向精神薬とは別のメカニズムで
現在、よく処方されている睡眠導入剤の「ハルシオン」や短時間作用型の「デパス」などは、向精神薬の一種です。脳の中枢神経に作用することで眠りやすくするのですが、それゆえに副作用も心配されます。報告されている副作用のひとつは、脳のホルモン分泌に関わる部分に傷がつき、ホルモン分泌が乱れることによる全身トラブル。脳梗塞や糖尿病などの生活習慣病との関連や、うつ病、アルツハイマー病のリスクが高まることもわかっています。
より安全な睡眠薬への需要は高く、開発が続けられています。近年、より安全性の高い新薬も発売されていますので2つご紹介します。
●メラトニン受容体作動薬
メラトニンは別名「睡眠ホルモン」などと呼ばれる、概日リズム(体内時計)を調整するホルモンです。夜、暗くなると分泌量が増え、自然な眠りに導きます。そのメラトニンの作用を高めて、眠りを得ようという薬です。
2010年に発売された「ロゼレム」(成分名ラメルテオン)がそれです。もともと眠りに関わるホルモンに働きかけているという点では安心感があります。
アメリカではメラトニンの催眠効果は以前から知られ、ドラッグストアでも購入できます。副作用や依存性もないとされ、安全性にはすぐれています。ただ、肝腎な眠れる効果は「弱い」という評価が聞かれます。
●オレキシン受容体拮抗薬
2014年に日本のMSD株式会社から発売された「ベルソムラ」(成分名スボレキサント)は、オレキシンという覚醒と関係のある脳内物質をブロックすることで、睡眠モードを優位にします。
睡眠障害のひとつにナルコレプシーという病気があります。日中、急な眠気に襲われてしまう睡眠発作を起こす病気で、眠り病などと呼ばれています。この病気の原因のひとつがオレキシンの欠乏です。このことからオレキシンを脳内でブロックすると眠くなることがわかります。
発売してまだ5年ですが、今のところ特に副作用は報告されていません。ちなみに「ベルソムラ」を飲んでナルコレプシーが生じることはないことは、発売前の研究で確認済みだそうです。
この薬は脳の覚醒を司る物質を直接ブロックするため、他への影響が少ないという点で、安全性が高いといえます。血中濃度も1〜3時間で下降していくので、入眠障害から中途覚醒まで、幅広くカバーできます。
安全性が高い睡眠薬が発売されたのは喜ばしいことです。医師にとっても使い勝手がいいので、“とりあえず”処方される睡眠導入剤としてもの第一選択薬になる可能性があります。
ただ、発売5年というのは、まだまだ安心できる年月ではないこともつけ加えておきたいと思います。
宇多川久美子(うだがわ・くみこ)
薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『薬は減らせる!』(青春出版社)。
構成・文/佐藤恵菜