夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。水曜日は「クルマ」をテーマに、CRAZY KEN BANDの横山剣さんが執筆します。

文/横山剣(CRAZY KEN BAND)

「東洋一のサウンドクリエイター」横山剣です。「日本人の心の中にあるクルマと言えば!?」様々なご意見があろうかと思いますが、数多い国産旧車のなかでも、1968年にデビューした人気・評価ともにダントツの存在、3代目「日産スカイライン」が真っ先に思い浮かびます。「ハコスカ」という愛称で親しまれ、テレビCMなどの広告では「愛のスカイライン」という心くすぐるキャッチコピーが印象的でした。一方でレースにおける「GT-R」の活躍は目覚ましいものがあり、その硬軟両面のキャラクターがスカイラインを一躍に人気車種に押し上げました。

「ハコスカ」のなかでも、もっとも人気が高いのは「ハードトップ2000GT-R」(型式名KPGC10)。ですが、僕の好みはそれと入れ替わりで姿を消したセダンの「2000GT-R」(PGC10)、それもマニアの間では和暦から「ヨンヨン」と俗称される1969(昭和44)年式の初期型なんです。

プロトタイプスポーツ「R380」用をベースにした直6DOHC24バルブという、当時の市販車としては類のない高度な設計のエンジンを搭載した初代「GT-R」。レースでの勝利を目的に生まれたその「GT-R」のデビューレースは、1969年5月のJAFグランプリの前座レース。日産は当日の全国紙朝刊に「きょう、注目のスカイライン GPに初陣」という全面広告まで打ち、必勝を期して8台もエントリーしたのでした。

ところが、前回の「トヨタ1600GT」でも記したように、「GT-R」が圧倒的に有利という下馬評を覆して、トップでゴールしたのは高橋晴邦さんが駆った「トヨタ1600GT」。「GT-R」の最高位は篠原孝道さんの2位だったのですが、レース後に走路妨害のペナルティが課された高橋さんは3位に後退、篠原さんが繰り上がり優勝となったのでした。

「日産 スカイライン2000GT-R」4バルブDOHC直列6気筒の「S20型エンジン」を搭載していました。

いささかほろ苦い勝利ではありましたが、そこから49連勝という金字塔を打ち立てた初代「GT-R」の、記念すべき1勝目を飾った篠原さんは、1973年に富士のGT、74年にツーリングカーでシリーズチャンピオンを獲得。レース活動と並行して、神奈川県大和市で「ピットロード」というカーショップを経営していました。中学生だった僕は、レースへの強い憧れもあり、当時住んでいた横浜市戸塚区から1時間半ぐらいかけて、そこに通っていたのです。しかも自転車で(笑)。

といっても中学生ですから、買えるものといえばステッカーくらい。後は店の一角にあったカフェスペースでコーヒーやコーラを飲んで過ごしました。さぞかし迷惑な存在だったでしょうが、篠原さんはそんな僕の求めに応じてレースの話を聞かせてくれたのです。ある日、意を決して「弟子にしてください」とお願いしましたが、あえなく却下。でもレースに憧れる僕の気持ちを汲んで、あれこれ便宜を図ってくれました。レース開催日の前にあらかじめ連絡しておくと、富士スピードウェイのメインゲートの前で僕を拾って、いっしょに入れてくれるんです。その上サーキット内のどこにでも入れるオフィシャルパスまで用意してくれるなど、本当に可愛がっていただきました。

「GT-R」にはとても手が届きませんでしたが、「ハコスカ」の「GT」、それもセダンではなくハードトップなら所有したことがあります。20歳を過ぎてクールスRCのメンバーになったときに、「ベレット1600GT」を買うつもりで中古車店に行ったんです。ところがいい「ベレG」がなかったので、「スカG」を買ってしまったという(笑)。「ハコスカ」には珍しく、黒にオールペイントされていたところに一目惚れしたんです。シングルキャブのL20は快調で、瞬発力はないけれど粘りがあって、これはこれでいいエンジンだと思いましたね。

「GT-R」を初めて運転したのは10年くらい前。前回の「トヨタ1600GT」と同様、ある自動車雑誌の企画で試乗したんですが、それが大好きな1969年式のセダン「GT-R」だったのです。オーナーは内田幸輝さんという、ハコスカ好きが高じて江東区で「VICTORY 50」というハコスカ専門ガレージを営む方。彼の愛車だけあって、すばらしいコンディションでした。

内田さんの「GT-R」で参加した耐久レース。最高のコンディションで臨むことができました。

それから数年後、「ロータス・エラン」の回で紹介した、湘南ヒストリックカークラブが大磯ロングビーチで主催するジムカーナに参加した際に、その内田さんと再会したんです。雑談中にレースに出てみたいと口にしたところ、「だったら、ウチでクルマを用意するから」と言ってくれて。そこから話が進んで、レジェンドドライバーの桑島正美さん(「BMW2002tii」の回参照)と内田さん、そして僕の3人で、筑波サーキットで開かれるクラシックカーの60分耐久レースに、セダン「GT-R」で参加することになったんです。いまから2年前のことでした。

【次ページに続きます】

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