文・石川真禧照(自動車生活探険家)

ドライブモードは「ツーリング」「スポーツ」「アイス」「マイモード」の4つ。高級車のセッティングなので、「スポーツ」でも乗り心地の硬さは抑えられている。

米国のキャデラックといえば、アメリカ車のなかでも高級車として認知されている存在。それはキャデラックが創業した1900年代初頭から120年以上の間、変わっていない。

創業直後の1908年(明治41年)、キャデラックはアメリカ車だが、高級車の証として英国のロイヤルオートモビルクラブの審査を受けている。その内容は数台のキャデラックが、デモンストレーション走行した後、審査員がその中の3台を選んで、クルマを分解、それぞれの部品を混ぜて、そこから再び3台に組み立て、その直後に500マイルのデモランを行うというものだった。キャデラックはそれを見事に成し遂げ、トロフィーを受賞した。工作精度の高さを世界にアピールしたのだ。

キャデラック初の電気自動車はラグジュアリーなSUV。
本国では2023年に発売され、米国やドイツでラグジュアリーカー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

キャデラックの車づくりは新製品開発の歴史でもある。キャデラックがこれまで初めて実用化し、それが世界中の乗用車の標準になった装備や装置は多い。

固定した屋根のある車体。電気点灯ヘッドライト、オートビームヘッドライト、安全ガラス、自動変速、パワーステアリング、クルーズコントロール、エアバッグ、ナイトビジョンなど挙げたらキリがない。最近では車両間通信も実用化している。

動力の開発に関しても積極的だ。V型16気筒やオールアルミV型6気筒エンジンもキャデラックは実用化した。そして、今回は電気自動車(EV)である。EVは米国だけでなく、日本や欧州、東南アジアの自動車メーカーもすでに販売している。キャデラックは後発だが、キャデラックらしいEVを開発して市場に送り込んできた。

モーターは車体の前後に1基ずつ搭載され、前後輪を駆動する。2基のシステムトータル最高出力は522ps。

技術陣は頭脳を集結させた。モーターは前後車軸に1基ずつ搭載のeAWDシステムを開発。EV専用の車台に組みこんだ。電池はアルティウム・バッテリーシステム。最先端のニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム化合物を使用。レアアースの使用を70%以上削減している。冷却の必要性も低減し、配線もこれまでのEVより90%近く削減されている。

充電は日本仕様のCHAdeMO急速充電と200Vの家庭用充電も可能だ。システムトータル出力は522ps、トルクは610Nmを発揮する。1回の充電での航続距離は510km。

給電は自宅で通常使用している100Vでもできる。他に200Vや急速充電(CHAdeMO)を利用できる。満充電での航続距離は510km(WLTDモード)。給電口のフタは電動開閉。

実車を前にすると、改めてその存在感に圧倒される。全長5m、全幅2m、全高1.6m、ホイールベースは3mを超える。キャデラックの象徴ともいえる縦長のLEDヘッドライトと、ライトと一体となったウインカーと、伝統のキャデラックエムブレムが、フロントマスクを引き締めている。

左右のタテ長LEDヘッドランプはキャデラックの特徴。グリルに空気取り入れの穴が空いていないのもEVの特徴。
全長4995mmはアルファードと同じ。ホイールベースはアルファードより85mm長い3085mm。
全幅は1985mmなので、アルファードより135mmも広い。テールランプもタテ長でフロントとバランスを取っている。

室内も新世代キャデラックの雰囲気が漂っている。最初に驚くのはハンドル位置が右側ということ。オーストラリア仕様を流用しているとはいえ、日本でもキャデラックEVを定着させようというGM(ゼネラルモータース)の意気込みが感じられる。メーターパネルは33インチのアドバンスカラーLED。センターコンソールは宙に浮いているようなデザインだ。ドアパネルやフットライトは好みに応じて126色が用意されている。シートはレザーに代わる動物由来ではないサステナブルな素材を標準仕様にしている。

日本仕様は全車右ハンドル。運転者の目の前は33インチのLEDディスプレイ。使用頻度の高い機能は操作性を考慮してインパネ中央の物理スイッチで対応。
33インチのディスプレイは湾曲し、運転者ファースト。
電気式無段変速のシフトはコラム右にある。
LEDディスプレイの左半分は各種機能の設定や調整画面が表示されている。
やや高めの着座位置の前席。新開発の高密度フォームを使用。レザーに代わる動物由来ではないサステナブル素材を標準装備している。
やや低めの着座位置の後席。床面はほぼフラットで、足元は広い。座席はヒーター付。ドアパネルや足元の照明は126色用意され、好みで選択できる。
後席の背もたれは6対4で分割前倒しできる。操作は荷室手前のスイッチで電動可倒。戻しは手動。
シフトレバーもなくスッキリとしたセンターコンソール。大小のカップホルダーはアメリカ車のおきまり。

ひと通り操作の確認をして街中に乗り出す。大型客船が岸壁を離れるように、静々とリリックが動き出す。

まずは、ドライブモードを「ツーリング」に。乗り心地も操縦性も過激な動きはなく、高級車らしい振る舞いを体感させてくれる。「スポーツ」モードに切り換えると乗り心地は硬さを感じ、操舵感も重く、直進性が強くなる。前後輪の駆動力は、雪道など悪条件になるほど、ありがたみを感じるに違いない。

街中で重宝したのは回生ブレーキ。3段階に回生具合を調整でき、もっとも強い回生モードであれば、アクセルオフで回生しつつ、車速が遅くなり完全に停止する。回生ブレーキの選択は左のパドルレバーで行う。

回生ブレーキは左パドルで3段階に切り替えることができる。完全停止のワンペダルも可能。

4輪駆動のEVは自重が2.65トンにもかかわらず、低速からの加速はスムーズ。タイヤからの走行音だけで加速する。走行中の室内は静かの一言に尽きる。外部からの音に対してはフロントとドアガラスは二重構造、リアガラスは5mm厚の強化ガラスを使用していて万全。この辺りのクルマづくりは大統領専用車などで造り慣れている。

安全面でも6つのカメラと6つのレーダー、12のセンサーが周囲を見張っており、あらゆる情報に対応する。

アメリカの名車キャデラックが満を持して投入した電気自動車は、最後に登場した。“大物”EVらしく、最先端の独自技術を満載した次世代ラグジュアリー電動SUVだ。

荷室は奥行950mm、左右幅1050mmのスクエアタイプ。床下には深さ290mmのサブトランクも備わる。

キャデラック/リリック スポーツ

全長×全幅×全高4995×1985×1640mm
ホイールベース3085mm
車両重量2650kg
モーター交流同期 × 2
最高出力 前/後231ps/15500rpm/328ps/15500rpm
最大トルク 前/後309Nm/0~1000rpm/415Nm/0~1000rpm
駆動形式四輪駆動
一充電走行距離510km(WLTC)   
バッテリー容量                95.7kwh
ミッション形式電気式無段
サスペンション形式前:マルチリンク式/後:マルチリンク式
ブレーキ形式前:ディスク/後:ディスク   
乗員定員5名
車両価格(税込)1100万円
問い合わせ先0120-711-276

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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