最近、どうも眠れない……。立ち上がるときに膝が……。胃もたれがする……。外出機会が減り、テレワークのストレスや運動不足のせいで体調不良が起きても不思議ではありません。サプリメントを試してみようかという方も少なくないようです。
サプリメントも体にとっては異物
私は薬を使わない薬剤師として各地で講演していますが、話を聞いてくださった方から「薬は怖いのでサプリメントを飲んでいます」とよく言われます。
サプリメントの有効性についての質問も多くいただきますが、自分に足りない栄養素をサプリメントで補うという考えは合理的であると思います。しかしあくまで一時的に頼るものであって、常用するものではないと考えています。
サプリメントの多くは錠剤やカプセルですが、その形に成型するのにさまざまな添加物が使用されています。
天然の材料から栄養素を抽出しているものは稀ですし、当然価格も高額になります。低価格で販売されているものの多くは、栄養素はビタミンBやビタミンCやヒアロルン酸であっても、あくまで化学合成物であり、体にとって“異物”である点は薬と同じです。異物を消化するには、それなりの負担を体にかけることになります。
健康意識が高く、ふだんは無農薬でつくられた有機野菜を食べている人が、一方で化学合成されたサプリメントも愛用している。また、農薬を使って栽培された野菜を食べるより、無農薬野菜を原料にしたサプリメントのほうが安全と言って、野菜を食べるよりサプリを愛用している人もいます。どちらも本末転倒だと私は思います。たとえ農薬を使った野菜でも、それは太陽の恵みを受けて成長した生命力をもった自然の産物です。
天然由来でも安い商品は要注意
とはいえ、サプリメントに頼らざるを得ないという方もいらっしゃいます。サプリメントを使いたいという方もいるでしょう。その場合は、できるかぎり天然由来の成分を使った商品を選んでいただきたいと思います。
天然由来というのは、たとえばビタミンCならアセロラとかレモン、ビタミンBなら米ぬか抽出物など、自然のものから抽出されたものです。そうした成分を原料にしている製品は、必ずパッケージにそのことが記されているはずです。
ただ、それが「本当に天然物かどうか」「全量、天然物由来なのかどうか」を疑う目は必要だと思います。単に「天然素材」「自然由来の成分」とだけあって、具体的な素材名が記されていない製品もあります。
方法としては商品の説明をしっかり見る、メーカーに問い合わせてみるといったことしかありませんが、一目でわかるものとしては価格です。たとえば、天然由来の素材を使っているのに1袋数百円といった商品です。前述のとおり、天然由来の成分を使ったサプリメントは、それなりに高額です。かと思えば、天然ではないのに天然と偽って高額で売る悪徳業者もいて、ときどき摘発されています。この業界はいたちごっこの面もあるので、だまされないためには、各人が商品を見る目を養うしかありません。
あえてプラセボ効果をねらうなら
サプリメントは食品ですから、薬のように効能効果を謳うことはできません。そのためCMに著名人や一般人を登場させて、体験談として効果をアピールするわけです。“なんだか効きそう”と思わせる、よくできたつくりです。ただし、あくまで個人の体験談であり、飲んだ人みなに同じことが起きるわけではありません。
もっとも、“これは効きそう”と思って飲めば効果が出ることもあります。プラセボ効果です。私は薬のもつ効果の半分はプラセボによるものと考えています。そう思うと「これは効く」と思って飲むサプリは意味があります。
効くと思って飲めば効く。これは薬も同じです。サプリもそればかりに頼って飲みつづけていれば薬と同じです。サプリさえ飲んでいればあなたを健康にしてくれると安易に考えないでください。あなたを健康にしてくれるのは、あなた自身の食事や運動を含めた生活習慣であり、それによって養われる免疫力であり、抵抗力です。この時期、薬同様、サプリに頼り切りの生活にならないように、バランスのよい食事、適度な運動も心がけてくださいね。
宇多川久美子(うだがわ・くみこ)
薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『血圧を下げるのに降圧剤はいらない: 薬を使わない薬剤師が教える』(河出書房新社)。