テレワークで肩痛、腰痛。頼る薬はやっぱり「痛み止め」でいいのか?|薬を使わない薬剤師 宇多川久美子のお薬講座【第28回】テレワークや外出自粛によって蓄積する運動不足。椅子に座っている時間も長くなって気がつけば猫背。そんなこんなで肩痛、腰痛を発症している人が多い今日この頃。散歩に出る、ストレッチするそれが第一。しかし今ここにある痛みをまずなんとかするには? そのとき頼れるのは、どんな薬なのか。

消炎剤と解熱剤は同じNSAIDs

肩凝りや腰痛に使うテープ剤について当連載第6〜7回で取り上げ、その中でNSAIDs(エヌセイズ)についてご説明しました。NSAIDsとは非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)の総称。身近な貼り薬(テープ剤)ですと、ロキソプロフェン(「ロキソニン」)、ジクロフェナク(「ボルタレン」)、フェルビナク(「フェイタス」)といった成分がNSAIDsです。

この薬は肩こり、腰痛などの炎症を緩和するだけでなく、頭痛、生理痛などの痛み止めとして、また解熱剤として使われています。たとえばかぜ薬に多く見られるイブプロフェン、アスピリンなどもNSAIDsの仲間です。ドラッグストアの棚に並ぶ製品の中にNSAIDsはかなりたくさんあるわけです。ちなみに、解熱剤としてよく使われるアセトアミノフェンは、抗炎症作用がほとんどありませんのでNSAIDsには分類されません。

それほどポピュラーな薬なら安全性も高いだろうと思われるかもしれません。もちろん市販薬には安全量のNSAIDsしか配合されていませんが、「飲みつづけても安全」という薬ではありません。むろん、どの薬も飲みつづけてはいいものではありませんが、特にNSAIDsは常用することで弊害が出やすい薬であることを強調しておきたいと思います。

NSAIDsを飲みつづけることの代償

NSAIDsの主な効果は、痛みの発生元になるプロスタグランジンE2という成分の生成を抑えることです。プロスタグランジンE2には、体温上昇を促進する働きもあるので、NSAIDsには解熱作用もあります。

肩凝り、腰痛に貼るテープ剤には「消炎剤」と表示されていますが、解熱作用もあります。ただ、平熱時にNSAIDsのテープ剤を貼っても熱を下げる作用はないとされています。

さてこれだけの有用な効果のあるNSAIDですが、今回はNSAIDsが生成抑制するプロスタグランジンに注目します。痛みの発生元というとワルモノのように思われるかもしれませんが、私たちの身体にとって重要な働きをしている成分です。その作用は多岐にわたり、たとえば胃粘膜液分泌の増加、血管の収縮、拡張、利尿作用などです。

消化活動のために分泌される強酸性の胃液のバランスをとるのに欠かせないのが胃粘膜です。胃粘膜から分泌される胃粘液が胃壁を守ってくれます。ロキソニンなどNSAIDsが処方されるとき、胃薬をいっしょに出されますが、それはNSAIDsによってプロスタグランジンの生成が抑えられ、胃粘膜液の分泌が減るため、発生するかもしれない胃痛に備えて処方されるのです。

次に、プロスタグランジンは血管の拡張、収縮に関わり、血流をスムーズにする働きがあります。プロスタグランジンの生成を抑制するということは、当座の炎症や痛みを止めるには有効ですが、長い目で見ると血流を悪くしてしまうことにつながります。

肩凝りや腰痛の要因のひとつは血流が悪くなっていることです。テレワークで座っている時間が長くなること、運動不足、どれも血流の悪化につながります。それが原因で生じる肩凝りや腰痛を治すためにNSAIDsを貼る、あるいは飲むことによって、一時的に痛みは緩和すると思いますが、飲みつづけることで逆に血流が悪くなってしまいます。これが貼りつづけても飲みつづけてもいけない理由です。

そのほか、薬の添付文書にも載っていますが、プロスタグランジンの生成を抑制することで起こりえる副作用はひとつふたつではありません。胃痛をはじめ吐き気、食欲不振、潰瘍、下痢、頭痛、めまい、錯乱、ネフローゼ症候群、肝不全、血小板活性化阻害などをはじめ、まだまだ書き切れないほどあります。それだけプロスタグランジンは私たちの体には重要な働きをしているのです。

2週間以上、使いつづけるなら医師に相談を

NSAIDsを飲みつづけたり、貼りつづけたりしている方は少なくありません。しかし、もしそれが2週間以上続いているとしたら、それは薬を飲むことで血流を悪くしているかもしれないのです。一度、医師と相談してみることをおすすめします。

今すでに起きているつらい肩凝りや腰痛にNSAIDsが有効なことは確かです。貼り薬でも飲み薬でもいいでしょう。薬と人にも相性があります。「ジクロフェナクが効く」という人もいれば、「フェルビナクが一番」という人もいます。種類によって胃痛が出たり、出なかったりということもあります。自分に合うNSAIDsを知っておくとよいでしょう。

そしてつらい痛みが少し落ち着いたら、ウォーキングやストレッチなど、とにかく体を動かしましょう。姿勢も意識して猫背を治しましょう。自分の力で血流を良くすること。それが一番の痛み軽減策になるのですから。

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『血圧を下げるのに降圧剤はいらない: 薬を使わない薬剤師が教える』(河出書房新社)。

 

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