今年も暑い夏がやって来ます。この季節、気になるのが熱中症。今年は特に外出時のマスク装着により、より暑さや熱を感じるのではないかと懸念されます。熱中症、脱水症状に有効とされる経口補水液は、熱中症の予防にも有効なのでしょうか?
経口補水液は電解質の甘しょっぱい水
経口補水液とは、素早く水分を吸収できるよう作られた電解質とブドウ糖を含んだ水です。
電解質はイオンとも呼ばれますが、水に溶けると電気を通す物質のこと。ナトリウムイオンやカリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどがそうです。電解質は私たちの身体の中で細胞の浸透圧の調整、筋肉や神経細胞の働きに関わる重要な役割を果たしています。
経口補水液は、激しい下痢などで脱水症状を起こした場合も小腸から吸収されることから、点滴による水分補給ができない途上国で重宝され普及しました。経口補水療法と呼ばれ、今では世界中で用いられています。
経口補水液は薬品ではありません。ドラッグストアや薬局だけでなく、スーパーでも売っています。価格はスポーツドリンクなど清涼飲料水と比べるとざっと2倍ほどします。スポーツドリンクとの違いは、ひと言で言えば、電解質の含有量の違いです。たとえばスポーツドリンクにもナトリウムやカリウム、マグネシウムなどが入っていますが、脱水を補うのに十分な量ではありません。
熱中症予防には清涼飲料水で十分
健康な状態で経口補水液を口にすると「しょっぱい」と感じるはずです。経口補水液はあくまで脱水時に飲むべきものなのです。薬局やドラッグストアでよく見かける「OS−1」(大塚製薬工場)の成分表には、100mlあたり食塩相当量0.292g(ナトリウム115mg)、ブドウ糖1.8gと表示されています。一方、「ポカリスエット」は100mlあたり食塩相当量0.12g、炭水化物(糖分)6.7gです。
一般の清涼飲料水より価格が高いせいか、経口補水液を「高級な水」と思って、夏になるとふだん飲みする方もいらっしゃるようですが、それはおすすめできません。経口補水液をふだんから飲んでいても熱中症予防にはならないからです。それに経口補水液には食塩に相当する成分が0.3%入っているので、塩分の摂りすぎになってしまいます。特に高血圧気味の方や治療中の方は注意が必要です。
熱中症の予防には水やお茶、一般の清涼飲料水で十分です。
ただしカフェインには利尿作用があるため、お茶や紅茶、コーヒーなどカフェインを含む飲み物を飲み過ぎると、トイレに行く回数が増えるかもしれません。ふだんからお茶やコーヒーを愛飲している方は慣れもあるかと思いますが、カフェインに利尿作用があることを覚えておいてください。補足するなら、アルコールにも利尿作用があります。お酒をたくさん飲んだ翌朝、喉がカラカラに渇いていることはありませんか? 「ビールで補水している」ことにはならず、かえって脱水を引き起こすことになりますのでご注意を。
また清涼飲料水の糖分に注意してください。コーラやコーヒー飲料、紅茶飲料をはじめとしたソフトドリンクには多くの糖分が含まれています。原材料表示には「果糖・ブドウ糖液」と書かれているものが多いです。たとえば「コカ・コーラ」には100mlあたり11.3gの糖分が含まれています。夏場は特に炭酸飲料がおいしく感じられますが、たまたまぬるくなった炭酸飲料を飲むと、ものすごく甘いことがわかりますよ。熱中症予防とはいえ、甘い清涼飲料水の飲み過ぎは糖分摂り過ぎにつながります。
喉が渇く前に飲む
熱中症の予防には、こまめな水分補給が一番です。コツは、喉が渇く前に飲むことです。
人間は1日に約2.5リットルの水を必要とします。このうち飲み物から摂る水分は約1.2リットル、食事に含まれる水が約1リットルです。そのため食事の量や回数が減ると、取れる水分量も減ってしまうことになります。夏場になると食欲が落ちることがありますが、それが栄養不足とともに水分不足にもつながるのです。
特に、高齢者は身体の水分量が若い人より少なくなっているので注意が必要です。喉が渇いても気づきにくい、食事の量が減って食事からの水分補給量が減るなどの理由で脱水症状になりやすくなります。本人が脱水症状に気がついていないことが多いので、周りの人が注意してあげる必要があるでしょう。
また今年は、新型コロナの感染予防で外出時にマスクをすることが求められています。どなたも夏の暑い最中にマスクをして過ごすというのはあまり経験がなく、なかなか大変なことではないかと思います。マスクにもよりますが、熱が口元にこもって逃げにくくなり、体温調節に影響があるのではと心配しています。息苦しさを感じたら、人けを避けてマスクを外すなど、臨機応変に対処しましょう。
熱中症予防にいちばん大切なことは、自分の身体の声を聞くことだと思います。ちょっとした異変、不調を感じたらそれが熱中症の兆しかもしれません。自分の身体の声を聞く耳を研ぎ澄ませておきたいものです。
最後に経口補水液は自分で作れます。「水1リットルに食塩3g」を入れれば、電解質は十分です。飲みやすく、電解質が吸収されやすくするために砂糖40g加えます。これで簡易経口補水液の出来上がり。なお、飲むときはひと口ずつ、ゆっくり飲みましょう。お年寄りや子どもに飲ませる時も同じです。
宇多川久美子(うだがわ・くみこ)
薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『血圧を下げるのに降圧剤はいらない: 薬を使わない薬剤師が教える』(河出書房新社)。