側のメーター盤は車速や電池残量、ATのシフトポジションが表示される。
前席中央の液晶パネルは各種設定画面が呼び出せる。
走行モードの表示ではエコ/コンフォート/スポーツ/カスタムの各モードが選べる。モードにより加速フィールや乗り心地が変わる。

ID. Buzzの明るい車体を見ているだけで楽しくなってしまう。本当にこれほどの空間を持つ車が生活に必要かと家人に問われれば答えに窮するが、持てば間違いなく70年代の若者だった自分が甦ってくるハズだ。

タイヤは19インチ235/55R19。ロング仕様の20インチ235/55R20よりも乗り心地がよい。

フォルクスワーゲン/ID. Buzz Pro

全長×全幅×全高4715×1985×1925mm
ホイールベース2990mm
車両重量2560kg
モーター交流同期/89kw
最高出力286ps/0~3581rpm
最大トルク560Nm/2100~5500rpm
駆動形式後輪駆動
一充電走行距離524km(WLTC)   
使用電池/容量                リチウムイオン電池/ 84 kwh
ミッション形式1段固定式
サスペンション形式前:ストラット/後:4リンク
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク/後:ドラム   
乗員定員6名
車両価格(税込)888万9000円
問い合わせ先0120-993-199

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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