市販薬に頼りがちな痔の薬。使い続けてはいけない理由|薬を使わない薬剤師 宇多川久美子のお薬講座【第26回】長引く外出自粛とテレワークで“座りすぎ”の人が増えています。前回は便秘薬のお話をしましたが、便秘の悪化が痔の原因になることはよく知られるところ。痔は平時でも病院に行くのをためらう人が多い症状ですが、今はなおさらに受診しにくく、市販薬でなんとかしたいと思われる方が多いと思います。

症状を正確につかめないことがネックに

ドラッグストアへ行って、どの薬がいいか迷ったら、お店の薬剤師に聞きますね。症状をできるだけ正確に伝え、適切な薬を教えてもらう——-この当たり前のことが痔の薬ではむずかしいのです。自分で患部の状態を確認しづらく、その症状を正しく伝えられないからです。

痔といっても症状はさまざま。たとえば、便秘などで便が硬くなると、排便の際に肛門に圧力がかかって「きれ痔」になったり、肛門付近の血管が集まった部分がうっ血して「いぼ痔」になったりしますが、自分では、正確に判断できません。

「症状が正確に確認できない」ことを肝に銘じた上で、市販薬を使いましょう。そして、しばらく使ってみても改善しないようなら、病院で診てもらうべきです。肛門のくぼみの中に便中の細菌が入り込んで感染し、化膿してしまう「痔ろう」の場合は、皮膚の傷口がふさがっても、一旦できたトンネルはなくならず、症状が落ち着いても、痛みや腫れが再発することもあります。 10年以上治療せず放置したことで「ガン化」してしまうケースもありますので、早めに専門医を受診するよう心がけましょう。

炎症に効く“弱い”ステロイド剤が配合

痔の薬には、抗炎症剤としてステロイドが配合されています。たとえば「ボラギノール」にプレドニゾロン酢酸エステル、「プリザエース」にはヒドロコルチゾン酢酸エステルというステロイドが使用されています。ステロイドは強度によって5段階に分けられますが、いずれも弱い部類に入ります。

ステロイドには炎症を抑える作用がありますので、腫れ、かゆみを抑えます。また痔の薬にはステロイドの他に、鎮痛・かゆみ止めとして、リドカインやジブカインなどが配合されたものが多いです。

ドラッグストアでよく見かける「ボラギノール」と「プリザエース」の違いを見てみましょう。配合成分は「ボラギノール」は4種類、「プリザエース」は7種類と、「プリザエース」のほうが多くなっています。見比べますと、「プリザエース」には塩酸テトラヒドロゾリンという止血剤と、l-メントールという成分が入っているのが特徴といえそうです。止血剤が入っているので、出血を伴う症状には有効でしょう。

l-メントールは、塗るとスッとする成分で、市販の貼り薬や目薬、胃薬、かゆみ止めなどによく配合されています。直接に症状を治す薬効はありませんが、かゆみを伴う場合などはスッとする爽快感が人気の成分です。しかしこの爽快感は刺激にもなります。痔のような炎症を起こしている部位に刺激を与えることになるので注意が必要です。

ちなみに「ボラギノール」シリーズには「ボラギノールM」というステロイドが入っていない薬と、「ボラギノール内服」という飲み薬もラインアップされています。ステロイドを含まない「ボラギノールM」は、「プリザエース」や「ボラギノールA」と比べて炎症を抑える作用が弱いため、症状の軽い方にお勧めです。また、ステロイドの使用に抵抗があるという方も「ボラギノールM」を検討されるといいでしょう。「内服」にもステロイドは入っておらず、血行を促すための生薬成分が入っています。外用薬の使用には抵抗がある方や、外用薬を補強するためにいっしょに服用したいという方向けです。

痔ろうにステロイド剤は禁物

いちばん気をつけていただきたいのが痔ろうです。痔ろうは肛門内部にできた細菌感染による化膿です。

治療せずに放置し、悪化させてしまうケースがあることをはじめに述べましたが、自己判断でステロイド剤が入った薬を使うことが悪化の原因になることがあります。

ステロイド剤は炎症を抑制してくれますが、体の免疫力も抑えてしまうのです。細菌感染しているのにステロイドを使ってしまうと、免疫力が落ちてしまい、感染が抑えられません。ですから痔ろうなのに、それとわからず、上記のような市販薬を使い続けると、改善しないばかりか悪化するおそれがあります。市販薬を使ってみて改善しない場合、なるべく早く医師に診てもらう必要があるのは、こういうことがあるからです。

テレワークと外出自粛で座っている時間が増大していることと思います。座っている時間が長ければ長いほど、お尻周辺の血流が悪くなり、うっ血し、それが痔の原因になります。特に自宅では、リビングのローテーブルにパソコンを載せ、床に直座りしてパソコンに向かう……そんな体勢の人も多いのではないかと想像します。この体勢でジッとしているとお尻も凝りますし、姿勢が猫背になって肩も凝りますね。30分に一度は立ち上がってお尻の筋肉をほぐしましょう。そして1日1回、なるべく人気のない時間を見つけて、外に出て歩きましょう。その際、肩甲骨をグッと後ろに引きながら歩くと、肩まわりの筋肉もほぐれますよ。

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『血圧を下げるのに降圧剤はいらない: 薬を使わない薬剤師が教える』(河出書房新社)。

 

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